立川駅から10分程度歩いた場所に、『甚句』という酒場がある。外観はどこにでもある普通の大衆酒場のようだが、中へ入れば少々様子が変わる。

襖を外した畳張りの大広間が広がり、そこには形や色の違うテーブルがズラリ。テレビのニュースをなんとなく観ている人がちらほら……そう、ここはこれから親戚一同が集まり、宴会が始まるであろう〝実家〟然としているのだ。

落ち着くなぁ……これだけ落ち着く酒場は中々ない。久しぶりの〝実家〟の余韻に浸っていると、手伝いで来ている親戚の叔母さん(店員の女の子)がビールを持ってきた。「じゃあ、叔父さんたちが来るまで失礼して……」と、フライング瓶ビールを飲む。やっぱり、コレがウマいよなぁ。

〝先にこれでやってないさい〟と、母ちゃん(女将さん)がつまみを持ってきてくれた。手作りの『塩辛』は、市販品にはないほろ苦さがいい。気取らない『煮込み』は、とろけるように柔らかく、味の沁み込み具合も完璧。やばい……みんなが集まる前に、食欲が止まんなくなちゃったよ、母ちゃん!

〝しょうがないわね〟と、特製『ナポリタン』を作ってくれた。〝こんなに食べられるかな?〟と尻込みする大盛りっぷり。焼けたケチャップと粉チーズがふわりと香り、フォークに巻いてひと口。自分では絶対に出せない家庭的で優しい味に、涙が出そうになる。

観てもいないテレビからはニュースが流れ、畳に座布団、そこへ胡坐をかいてナポリタンを行儀悪くすする。台所(厨房)からは、せっせと美味しい匂いが漂ってくる……本当に落ち着く、本当に実家にいる時の気分にさせてくれる酒場だ。


〝おう、久しぶり〟
〝元気だったかー?〟

おっ、親戚(お客さん)たちも集まってきたな。今夜の宴会も長くなりそうだ。


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)