渡辺裕美(わたなべ ゆみ)

国内外3000カ所以上の温泉をめぐる秘湯探検家。秘湯や野湯、温泉旅館を中心に取材し、各メディアで活動。著書に『絶景温泉ひとり旅 そろそろソロ秘湯』(小学館)など。
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奥山田温泉『Spa Lodge Redwood Inn』樹齢1650年、丸太露天の高原温泉【高山村】

レッドウッド材を使った丸太小屋、自家製の釜で燻製された手作りソーセージやベーコン、小鳥のさえずり……。信州にいながら、まるでヨーロッパの山岳リゾートを旅している気分になれる。

住所:長野県高山村奥山田3681-347/定休日:火・水/アクセス:長野電鉄須坂駅からバス40分の山田温泉下車、車15分(山田温泉バス停から宿泊者のみ送迎あり、要予約)

田沢温泉『島崎藤村ゆかりの宿 ますや旅館』文化財の宿で長居したい、気泡まとうぬる湯【青木村】

ここの温泉以外の魅力が、大女将の存在。90歳近い今も現役で宿を切り盛りし、白くつるつるの肌は、温泉の効能を物語るかのよう。「またいらしてね」の温かな笑顔に、思わずまた会いに行きたくなる。

住所:長野県青木村田沢2686/アクセス:北陸新幹線上田駅から車20分

扉温泉『明神館』森を映す立ち湯でぬるめ38度のほっこり時間【松本市】

温泉とともに主役を担うのが食事。自家農園の有機野菜と信州の旬が味わえる日本料理、マクロビオティックを取り入れたナチュレフレンチから選べる。温泉はもちろん、美食を目当てに訪れたい。五感を満たす上質な時間が流れる。

住所:長野県松本市入山辺8967/定休日:臨時休あり/アクセス:JR篠ノ井線松本駅から車40分(送迎あり)

『中房温泉』湯めぐりつくせぬ山の温泉デパート【安曇野市】

豊かな自然湧出泉源をもつ山のいで湯。敷地内には、温泉成分が長い年月をかけて固まり、まるで溶けたロウのような形になった珍しい天然記念物が残る。温泉だけでなく、地球の営みが生んだ造形美にも注目したい。

住所:長野県安曇野市穂高有明7226/営業時間:9:30~16:00/定休日:冬期休あり/アクセス:JR大糸線穂高駅からバス55分の中房温泉下車すぐ

木曽温泉『ホテル木曽温泉 黄金の湯』標高1020m、御嶽山を望むぬる湯の混浴露天【木曽町】

温泉は、近くにある秘湯「鹿の瀬温泉」からの引き湯。カルシウム、マグネシウムなど、成分豊富で力強い浴感が魅力。宿泊者には湯浴み着の貸し出しもあり、家族や友人同士で気軽に混浴露天風呂を楽しめるのがうれしい。

住所:長野県木曽町三岳瀬戸ノ原9-57/アクセス:JR中央本線木曽福島駅から車30分
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私の心を映してくれる信州の温泉

大の温泉好きだった我が家。学生時代から夏の旅行といえば信州で、長野の温泉には深い思い出が詰まっている。

振り返れば、人生の節目ごとに導かれ、信州の湯を目指した。元気な時は秘湯を求め、疲れた時は静かな湯に癒やされる。長野には、その時々の心と体を受け止めてくれる多彩な温泉がある。

なかでも忘れられないのが、扉温泉『明神館』の立ち湯「雪月花」。せせらぎと木漏れ日に包まれながら立ったまま湯に浸かる感覚は新鮮で、夏は水面に緑が映り込み、一枚の絵画のような美しさになる。湯船の設計、ぬるめの湯温、眺望——その細部にまで、旅人を心地よく包み込むための工夫が行き届いていることに驚かされた。

会社員時代、過労で心身のバランスを崩した時に救われたのが、高山村の奥山田温泉『Spa Lodge Redwood Inn。標高1500m、山田牧場の前に広がる自然あふれたロケーション。丸太の露天風呂に腰をかけ、乳白色の湯に身をゆだねると、温泉と自然が溶け合う感覚に心から癒やされた。

退職後、本格的に温泉に魅了された私が仲間と初めてオフ会をしたのは中房温泉だった。山の中腹に29本もの源泉を持ち、14の湯船すべてが源泉かけ流し。山肌の至るところから高温の湯と湯けむりが立ち昇る光景は、まさに温泉のデパートだった。地熱で蒸した卵や野菜のおいしさも格別だった。

同じ仲間と訪れた田沢温泉『ますや旅館』は、島崎藤村が逗留した部屋が今も残る国登録有形文化財の宿。黒光りした廊下やレトロな調度品に包まれて過ごす時間は、なんとも贅沢だった。家族湯のぬる湯は体温より少し高い絶妙な温度で、気づけば何時間も入っていた。

御嶽山(おんたけさん)へ野湯探しに出かけた帰りに泊まった、『ホテル木曽温泉 黄金の湯』も印象深い。30人ほど入れる広大な混浴露天風呂からは御嶽山を一望でき、夜には満天の星が広がる。露天風呂の灯りが消され、暗闇の中で星を見上げた瞬間の感動は、今も忘れられない。成分豊富な黄金色の湯に身をうずめながら、御嶽の大地の力を肌で感じた。

信州の温泉は、いつもその時々の私の心を映してくれる。だから今も、私は長野の湯を目指してしまうのだ。子どもの頃に家族と眺めた山並み、仲間と語り明かした夜、知られざる湯を求めて川をさまよった時間。そのすべてが長野の温泉と結びついている。私にとって信州の湯は、人生の記憶そのものなのである。

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文・写真=渡辺裕美
『旅の手帖』2026年8月号より