まずはじめに、大森にある『蔦八』の肉だ。ここの煮込みは、私的に〝東京三大煮込み〟に選んでいるほど絶品だが、『牛ハラミタタキ』もスルーするわけにはいかない。大胆に引き千切って盛られたのか如く、長皿の歪な肉の並びが〝肉心〟をくすぐる。ちょいレアな焼き加減が丁度良く、これが甘めのタレと肉汁とよく合う。自分が獣になった気分でガッツクのが吉。

続いて東中野にある『稼鶏酒場』の肉だ。ここは一見普通の立ち飲み屋に見えるが、そこで出される料理に驚く。カオマンガイにアチャール、ナンにスパイシーカレーなどなど、その殆どが本格エスニック料理なのだ。そしてこれがまた、どれも旨い! その中で、一瞬「食いかけか……?」と疑いそうになるが、立派な焼きたてアツアツ『タンドリーチキン』は格別。かなりスパイシーだがこれが病みつきになり、両手に持って交互にカブリつきたくなる名肉料理だ。

肉といったら『肉刺』を忘れてはいけない。四ツ谷にある『福よし』のタン・カシラ・子袋の肉刺しの大迫力は、一度見たら忘れられないだろう。忘れられないのは味も同じで、コリシコのタン、刺身らしい素材そのものの食感を楽しめるカシラ、子袋はツルリとした舌触りが堪らない。生肉を食べられる民族に生まれて良かったと、この店に来て再確認できるだろう。

ラブ・ローストビーフ! これが苦手という人とは仲良くなれない自信がある。練馬の『ふじよし』は、一見落ち着いた割烹料亭風の佇まいだが、料理の種類は和洋ともに豊富だ。特に気に入ったのが自家製ローストビーフ。一皿でモモとランプの二種類を楽しめるのが嬉しい。よくあるペラペラのものではなくしっかりと肉厚で、肉々しい食感が最高。家庭ではなかなか作れない、ローストビーフは肉料理の決定版である。

最後はやはり肉料理の王様『ステーキ』で締めくくろう。上野御徒町にある『日吉屋』は、私のとっておきの酒場でもあるのだが、少し前に初めて頼んだステーキが絶品だった。ギラギラとした焼き色、産まれたての様なピンク色の超レア断面。こんなのを見せられて我慢できるわけもなく食らいつけば、口の中は完全に〝肉〟と化すのだ。程よい弾力からジュワリと肉汁がしたたり、最大の咀嚼(そしゃく)力で噛み続ければ、我々は完全な肉食動物へとエボリューションするのである。


肉、肉、肉……やっぱり肉が好きだ。
そんなに食べられなくなったけれど、老若男女問わず誰もを虜にする食べ物なんて、肉以外に無いだろう。
私のような〝少量肉派〟のあなたも、ちょっとお腹を空かせて〝おいしい肉さんぽ〟に出かけてみよう。


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)