私のおすすめは、中央線の『高尾駅』にある。そう、高尾山の茶屋である。季節は特におでんのおいしい冬、それも真冬がいい。自分の好きな登山ルートで目的の山頂へたどり着けば、茶屋はすぐそこだ。

数軒ある茶屋の中でも、ひと際渋みを放つ『やまびこ茶屋』の前に立つ。店先にはサンプルショーケースや、缶ビールの並んだ冷蔵庫。〝山菜きのこ汁をどうぞ〟の看板に浮気をしそうになるが、ここでの本命はおでん、グッと耐えよう。元の色が何色なのか分からないほど褪せた暖簾を、颯爽とくぐり抜ける。

〝木感〟たっぷり、山小屋のような温かみのある店内。静かに炎が揺らぐ石油ストーブの近くで一杯もいいが……ここはあえて崖側に飛び出た〝野外席〟に座ろう。外気が冷たい方が、おでんは本領を発揮するのだ。

食券を店員さんに渡し、おでんを待つ間に瓶ビールを失礼。野外席に座り、登山で冷えた体に、冷えた瓶ビールを流し込む。温まりに来たはずなのに矛盾しているようだが、これもおでんをより温かく、よりおいしく食べるため。ここでは、酒がおでんの脇役となるのだ……おっ、その主役の登場だ!

すばらしいっ! はんぺん、厚揚げ、ちくわ、コンブ、こんにゃく……明らかに出汁が沁み込んだ褐色のタネたち。スカイブルーのテーブルクロスがまた映える。

アチッ、アチチチッと、はんぺんを頬張り、ハフッ、ハフッと口を開け閉めしながら、こんにゃくを頬張る。そこへビールを流し込んで落ち着くと、ふいに山の中からウグイスの鳴き声が聴こえてきたりして──身体だけではない、なんだか心も温まるようだ。
これですよ、これこそおでんの最高においしい食べ方なのである。


きっとあなたも、おいしさのあまり「ヤッホー!」とやまびこをする代わりに、こう声を上げるだろう。

「最高のおでんを食べるなら〝茶屋〟に行け、しかも山頂でね!」


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)