武蔵小杉〝ムサコ〟は今も大開発中であるが、西の〝ムサコ〟である『武蔵小金井』も絶賛開発中だ。そんな開発中の中で、悠然と鎮座する酒場が『大黒屋』である。
高層マンションの一階に、およそ似つかわしくない渋いたたずまい。店の中も民芸風で、天井、壁、テーブル……どこを見ても〝味〟が滲み出てきている。

うっ……、誰かが頼んだのだろう、店の中には〝あのニオイ〟が充満している。これは強烈だ……そう、今夜はこの酒場で私の大好物〝クサウマ〟を堪能しようというのだ。

まず、人によってはその独特の風味が苦手という『芋焼酎(黒霧島)』からいこう。私も初めて飲んだ時はその風味にやられてしまったが、今は大・大・大好物である。とくに黒霧島はすばらしい。後からゆっくりと広がる芋の香りがたまらない。

おや? これはただの厚揚げ……と思いきや。箸で割ってみると、中からはクサイ食べ物日本代表の納豆が隠れていた。カリッとした厚揚げと、ネバッとした納豆の相性は抜群だ。

これも好き嫌いのはっきりしている『牡蠣酢』だ。牡蠣の磯の香りに、さらに発酵醸造のお酢を加えるという、これもクサイ料理には間違いない。ただこれも本当にクサウマで、牡蠣の磯の香りはお酢に浸すことでフレッシュ感がグンと上がり、味もまろやかになる。好きになったら、それこそ永久に食べていられるクサウマ料理だ。


……ツゥゥゥゥン

うわっ!!
来た来た、このニオイ!!

くっっっっさッ!! で、出たっ……クサイ料理の帝王『くさや』の登場だ!! くさやとは、アジなどを〝くさや液〟という発酵液に浸してから干した干物で、店に入ったとき鼻にツンときたのがこれだ。その強烈なニオイに、初めて食べるときはかなり勇気のいる食べ物だが……これがもう、本当にクサウマなのだ。
見た目は普通の焼き魚とまったく変わらないが、口に含んだ瞬間〝ムワッ〟というニオイが襲ってくる。一瞬「ウッ」となるものの、ひと噛み、そしてまたひと噛みとしていると……おや、これは!
ニオイの奥底から込み上げてくる、凝縮された魚の旨味とコク。こうなると、止められなくなる。もうひと口、またひと口……うん、やっぱりウマイ。これを芋焼酎で流し込んでやると、なんだか悟りを開いたお釈迦さまの気分になる。

納豆、生牡蠣、そしてくさや。このクサウマを発見してくれた先人たちの勇気に感謝である。そして、こんな料理を出してくれる酒場にも感謝だ。
さぁ、くさやをもうひと口……

やっぱりクサイ!
でも、やっぱりウマイ!


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)