府中にある『武蔵野うどん』は、店名通り〝武蔵野うどん〟が食べられる店。店内もどこにでもある普通のうどん屋なのだが、酒の肴メニュー、ことに〝珍味〟に特化しているのだ。

『黒作り』
塩辛にイカ墨をまぜたもので、その強烈な見た目とは裏腹に、まったりとしたイカ墨のコクが、塩辛とは思えない上品な味わいに仕上げている。

『すりかま揚げ』
〝似鱚(にぎす)〟という魚をすり身にして、さらに香ばしく揚げるという魅力しかない一品。揚げているのでカラリとしているのは思いきや、ムチッとした表面の中は、ふんわりとしたすり身の旨味がたまらない。

『肝入りイカの一夜干し』
なんと……どんな魚でも、普通は肝を取ってから一夜干しにするところを、あえて肝を入れたまま干すという大胆な品だ。ただ、その一切れを食べてれみれば、イカの全てが凝縮されており、悶絶級のウマさを体験することができる。今まで出会ってきた中で一番の珍味で、一番の酒の肴である。

こんな名珍味を前にすれば日本酒が飲みたくなるが、当然と全国の銘酒まで揃えてあり、利き酒までできるというから恐れ入る。

そしてシメはやはり〝武蔵野うどん〟だ。ツルシコ極太麺が、濃い目のツユと絡み合い、ガツンとしたノド越しがたまらない。……シメとは言ったものの、食欲がそそられて、もう一杯だけ欲しくなってきてしまった。


昨今、居酒屋を含む飲食店は厳しい状況に強いられているが、世の中には様々なタイプの酒場が存在する。今だからこそ色々なところで酒を飲んで、呑兵衛としての幅を広げようではありませんか。