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【九谷焼】深く鮮やかな「五彩」が器に物語を映し出す

牡丹と蝶の意匠をまとったカップ。金彩が上品な赤絵と深みのある青九谷、各7700円。
牡丹と蝶の意匠をまとったカップ。金彩が上品な赤絵と深みのある青九谷、各7700円。

石川県を代表する伝統工芸、九谷焼。その金沢唯一の窯元が、にし茶屋街からほど近い住宅街に佇む。

明治3年(1870)に小松市で創業した『九谷光仙窯』は大正時代に金沢へ移り、以来150年以上、窯の火を絶やさず守り続けてきた。分業が主流の九谷焼において、成形から上絵付まで一貫して手がけ、国内外での受賞も多数。

皇室ご来駕(らいが)の折には御前(ごぜん)制作も行い、確かな技術をもつ名窯として知られる。

草花や鳥をモチーフにした、伝統的な図柄を描く大皿の色彩と大胆な構図に魅了される。
草花や鳥をモチーフにした、伝統的な図柄を描く大皿の色彩と大胆な構図に魅了される。

九谷焼の特徴は「五彩(ごさい)」と呼ばれる緑、黄、赤、紫、紺青の5色で施す絵付。立体的な器に和絵具を塗り重ねることで、奥行きと迫力が生まれる。だが、5代目の利岡(としおか)光一郎さんは「感じ方は人それぞれで自由」と、魅力を声高には語らない。

根底にあるのは、使い手に寄り添うものづくりだ。「もう少し大きいものがほしい」など、訪れる客の声に丁寧に耳を傾け形にし、進化を続けてきた。「全工程をここで完結させているので、ニーズに合わせ柔軟に対応できるのは大きな強み」と利岡さん。

九谷焼の未来を問うと「本物だけが残る」と、静かな自信を感じる言葉が。華やかさの裏にある、ひたむきで誠実な手仕事。一生ものとして愛したくなる価値が伝わってきた。

ろくろに静かに向き合う5代目の利岡さん。解説を受けながらの工房見学もできる(要予約)。1グループ1万1000円。
ろくろに静かに向き合う5代目の利岡さん。解説を受けながらの工房見学もできる(要予約)。1グループ1万1000円。

茶碗やカップを選んで自分だけの一点を!

実際の作品と同じ素材で楽しめる本格絵付体験(要予約)も好評。2200~6600円(送料別)。
実際の作品と同じ素材で楽しめる本格絵付体験(要予約)も好評。2200~6600円(送料別)。

『九谷焼窯元 九谷光仙窯』店舗詳細

住所:石川県金沢市野町5-3-3/営業時間:9:00~17:00/定休日:無/アクセス:北陸新幹線金沢駅からバス26分の野町駅下車、徒歩1分

【加賀水引】心を込めた結びに宿る、想いのかたち

knot あわじダイヤ 7700円(右)、knot 花スパイラル8800円(左)。軽やかでどんな装いにもなじむ。
knot あわじダイヤ 7700円(右)、knot 花スパイラル8800円(左)。軽やかでどんな装いにもなじむ。
末永い縁を願い、鶴や亀などが結ばれる結納の水引。凛とした気品と美しさを宿す。
末永い縁を願い、鶴や亀などが結ばれる結納の水引。凛とした気品と美しさを宿す。

結婚や結納などの人生の節目に寄り添う伝統工芸、水引。その歴史に革新をもたらしたのが、大正6年(1917)創業の『津田水引折型(おりかた)』だ。

初代・津田左右吉(そうきち)は平面的だった水引を立体造形へと発展させ、「加賀水引」として全国に知らしめた。羽を広げた鶴の躍動感、こまやかな鯛の鱗などを表現する技は、豪華絢爛で格調高く、贈答の場に格別の彩りを添えてきた。

