昼すぎ13:30頃だというのに、ふいに電灯がともった。
「昼なのに、暗くなったのかな?」
驚きつつ、地上階から地下のバスロータリーへ続く階段を、息子のこうと降りているところだった。
さっきから雷が鳴ったりして、空模様が怪しい。
そんな時、すれ違い様に女性が声をかけてきた。
「あら、可愛いのね。」
赤ちゃんを連れていると、知らない人でもよく声をかけてくれる。
チャーミングな女性にありがたがっていると、女性が言った。
「あら、降ってきたわ。大変。」
「あら本当」
大変。
女性も私も、反対方向に早々と進む。
雨が強まったのはすぐだった。
まるで視界に強く線を描いたような、激しい雨だ。
屋根が頭の上にあるというのに、雨の勢いで足元から頬にかけて、ぱらぱらと雨粒が感じられる。
この雨なら降りきってしまえばすぐ止む気がする。スコール染みたその様から、私はそう予測した。
それに、こうに見せたら、興味深いかもしれない。雷に雨など、狙って子供に見せられるものでもない。
小学校に行っている娘ののどかが、帰ってくるまでに家に戻れればいいだろう。
雨宿りがてら、バスロータリーから雷雨を見学することにした。
滝のような雨の中をバスがくぐっていく。
その様を真剣に見つめる息子の表情を、私は見つめる。
娘ののどかにも、こんな頃があった。
その時は、ひたすら同じことを繰り返す娘に付き合うのが退屈でしようがなかったが、2人目のこうは、何度繰り返していても飽きないように立ち回ったり、観察することが出来るようになったように思う。
経験や慣れでもある。
のどかの赤ちゃん時代は「なんて1日が遅いんだろう?」と、楽しむことができないことが多かったように思う。「はやく大きくなれ!」くらいに思っていた。
しかし、今、のどかが小学生まで大きくなると 娘の赤ちゃん時代はなんて早かったのだろうと思う。
あっという間に大きくなって。
どうしてもっと、赤ちゃんだった彼女と楽しめなかったんだろう?
そんな後悔があった。
2人目の彼とは、彼の興味のあるものと向き合って、できるだけ一緒の目線で楽しみたい。
体調が良い日には、そんなことを思う 笑
ザワザワと、大人が中心にざわめく中。バスロータリーを歩く。
トイレの手前に、鳩が数羽休んでいる。地上床にあたる天井あたりから、水しぶきが吹き出ている。
雨のせいで排水管に圧がかかっているのか、水が大胆に漏れていた。
これこれ、外に出ないとこんなの見ないよね。
息子をなんとなく人波からかばいながら、私もしぶきを観察する。
息子の集中力が切れたところで、外の方を見ると太陽が出ているようで明るかった。それでも雨は降っている。天気雨だ。
しかしこの様子。雨があがる予想は当たりそうだ。
息子がふと止まった。ペタンッと座る。
何かな?と思ったら、排水溝の下で雨水が踊っているようだ。
川のせせらぎのような音が、道の下から聞こえてくる。
「いい音だね。」
音に耳を澄ませていると、他の子供がこうちゃんの真似をしてペタンッと地べたに座ってしまった。
いけないいけない。
自分の息子はよくても、他のお子様が困っては申し訳ない。
息子を立たせると、嬉しそうに上を見ている。
そこには地上階にある、ブロンズ像の装飾が入った天井があった。
像の周囲に、透かし模様の装飾があって、それが地下のバスロータリーに日差しを通している。光の下に立つと、もう雨は感じなかった。
「うぉー!うぉー!」
まだ言葉をもたない彼が、まだジャンプができない彼が、嬉しそうに両手を上げて足を踏み鳴らす。
「きれいだね。」
暗がりに慣れた目で見た雨上がりの空は、とてもきれいだった。
こうは、ショッピングモールへ続く階段に手をついて、床に光っている雨を確かめている。
さすがにこんな彼を連れて、お店の中を通るのははばかられるので、地上階へ続く外階段をのぼっていただくことにした。
のぼると何があった?
ショッピングモール横の植え込みの周りに、水たまりができていた。
家に帰るのは、もう少し遅くなりそうだ。
文・絵: 堺あさみ