『大統領 本店』は満席。
しかし、“捨てる神あれば拾う神あり”
『大統領 支店』では、すぐに席に着くことができた。
まずは、あいさつ代わりの樽生ビール。
仕事終わりのビールの美味しさよ。
筋トレの後の身体が、筋肉を回復させるためにプロテインを欲するように、仕事終わりの身体はビールを欲するものだ。
ジョッキを掴む手の指の先まで、細胞レベルで喜ぶ身体の声が聞こえてくるようだ。

今日の肴は「大統領特製煮込み」
『大統領』創業当時から変わらない、“馬モツ”を使った定番メニューだ。
カウンター内の大鍋にて煮込まれた“馬モツ”に加えて、“こんにゃく”と“豆腐”、上には“ネギ”が盛られている。
“豆腐”が入ることで、グッと特別感が増すから不思議なものだ。
溶けだした良質な脂が表面に浮かんでいるが、その味わいはあっさりしている。
“馬モツ”も相まって、唯一無二な存在感を放つ煮込みだ。

しかし困った。
「大統領特製煮込み」がまだ半分近く残っているというのに、樽生ビールを飲みきってしまった。
これは「追加オーダーをしろ!」というバッカスの指令に違いない。
え?“酒場の流儀”はどうなったって?
こだわりがない男はつまらない。
しかし、料理を最大限楽しむ為には、お酒というお供も必要だ。
食べ物には、最大級の感謝の気持ちを持って向き合う。
これが私の“男の流儀”だ。

現在は“純米酒”や“吟醸酒”等に分類される日本酒も、以前は違った分類をされていた。
「特級酒(品質が優良であるもの)」「一級酒(品質が佳良であるもの)」「二級酒(特級でも一休でもないもの)」に分類された、“等級制度”というやつだ。
その等級名から“二級酒”が最も味が落ちるというのは、実に安直な考えだ。
特にこのお店では。

「二級酒 大統領」
名前に屋号がついた、【大統領】を代表するドリンクだ。
目の前にドンっと置かれたグラスに、一升瓶を持ったスタッフが豪快に注ぐ。
表面張力により、グラスの淵から酒が盛り上がっている。
味は辛口。
しかし、どこからか甘みも感じる。
やはり『大統領』には、「二級酒 大統領」がよく似合う。

こうなると、もう少し味の濃い肴が欲しくなる。
流石は『大統領』。
もう一つの名物「もつ焼き」を食べずに帰らせてはくれないか。

キラキラと輝くタレ。
甘辛く濃い味付けと、独特の食感が楽しい。
七味唐辛子を振れば、より風味が増す。
酒との相思相愛っぷりがたまらない。

店内は一段と賑わってきた。
お店の外から、店内の様子を伺う人の姿もある。
あやうく「二級酒 大統領」と「もつ焼き」のお代わりをしそうだったが、そうそうバッカスの言いなりにはなっていられない。
もう少し飲んでいたいときに席を立つのが、私なりの“酒場の流儀”。
私は「二級酒 大統領」をお代わりするお客さんの声に後ろ髪をひかれつつ、お店を後にした。