巣鴨の『おはこ』であの頃の『東池袋大勝軒』のもりそばを思い出す。
灼熱の巣鴨。とげぬきには向かわずに『おはこ』。旧東池袋大勝軒でマスター山岸さんの元で14年修行をし、最後の店長を務めたという方のお店。
開け放たれた扉に廻る大型扇風機。こんにちはと声をかけるもぽつん。カウンターの常連さんらにどうぞと迎えられる。壁際のカウンターに座りボーと待つと、お冷が運ばれたので、『もりそば』とお願いし見上げると先ほどの常連さんの一人。
『あ、すいません』
『いや、みんな忙しそうだから』
歳を重ねた店主さんは往年の山岸さんのようにリベロ。
小さい子とお父さんとお母さん、お一人様、ビールを飲み楽しげな常連さん。その横に交じり楽しげな店主と厨房で寡黙に調理する女性ズ。
なんだかこの混沌が心地いい巣鴨。
すこしして『もりそば』。どんぶりに詰まる麺と濁りの無いつけ汁。こんなだったねと東池袋で3時間並んだ日を思い出す。
わしっと麺をつかみ、ざぶっとつけ汁に浸してズズと啜る。酸っぱいが口にぶわっと広がり、辛みとほのかな甘みが追いかけてくるさらとした汁。
白みが強い軽くねじれた中細で柔めの麺のモチモチで汁を纏う喉を通るがたまらなくしあわせ。
たわいもない家族の会話。常連さんの笑い声。なんだかほのぼのとした店内の空気。そんなものを感じながら壁を見つめ啜る麺。
細身の味が染むこりとしたメンマの食感。噛みしめるほどに旨み溢れる大判のチャーシューが2枚。固茹での玉子の崩れる黄身とただ夢中。
スープ割りを聞くのも忘れて汁を飲み干し満足するさらとした甘辛酢。
ごちそうさまとお会計。
『ありがとうございました!』と明るく大きな声で店主に見送られる。
元気をもらい灼熱に立ち向かう。