四谷の喫茶店「珈琲・ロン」でアイスコーヒー。
日が暮れた頃に辿り着く四ツ谷。目指す喫茶店。
縦目地が並ぶ打ち放しのコンクリートの外壁とその中央に1階から2階まで伸びるブラウンのガラス窓。外壁に切文字で「Lown ロン」。その当時の強い思いと空気を発する外観。
「高橋靗一さんという有名な建築家の事務所がすぐ近くにあって、若いお弟子さんたちが飲みに来ていて。こちらのビルを建てる時、その事務所から独立する池田勝也さんに設計をお願いすることになった。」という昭和44年に建てられた喫茶店。
ガラスの扉を開けてこんにちは。マスターとウエイトレスに迎えられる。2階大丈夫ですかと伺い上る小さな螺旋階段。重厚な木製の踏面に心地よい足音。壁のしっとりとした色合いのレンガタイルを愛で2階。広がる吹き抜けを囲い並ぶ席に座る。
赤みがかる濃い茶の板張りの壁に灯る天井に付くあかり。木レンガの床に深い赤のレザーのソファーとステンのシュガーポットがのる白く薄い天板のテーブル。純喫茶の風体に散らばる繊細な設計。しっとりと温かい空間。
こつこつこつと階段を上ってくるウエイトレスさんからメニューと珈琲のカスが入る灰皿とお冷とおしぼり。アイスコーヒー(無糖)をお願いする。その後に眺めるメニューの噂のタマゴサンドにミルクセーキにクリームソーダや喫茶店のハイボールが気になる。
少しして届くアイスコーヒー。ストローを刺しチューと吸う。爽やかな程よい苦みの冷たいコーヒー。潤う喉。一息つく。しんとした空気に流れるビートルズ。沈む椅子に身体を預けぼんやりと寛ぐ。隣から燻る煙。煙草の吸える喫茶店。そういうもの。
見下ろす吹き抜けの窓越しに流れる景色を眺め、ビートルズを脳内で口づさみ、一人で静かに過ごす時間。なんだろう緩む筋肉。なんだかとても懐かしい気持ちになる。こういうところが無くなったと感じる思い。
余白に浸り、階段を下る。大切にしたい場所。ごちそうさま。