閑静な住宅街の中に、ひっそりと佇む酒場『カド』。暖簾が出ていなければ、ただの民家のようだが……その静謐な雰囲気から、どこからともなく〝雅〟の香りさえ漂ってくる。「暖簾はいいよねぇ」と、割って中へと入った。

内観もまた圧巻! 約十畳分の広々とした畳部屋には、床の間や縁側もあり、レトロなイチョウ型ペンダントライトが、それらを温かく照らしている。

「ニッポン、だねぇ……」

〝渋い造りだ〟なんてレベルではない。体の奥底から、DNAレベルで込み上げてくるこの感じ。おそらく、今の高校生くらいでも、これを目の当りにしたら「懐かしい……」とさえ感じるのではないだろうか。

ここではもちろん〝日本人だから〟日本酒でいこう。常温の『黒龍』をクイッと口に含む……旨い、べらぼうに旨い! それと、畳の上の座布団に、胡坐の心地よさよ。

『牛スジ煮込み』は、日本の酒場には欠かせない一品だ。醤油味の効いたスジ肉は、とろりと舌に溶ける。おっと、ゴボウのナイスなアクセントも忘れてはいけない。

福井の郷土料理『へしこ』が、こんなところに! 鯖を糠漬けにしたもので、初めて目にしたときは、その見た目に尻込みしてしまったが、ひと口すれば酒飲みの料理だと大好物になった。やはり〝日本人だから〟発酵料理はお手の物。外国人観光客がこれを見て、「Oh! ファンタスティック!」などと歓喜すれば、それを横目に誇らしく感じてしまうだろう。

****

元々は昭和二十年代に建てられた民家とのことだが、それを改修、補強しながら、在りし日の空間で酒を飲ませてくれるという店の発想がすばらしい。
ここほど、自分が日本人であることを実感できる酒場は無いかもしれない。

何かうれしいので、もう一本飲んでから近くの神社に寄っていこう。そのあとは銭湯に浸かって牛乳を飲んで──
おちょこを口にしながら、やはり自分は〝日本人だから〟と、腑に落ちたのである。


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)