芸術的な結びを生み出す4代目の津田宏さん。力加減や指先のこまやかな動きが仕上がりを左右する。
芸術的な結びを生み出す4代目の津田宏さん。力加減や指先のこまやかな動きが仕上がりを左右する。
金銀・紅白・色水引など、色や素材の異なる数百種類以上を巧みに使い分け。
金銀・紅白・色水引など、色や素材の異なる数百種類以上を巧みに使い分け。
やり直しが一切きかないミリ単位の美学。
やり直しが一切きかないミリ単位の美学。

一方、水引は「ハレの日だけのもの」という印象も強い。その固定観念を覆したいと、5代目の津田六佑(ろくすけ)さんと妻の沙樹さんが2019年に始動したのが、アクセサリーブランド「knot(ノット)」だ。

熟練技が光る結びをあしらったミニマルなデザインは、水引の新たな魅力を引き出す。さらに、お札を贈る包装として再定義した祝儀袋ブランド「wrap(ラップ)」も考案するなど、挑戦は止まらない。

「美しさに心が躍り、言葉を介さず気持ちを伝えられる。その水引の本質さえ崩さなければ、形にはとらわれない。伝統を守るためにこそ変わる必要がある」と沙樹さん。

「ここぞというときは津田さんで」と語る常連客の言葉には、揺るぎない信頼がにじむ。水引は人と人との縁をより強く、美しく結び直す存在なのだ。

本質を守りながら、最小限の要素でモダンに仕上げた祝儀袋「wrap」。各2750円。
本質を守りながら、最小限の要素でモダンに仕上げた祝儀袋「wrap」。各2750円。

『加賀水引 津田水引折型』店舗詳細

住所:石川県金沢市野町1-1-36/営業時間:10:00~18:00(土は~12:00)/定休日:日・祝/アクセス:金沢駅からバス15分の広小路下車、徒歩2分

【加賀てまり】一針ごとに生まれる、幾何学の宇宙

こてまり針山(左)各2200円。 美しく愛らしいフォルムが裁縫時間に彩りを添える。
こてまり針山(左)各2200円。 美しく愛らしいフォルムが裁縫時間に彩りを添える。
こてまり根付け各2750円。本物と同じ工程で極小再現したストラップ。伝統柄「二つ菊」の美てまりを暮らしに。
こてまり根付け各2750円。本物と同じ工程で極小再現したストラップ。伝統柄「二つ菊」の美てまりを暮らしに。

金沢市の中心部、尾山神社そばにある『毬屋(まりや)』は、全国でも珍しいてまりの専門店。江戸時代、徳川家康の孫・珠姫が前田家へ嫁ぐ際に持ち込んだてまりをルーツに、独自の発展を遂げたのが加賀てまりだ。

菊や桜、加賀八幡起き上がりなど、自然や文化を反映した多彩な柄にうっとり見とれる。振ると心地よい音が鳴り「よく鳴る」と「よくなる」をかけ、よい変化をもたらすという縁起物だ。金沢では娘が嫁ぐ際、幸せを願い持たせる風習も残る。

加賀八幡起き上がりてまり1万6500円(手前)。左から時計回りに。十二菊、かごめに桜、加賀梅鉢紋てまり、花のよう、金沢てまり(すべて非売品)。
加賀八幡起き上がりてまり1万6500円(手前)。左から時計回りに。十二菊、かごめに桜、加賀梅鉢紋てまり、花のよう、金沢てまり(すべて非売品)。

てまり作家の小出隆さんは、母であり第一人者の孝子さんの背中を追い、この道へ。

「幾何学模様の美しさが魅力。球体の上で図形が組み合わさり、模様ができていくおもしろさがある」。近年は従来使われなかった黒を基調とした作品や、うず潮をイメージした柄など新たな表現にもチャレンジ。

