酒場には酒場の、何人も犯すことのできない掟がある。
『鯉とうなぎのまるます家』のルールは“お酒は1人3杯まで”というもの。
無論、酒場では1杯1皿に手中するという“酒場の流儀”を持つ私の前では、この掟は気にする必要のないものだ。
もちろんその1杯は、樽生ビール。
ジョッキのサイズについては少し迷ったが、「鯉のあらい」を食べると決めていたので、バランスを考えて、サイズは「小」をオーダーした。
「小」といっても、他の店では「中ジョッキ」のサイズだ。

鯉の刺身を食べたことはあるだろうか?
鯉の鮮度によほどの自信がないと、生の刺身は提供できない。
『鯉とうなぎのまるます家』では「鯉生刺」も食べられる。
鮮度に自身がないと提供できない代物だ。
今日は訪問前から決めていた「鯉あらい」をオーダーした。
コリコリした食感がクセになる、「鯉生刺」と並んでオススメの逸品だ。

しまった。
適度に炭酸を抜きつつ注がれた樽生ビールの“喉ごし”が爽快で、ペース配分を誤ってしまった。
これは「追加オーダーをしろ!」というバッカスの指令に違いない。
え?“酒場の流儀”はどうなったって?
こだわりがない男はつまらない。
しかし、こだわりが強すぎる男は自らチャンスを逃している。
男はもっと柔軟であるべき。
これが私の“男の流儀”だ。

そうそうこの泡。
現在は、ビールが泡立たないようにゆっくり注いで、その上にキメの細かいクリーミーな泡を乗せるという注ぎ方が主流だ。
しかし、ビールを注ぐと同時に泡を作るように注ぐ方法もある。
ビールの液体から適度に炭酸が抜け、ビールを飲んだときの爽快感が増す。
何杯でもお代わりしたくなってしまう一杯だ。

「牛すじ煮込み」は、牛すじ、大根、人参、牛蒡に生姜、そして豆腐。
上にはネギが乗せられている。
形が崩れた具材が、その煮込まれっぷりを物語っている。
中でも大根の大きさが、文字通り存在感は抜群だ。
味噌ベースだが、濃厚さよりもすっきりさが際立つ味わい。
牛すじの旨味も相まって、最後の一滴まで飲み干したくなる、というか飲み干してしまう。

こうなるともう一つの名物・うなぎも食べたくなってくるが、一人、酒場で飲むときに長居は無用。
強欲な男の末路に、幸せはない。
もう少し飲んでいたいときに席を立つのが、私なりの“酒場の流儀”。

取材・文・写真 / 美味いビールが飲みたい