小岩駅から歩くこと10分。下町の閑静な住宅地の中に『銚子屋』がある。色落ちした赤提灯、文字が消えかかった看板、そしてなんといっても茶色一色の外壁が特徴的だ。この時点で、名酒場の風格が漂う。さっそく暖簾を割って中へと入ろう。

壁に天井、床にイス……すばらしき茶色の割合だ。何気ない茶色の割り箸ケースと『うな重』のポスターが、さらに茶色のアクセントとなっている。

そして、この店で特に茶色い木製カウンターがまたいい仕上がりだ。酒瓶や食器で角や表面が削られて、これがまるで計算された幾何学模様のように美しい。さて……酒と料理の茶色をいただいてみよう。

あえて透明の『酎ハイ』を頼んだのは、周りの茶色と一体化させるため。無味の酎ハイは、料理の味も色も邪魔することはない。
まず届いた料理は、『ホタルイカ』だ。かわいらしい茶色が行儀よく並んで、食べるのが少しもったいない。ワタのプツリとした食感とほろ苦さがおいしい。

ワオッ! 茶色の料理代表『アコウダイの煮つけ』のお出ましだ。漂ってくる甘辛い香りさえも、おそらく茶色だ。箸で簡単にほぐれる身は、ほくほくと柔らかくて優しい味。茶色の料理って、どうしてこんなにおいしいものばかりなのだろうか。


──酒場の茶色、思い出してもらえただろうか。思っている以上に茶色が多く、それは濃くなれば濃くなるほどに魅力を増していくのだ。
世の酒場には、茶色がまだまだ眠っている。その魅力を呼び覚ましに、共に探そう、いざ茶色の酒場へ!


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)