ロケーション最高ラーメン
「行ってみたいラーメン屋があるんだよね」
夫にそう言われ、自宅がある横浜市から車を走らせ連れて来てもらったのは東京都町田市にある天理スタミナラーメン『西満ラーメン』。
天理ラーメンとは奈良県のご当地ラーメンだ。わたしもずっと前から食べたいと思っていたので嬉しかった。
18時頃に家を出たのだが、途中トラブルがあったり渋滞に巻き込まれたこともあって、着いたときは21時前だったと思う。
カーナビに表示されている気温は0℃。周りを見ると、道路の端にまだ雪が残っている。
そんな寒いなか、ラーメンを待つ人が屋台の前に何人も並んでいた。
わたしたちも注文を済ませ、並ぶことにした。
メニューはスタミナラーメンとやさしいラーメンの2種類あった。
ご飯もの(白米、ねぎチャー丼、たまごかけごはん)もあったが、わたしたちが行ったときはあいにく売り切れていた。
空腹だったこともあり、わたしはスタミナラーメンのなんと全部乗せを注文した。
並んでしばらくして、待ちスペースとして並べられた椅子が空いた。腰をかけ、椅子の前にある長机に腕を乗せた。つめたい。
はぁーと吐いた息が長机の上に結露となって、30秒もすると凍っていった。さきほどまで形なき息だったそれを指でなぞると、パリパリと音を立てる。それほどまでの寒さに少し引いた。そして時間の経過とともに、隣に座っている夫との会話がなくなっていった。
そんなことをしながらさらに何分か待つと、いよいよ飲食スペースに通された。
飲食スペースにはストーブが2つほどあったけど、それでもやっぱり寒いのだ。
座ってじっとしていられず、いい大人がついうろうろしてしまった。
自分より先に並んでいた人が先にラーメンをすすっているのを見て、羨ましくて泣きそうになった。
そうしてその人が食べ終わる頃、やっとわたしのラーメンが届いた。
月並みだが、「待ちに待った」という言葉はこういうときに使うものなのかと。
丼に手を添えるとかじかんだ指がほぐれ、ふわりと顔にあたる湯気が凍てつきを取り去っていくようだった。
蓮華を入れ、スープをひとくちすする。思わず「ああ…」という恍惚の声が出た。
なんて美味しいんだろうか。体の中に、じわ〜っとスープが染みていくのを感じた。
チラホラとうがらしが浮いているのが見えたが、思っていたよりもからくない。麺は細麺で、すいすいくちへ運んでしまう。味玉は割ると、とろりとした黄身が溢れ、スープに溶かすとまろやかさが増した。
何度も声を漏らしながら食べ進め、気が付けば丼の中は空っぽになっていた。
食べ終え飲食スペースの外へ出ると、心身はえも言われぬ幸福感に満ちていた。
味が美味しいのはもちろん、なによりもロケーションが最高だった。
寒いなか、初めての屋台で食べた、初めての天理ラーメンは忘れられない一杯となった。