新宿駅東口から、丸ノ内線の乗り場を目指して歩くと、幅の広い地下通路「メトロ通路」に出ます。
これまた老舗の「新宿タカノ」を過ぎると、右側に見えるのでが、新宿中村屋ビルの入り口です。

新宿中村屋ビルは、メトロ通路がある地下1階にショップ、地下2階と8階に自社のレストラン、3階に中村屋サロン美術館が入ります。

このスペースの左手にエレベーターがあるので、3階に上がります。
エレベーターを降りると、冒頭の写真のような高級感のある空間が広がり、中村屋美術館の入り口があります。

中村屋サロン美術館は、写真撮影不可となっています。
訪問した日は、「コレクション展示 中村屋サロン」(2024年7月24日~2024年8月18日)という展示をしていました。

入館料は、展示によって変わるそうですが、今回は300円。地下2階のレストランマンナのデザート・ドリンクサービス券と、開館10周年の立派なしおりをいただきました。

2014年オープンの美術館は、2つの展示室を持つ、小さいけれど美しい館内でした。平日の夕方だったからか、入館者も、展示に見入っている大人が数人で、落ち着いた雰囲気。

展示の前半は、中村屋の歴史がわかるものになっていました。

中村屋の相馬愛蔵は、養蚕などの研究もする研究者肌の人でしたが、「これからはパンを食べる時代が来る」と本郷の馴染みのパン屋のパンを1日2回食べる生活をしました。いよいよパン屋を開業しようと、「パン屋を買います」と広告を出したところ、馴染みのパン屋が手をあげ、居抜きで引き継ぐ形で、パン屋をオープン。数年後に、今後の発展を見通して、新宿に移転したそう。何という先見の明!

相馬愛蔵と妻の黒光は、芸術・文化に深い理解があったので、若い芸術家が中村屋に集い、切磋琢磨しながら、それぞれの道を探りました。その様子は、後に「中村屋サロン」と呼ばれ、日本の美術史に名を残しました。

2つの展示室の展示を見ていると、中村屋で現在販売したり、レストランで食べているものの物語や、見慣れた包装紙の原画などがあって、たくさんの「そうだったんだ!」がありました。

インドの独立運動に関わって亡命してきたボーズは、夫妻の娘と結婚した人です。多くのスパイスとヨーグルトを使ったインド風のカレーを、喫茶部で出すことを提案しました。
盲目の詩人エルシェンコが、中村屋アトリエに住んだ影響で、ピロシキやボルシチを扱いました。
相馬夫妻は、中国旅行で出会った饅頭や月餅を、日本人の口に合うようにアレンジしました。

サロンに集まった芸術家のプロフィールを見ていると、多くの方が20代~40代と若くして亡くなっていることに胸を衝かれます。
印象的なエピソードを持つ方も多いです。

會津八一は、相馬夫妻の息子の早稲田中学での恩師であり、「息子を落第させことに夫妻が感謝して交友がはじまった」という。歌人・書家として知られる方で、戦後、中村屋サロンで個展を開き、そのお礼として看板の文字を揮毫したそうです。今でも羊羹の包み紙などに、文字が残されます。

中村彝( つね)は、中村屋サロンの中心的な画家で、相馬夫妻の娘・俊子をモデルに絵を製作。俊子との結婚を望みましたが、かなわず、サロンを去ります。その後も、下落合にアトリエを構えて、絵を描き続け、エルシェンコをモデルとした絵などを残しました。37歳で永眠。下落合のアトリエだった洋館も素敵な美術館になっています。

3階の窓から見ると、こんな景色。目の前は新宿通りです。展示を見終わると、頭に心もいっぱいという感じでしたが、ひらめいたのは、「中村屋のカレーを食べて帰ろう!」
入場する時に、地下2階のレストランマンナのデザート・ドリンクサービス券も貰っていたのでした。
早速、地下2階のレストランマンナで、カレーを注文。

美術館でいただいたドリンクサービス券で生ビールを楽しんでいると、6種類の薬味が来て、店の方の説明がありました。「オニオンチャツネは辛みが強く、マンゴーチャツネとレモンチャツネは独特の風味があるので、どれも少しずつお試しください」

そのあとすぐにカレーが登場。この容器の感じ、昔から変わらないのではないかなあ。薬味は、前はこんなに種類がなかったような。

カレーの味も懐かしく、おいしい。もしかすると10年振りくらいに食べたかもしれない。

美術館の展示にも、「中村屋のカレー以前の日本にあったのは、イギリス式の小麦粉が多くはいったカレー。ボーズが提案したのは、スパイスとヨーグルトを使ったインド風カレー」とありました。

私がよく中村屋のカレーを食べていた昭和50年代だって、家でもお店でもカレーはどろっとしていました。「中村屋のカレーだけ、なんでこんなに美味しいんだ?」と思っていました。

店内にも、新宿中村屋やカレーの由来が飾られていました。平日の6時という時間帯のせいか、一人客が驚くほど多かったのも、ひとりごはん多めの私には嬉しいポイントでした。

中村屋サロン美術館は、駅直結で、中村屋の濃厚な歴史と芸術に触れることができる、すばらしい美術館。帰りには、レストランやショップに寄って、中村屋を目でも舌でも楽しめます。

新宿で急に時間がができた時のおすすめスポットです。