仕事の合間に高円寺の『あづま通り商店街』を歩いていると、『定食ハウス やなぎや』の前にさしかかった。長年この商店街を歩いているが、入ったことがない。いい機会だ、腹も減っていることだし、ここでランチをすることにしよう。

中はカウンターだけの小さな店内。昼下がりともあって、他に客はいない。席に座り、おすすめとメニューにあった〝おまかせ定食〟を頼むことにした。水を飲みながら、スマホのニュースを読んで待つ。


「おまかせ定食、おまたせしましたー」

しばらくして、女将さんからカウンター越しに定食のお盆を受け取った──ズシリ、とした重さを腕に感じた。これは……

おっ……おっ……おおもりだぁぁぁぁ!! なんという、予定外の大盛りだ……〝高校男子盛り〟のライスと、ぱっと見では何がいくつのあるのか分からないおかずの大皿。ちょっと待ってくれ……こんな大盛り定食、食べきれる自信がないぞ……いや、この後には仕事が控えている。とにかく〝やってみる〟しかない。

おかずのメインは、茄子の天ぷらでいいのか……中央の茄子の天ぷらを囲うようにしてメンチカツ、春巻き、コロッケ、目玉焼き、ほうれん草のおひたし、糸こんにゃくと油揚げの煮物……真ん中にはキャベツの小高い山がそびえる。まずは、その麓から攻めよう。

メンチカツ、うまっ! さっくりと揚がった衣の中からは、牛ひき肉のジューシーな肉汁が溢れる。春巻きは具沢山で、煮物もちょうどいい醤油加減。キャベツの山にたっぷりのソースをかけ、ごそっと口に入れたあと、ライスと一緒に食べるのがたまらない。味噌汁をズズッと飲むと、これまた優しい母の味。旨い……これは旨いぞ。あんなに大盛りだったのに……不思議と胃袋に収まり、気が付けば心地よい汗と共に完食していた。

これでなんと、650円という破格。世界では〝食料危機〟が迫っているというが、ここでは疑わしく思えてくる。安くて、旨くて、そして大盛りとは、なんという幸せなことなのだろうか。世界中にこの〝おまかせ定食〟があれば、きっと、もっと平和な世界であるに違いない。

その前に、私の腹には違う危機、腹がパンパンで仕事が出来ないという危機に直面しているのだが……


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)