山崎まゆみ(やまざき まゆみ)
新潟県長岡市出身。温泉エッセイスト、跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学温泉文化論) 33カ国1000カ所以上に入湯。国や地方自治体の観光政策会議にも参画。著書に『温泉ごはん』『ひとり温泉 おいしいごはん』(ともに河出文庫)ほか多数。
温泉は生き物だ。
降雨量や降雪量によって翌年の湧出量は変わるし、地震によっても湧出の状態に影響が出る。東日本大震災の直前、東北の温泉地で「透明だったお湯が黒く濁った」「急に枯渇した」といった話を聞くにつけ、温泉は生きていることを実感する。
だから私はいつも温泉に「ごきげんよう」と語りかけ、お湯と存分に語らう。そして自分と最も相性のいい「マイ温泉」を探す。
温泉の泉質は10種類。ただ大枠で分けているだけで、同じ泉質でも源泉が違えば感じかたも若干異なる。入浴して分析表を眺め、泉質やpH(水素イオン濃度)等を確認して「マイ温泉」を見つけることが大切だ。
それでは泉質を人のキャラクターに例えて解説してみよう。あくまで主観です。
※各温泉の【特徴】と【主な効能】については、環境省等が公開している資料をもとに編集部が作成。
やさしい、癒やし系の「単純温泉」
そばでやさしく癒やしてくれる。強烈な個性もないが、害もない。自己主張はせず、そっと静かに肌に寄り添う。
ミネラル成分をバランスよく含んでいる。ただpH(水素イオン濃度)が高い場合、肌の角質を溶かす過程でぬるぬる感がある。湯上がりに保湿は欠かせない。癒やし系ゆえ、お年寄りから子どもまで安心して入浴できる。
【特徴】
アルカリ性単純温泉水はpH8.5以上。1kg中の温泉成分が1g以下で、泉温が25度以上の温泉。刺激はマイルド。
【主な効能】
自律神経不安定症、不眠症、うつ状態
羽毛布団のような温かさの「塩化物泉」
“包容力のある人”。まるで温かい羽毛布団のよう。
塩分濃度の高いお湯に入ると温熱効果で血流がよくなり、ぽかぽかに。皮膚に塩の膜を張るため、湯上がりも熱を逃がさない。冷え性の方にすすめたい。
【特徴】
食塩を含む温泉で「熱の湯」とも呼ばれる。皮膚についた塩分が体をコーティングして、体温が発散するのを防ぐ。
【主な効能】
きり傷、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症
働き者の「炭酸水素塩泉」
キレイ好きでもあり、お掃除系とも名づけたいこの泉質。働き者である。
肌の汚れや古い角質を落とし、入ったあとは石鹸を使ったようなすべすべに。汚れを洗い流したい人におすすめ。
【特徴】
大半が重曹を含むナトリウム- 炭酸水素塩泉。皮膚の角質をやわらかくするため、肌がつるつるになる。
【主な効能】
きり傷、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症
さわやか「二酸化炭素泉」
“シュワシュワシュワさわやか系”。別名炭酸泉。
入浴中に肌に泡が付くのは、お湯に二酸化炭素が溶け込んでいるから。血行促進効果によりリフレッシュするので、気分転換したい方へ。
【特徴】
入浴すると肌に小さな気泡が付く。二酸化炭素は肌から吸収され、血管を広げるので血圧が下がり、心臓の負担が軽くなる。
【主な効能】
きり傷、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症
ソフトな「硫酸塩泉」
“物腰やわらかな人”。私は化粧水の湯と呼ぶ。
ナトリウム-硫酸塩泉、カルシウム-硫酸塩泉、マグネシウム-硫酸塩泉などに分類され、効能も違いがある。敏感肌の女性にも人気を博す。
【特徴】
塩化物泉同様に保温効果が大きく、傷の回復を助ける湯としても知られている。飲んで胆のうを収縮させ、腸のぜん動を活発化する。
【主な効能】
きり傷、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症
熱血漢の「含鉄泉」
ずばり“熱血漢”。金八先生が説教してくれるように熱をもって語りかけてくる。
お湯を手ですくうとずっしりと重たい。身体を浸すと、たちまち鼻の頭に汗の粒が。さらに入っていると顔中の毛穴が開いて、汗が一気に噴き出す。鉄分を多く含んでいるため、鉄分不足が原因の月経困難症に効果が高いとされている。
【特徴】
鉄分を含む刺激の強い温泉。湧出時は透明だが、空気に触れると赤褐色になる。
【主な効能】
鉄欠乏性貧血(飲用時)