「一つ作ると、次はこうしようとアイデアが無限に湧いてくる」と、創作意欲は尽きない。

「ふと眺めたとき、心が安らぐ存在であってほしい」と小出さん。気軽に日常に取り入れてほしいと考案した、針山やストラップも人気を集める。宇宙を思わせる丸いかたちが秘めるのは、大切な人の幸せを願う温かな気持ちと手仕事の美意識だ。

綿に糸を巻き土台を整え、つややかな絹糸で一針ずつ縫い重ねる。
綿に糸を巻き土台を整え、つややかな絹糸で一針ずつ縫い重ねる。
「無心で針を進めると時間を忘れる」と、てまり作家の小出さん。
「無心で針を進めると時間を忘れる」と、てまり作家の小出さん。

『加賀てまり 毬屋』店舗詳細

住所:石川県金沢市南町5-7/営業時間:9:30~18:00/定休日:火・水/アクセス:北陸新幹線金沢駅からバス8分の南町・尾山神社下車、徒歩1分

【金沢桐工芸】桐の質感とぬくもりが生む、心地よい豊かさ

ちょこっとトレー蒔絵(千鳥・姫だるま・ひょうたん)各5500円。
ちょこっとトレー蒔絵(千鳥・姫だるま・ひょうたん)各5500円。
焼き肌に映える蒔絵が、さりげない特別感を演出している。
焼き肌に映える蒔絵が、さりげない特別感を演出している。

工芸の魅力は華やかさだけではない。日常使いで機能的な「用の美」を体現しているのが、大正2年(1913)創業、金沢桐工芸の『岩本清商店』だ。

最大の特徴は黒い焼き肌。木目が浮かび上がり、しっとりとした質感で、見た目の重厚さとは裏腹に驚くほど軽い。

かつては火鉢が主力だったが、2004年に5代目の岩本匡史(ただし)さんと姉の歩弓さん、パートナーの内田健介さんが家業を継いだことが転機に。

挽物轆轤(ひきものろくろ)での成形を担当する5代目の岩本さん。自作のさまざまな道具を使い分け、曲線美を生み出す。
挽物轆轤(ひきものろくろ)での成形を担当する5代目の岩本さん。自作のさまざまな道具を使い分け、曲線美を生み出す。
挽物以外の製作、焼きの担当は内田さん。反りや熱の入り具合を見極めながら微調整していく。
挽物以外の製作、焼きの担当は内田さん。反りや熱の入り具合を見極めながら微調整していく。

「現代の生活様式に合わないものではなく、自分で使いたいと思えるものを」。そんな等身大の視点から生まれたのが、ヒット作「ちょこっとトレー」だ。コースターとトレーを一体化させるシンプルな発想で、ささやかな余白時間を提案した。

「引き立て役ですね。のせるとおいしそうに見える。主張しすぎないのがいい」と内田さん。使い込むほど色は淡くなりツヤが増す。無地のものは焼き直しも可能で長く愛用でき、時を重ねるほどになじんでいく。

コーヒー周りの道具や卓上用火鉢など、「あったらいいな」を実現した新作も次々発表。新作の構想を絶えず練りながら、伝統を手に取りたくなるものへ。木のぬくもりを宿す品々には、しなやかな哲学が息づいている。

歴史ある町家の店舗に工房が併設。使いやすい小物に愛らしい玩具、伝統的な火鉢などが並ぶ。
歴史ある町家の店舗に工房が併設。使いやすい小物に愛らしい玩具、伝統的な火鉢などが並ぶ。

『金沢桐工芸 岩本清商店』店舗詳細

住所:石川県金沢市瓢箪町3-2/営業時間:10:00~18:30/定休日:火/アクセス:北陸新幹線金沢駅から徒歩12分

取材・文=酒井恭子 撮影=村 涼太(九谷焼、加賀水引)、西出光一郎(加賀てまり)、西鍛冶あや(金沢桐工芸)
『旅の手帖』2026年6月号より

※商品の価格は2026年4月21日時点のものです。予告なく変更になる場合があります。