ご存じ呑兵衛の街、赤羽にある名酒場『まるますや』のシメサバは、色味の美しさにある。青……というよりは〝蒼〟と描きたいその色味。小ぶりの身を箸で抜きあげれば、薄いピンク……いや、桃色の身が可憐だ。あっさりとした酢加減は、模範的大衆酒場にして完成された逸品。
酢の〆具合 ★★☆☆☆
身の厚み ★★★☆☆
安定感 ★★★☆☆
今までにシメサバを見て「可愛い!」と思ったことはあるだろうか? 私が唯一あったのが吉祥寺『闇太郎』にあるシメサバだ。もう全体が丸っこくて可愛いのだ。厚切りにされた身はクルンと丸まっていて、お互いに身を寄せ合っている姿……やっぱり可愛い。人間も丸顔が可愛らしいが、シメサバも丸い方が可愛いのである。
酢の〆具合 ★★★☆☆
身の厚み ★★★★☆
丸み感 ★★★★☆
今までにシメサバを見て「美人だ!」と思ったことはあるだろうか? ただのサバが新中野の『丸福』にかかると、絶世の美女に仕上がるのだ。スッと伸びた身は薄っすらと紅く頬を染め、品のある歯触りは口の中でいつまでもそうしていたくなる。皿全体も華やかで、まるで生け花のようだ。思わず「好きです……」と、シメサバに告白してしまいそうになる。この美女が、まさかの〝とんかつ屋〟で出されているから驚きである。
酢の〆具合 ★★☆☆☆
身の厚み ★☆☆☆☆
メロメロ度 ★★★★☆
ラーメン、カレーライス、寿司や天ぷら……いくら大好物でも〝おかわり〟をすることは中々ないことだ。大井町の『野焼』にあるシメサバは酢加減をはじめ、香りに食感と〝完璧〟といっていいほど旨い。それらをより完璧に近づけているのがサバの鮮度で、青魚としての常識を覆す爽やかさと身のハリは、もはや食べていただくより証明できない素晴らしいものだ。
特にその日が良いサバだったのかもしれないが、初めておかわりした思い出のシメサバである。
酢の〆具合 ★★★☆☆
身の厚み ★★★☆☆
おかわり!! ★★★★★
〝シメサバ界〟広しといえども、こんな奇抜かつ美味なシメサバは他にないだろう。阿佐ヶ谷駅から少し離れたところにある『川名』は、どれも本当においしい料理ばかりを出す酒場だが、その中でも特に旨いのが例によってシメサバだ。ただ、ここのシメサバは他とは少し様子が違う。なんと、皮に沿って薄い〝昆布〟を纏わせているのだ。それを切ったものをそのまま出すという大胆さ……いや、派手なのは見た目だけではなく、味も超が付く絶品だ。とろりとした昆布の旨味が、皮を通して身に沁みわたり、それが芳醇な味わいと成している──まさに稀代の名シメサバだ。
酢の〆具合 ★★★★☆
身の厚み ★★★☆☆
奇抜感 ★★★★★
たかがシメサバ、されどシメサバ。
どこの酒場にもある、こんな小さな料理の世界こそ、私はこれからも愛し続けたい。
取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)