まるで竹を割ったような性格の「酸性泉」
“竹を割ったようなさっぱりタイプ”。
pHが酸性を示す低い数値になればなるほど、お腹などのやわらかい肌にはぴりぴりと感じるが、湯上がりは爽快! 殺菌効果が強く、釘を湯に浸けておくと溶けてしまうほどその刺激は強い。デリケートな肌の人には要注意だが、清涼感を求める人にはおすすめ。
【特徴】
酸性が強くなると、湯が肌や目に染みることがある。殺菌作用が強く、水虫や湿疹、アトピーなどに効果が期待できる。
【主な効能】
アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症
体育会系の「硫黄泉」
“ザ・体育会系”。筋骨隆々でタフな人が思い浮かぶ。
お湯の色は時には白、時にはグレー。また季節や陽差し、温度などの環境次第で、乳白色にも黒にも変化することも。血行促進感は半端ないため、冷え性の方、温泉にパンチを求める方にすすめたい。
【特徴】
卵のようなにおいや白濁した湯、温泉成分が結晶化した湯の花などが特徴。血管を広げる作用が強く、体の芯から温める。
【主な効能】
アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症(硫化水素型については、末梢循環障害を含む)
菌をやっつける「含よう素泉」
(イソジンのような)うがい薬やヨードチンキ(きず薬)の成分が入っているため殺菌効果が期待できる。
【特徴】
水1kg中によう化物イオン10mg以上を含有するもの。よう素は活性度が強く、抗菌作用もある。
【主な効能】
高コレステロール血症(飲用時)
みんなを元気にする「放射能泉」
温泉界での放射能泉は入る者に元気を与えてくれる。
ラジウム泉に含まれるラジウムが気化してラドンとなり、入浴中に細かい粒子のラドンを吸い込むと免疫力アップに。そんなラジウム泉が湧く温泉町では健康増進に利用されている。
【特徴】
微量の放射性物質を含むが、人体への悪影響はない。尿酸の排出量が増すほか、鎮痛作用がある。
【主な効能】
高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎 など
山崎まゆみさんの「私に効いた温泉」
『下部温泉 古湯坊 源泉舘』【山梨県身延町】
単純温泉(弱アルカリ性)
腹部を手術したあと、ここで湯治した。長い時間の入浴で手術痕が徐々に回復。滞在中にゆっくり散歩し、よく食べた効果か、体力も戻った。翌週は九州へ出張できた。
『湯の沢温泉 時の宿 すみれ』【山形県米沢市】
単純温泉(低張性中性低温泉)
ガラスで右手人差し指を深く切ってしまったが、ここの湯に長く指をつけていたら、チェックアウトの頃にはポロンと皮がむけて、新しい皮膚に。
『黒川温泉 ふもと旅館』【熊本県南小国町】
単純温泉(弱アルカリ性)
長時間の座り仕事から腰痛に。ここの立ち湯に入り、腰まわりの血流がよくなったからだろうか、すっきりした。
温泉を楽しむために、気をつけたいこと
温泉には化学成分が含まれる。ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、マグネシウム-硫酸塩泉のように、主な化学成分が表記され、その含有量が高いと、濃い温泉になる。
化学成分によって効果や入浴法も異なる。保温効果が高い塩化物泉の場合、高濃度ならば早く温まるが、長湯や多数回入浴で湯あたりを起こすこともあるから注意しよう。
水素イオン濃度を示すpH値にも注目。pH値は7が中性、7を超えるとアルカリ性、7未満が酸性となる。ナトリウムやカルシウムなどを含むとアルカリ性、硫黄や塩酸、硫酸などを含むと酸性になる。
「美肌の湯」といわれるアルカリ性温泉だが、pH10を超す場合、皮膚の角質や皮脂を乳化させ流す働きがあるので長湯は避けたい。浴後はすぐに保湿を。また、皮膚疾患に効果があるとされる酸性泉は、肌への刺激も強いため、入浴後は洗い流そう。
泉質や濃度、pH値に応じて、それぞれの入浴法があるということだ。
また、持病によっては入浴や飲泉を避けるべき温泉もある。脱衣所などに掲示される「温泉分析書」に記載された「温泉の成分、禁忌症及び浴用又は飲用上の注意」を確認してから入浴しよう。水分補給も忘れずに!(編集部)
文=山崎まゆみ 写真=山崎まゆみ、PhotoAC(TOP画像)
『旅の手帖』2026年2月号より







「マイ温泉」にめぐりあうと、身体の一部がお湯に溶けだすかのような瞬間がある。この大いなる快感をみなさんにも味わってほしい。