【水道橋 スタンドヒーロー】は、ご存知、水道橋で人気の立ち飲み屋だ。
オープン直後から続々とファンが集まり、気がつけばすぐに店内は満員。
お店の外に行列ができていることも珍しくない。
店名の由来も非常にわかりやすい。
「スタンド」は、立ち飲み屋であること。
そして「ヒーロー」は、後楽園ホールや東京ドームで闘う選手たちを意味する。
対戦した猛者はもちろん、世間とも、常識とも闘い続けたアントニオ猪木は、私にとって間違いなく“ヒーロー”だ。
そんな気持ちが私をこのお店へ向かわせたのだろう。

1998年4月4日、東京ドームではアントニオ猪木引退記念イベント「ファイナルイノキトーナメント」が開催された。
愛弟子・小川直也を破り、引退試合の相手を務めたのはドン・フライを、アントニオ猪木はグラウンド・コブラツイストで仕留めた。
思い出に浸っていると、目の前に「ザ・プレミアム・モルツ」が届いた。

思い返せば、私の人生において、出会った瞬間から一度も嫌いになったことがないものが、格闘技とビールの2つだった。
気泡一つない澄み切ったジョッキに、キメの細かいクリーミーな泡。
手入れの行き届いた樽生ビールを提供してくれるお店も、私にとっては“ヒーロー”である。

程なくして「ハムカツ」も届いた。
メニューを見ることなくオーダーしたこのお店の名物。
サクッとした衣の軽い食感と分厚いハムが人気の「ハムカツ」は、【水道橋 スタンドヒーロー】に来たら食べずにはいられない。

余談であるが、私は試合会場以外で一度だけアントニオ猪木に遭遇したことがある。
その身体は、試合会場で見るそれ以上の大きさだった。
ファンサービスも旺盛なアントニオ猪木は、その人柄も人一倍大きかった。
分厚い「ハムカツ」を噛みしめつつ、そんなことも思い出した。

何気なく店内の黒板を眺めていたら、私は衝撃のメニューを見つけてしまった。
これまで1杯1皿に集中してきたばかりに、私がとんでもないメニューを見落としていたのだ。
これは「追加オーダーをしろ!」というバッカスの指令に違いない。
え? “酒場の流儀”はどうなったって?
こだわりがない男はつまらない。
しかし、アントニオ猪木なら、この目の前にあるチャンスを掴みに動いたはずだ。
そして、私の“男の流儀”でもある。

私が見逃していた衝撃のメニューとは、「マカロニポテトさらだ」!
ポテトとマカロニを、卵がうまい具合にまとめ上げている逸品だ。
「マカロニサラダ」と「ポテトサラダ」といえば、数あるサラダの中でも酒呑みがこよなく愛する2トップ。
いわば、プロレス界でいうところの「馬場と猪木」。
否、現実に目の前にある時点で、キックボクシング界の「武尊と那須川天心」と表現すべきか!?
そういえば、この2人の夢のカードが実現したのも、東京ドームだったっけ。

兎にも角にも、アントニオ猪木が日本の格闘技界に与えた影響は大きい。
アントニオ猪木がいなければ、現在の日本の格闘技界はあり得ないということは、現役で活躍中のファイターやプロレスラー、関係者たちが証明している。
飲み干していったジョッキには、アントニオ猪木の残した功績のごとくはっきりとエンジェルリングが残っていた。

今日は少し酔っ払った。
美味いビールが飲めたことだし、そろそろ私も前を向いて進んでいこう。
もう少し飲んでいたいときに席を立つのが、私なりの“酒場の流儀”。