前述のように、すぐ近くの3丁目で寮住まいをしていたわたしは、同僚の北海道から上京した男性に連れられた時、Yonchōme Cafeを知った。
高円寺で研修の日々が続いたある日、「デートしよう」と誘われた。でも彼としては、最新カフェで食事をするのは予算オーバーだった。
そこで最初に、高円寺南口、パル商店街方面にあったフジカワこと「富士川食堂 」でお腹いっぱい食べてから、オープンしたてのお洒落カフェバーに行くコースを組み立てた。
1980年代、アルコールを提供する「カフェバー」ブームが起こり、喫茶店よりカフェが増えはじめた時代だった。
*喫茶店とカフェの違いは最後の注釈へ。
日本経済は絶好調で、見るからに羽振りの良い青年実業家が多くいた中で、一介の研修生に過ぎない地方出身者のわたし達が、カフェで食事するなんて相当贅沢なことだった。
「フジカワ」は、高円寺に多く存在した定食屋の中で、その安さとオヤジが作るアットホームな味で有名だった。件の彼も、毎日のようにフジカワで食事をしていた。
記憶に間違いがなければ、サンマ定食280円が一番安く、その時、わたし達は、普段は頼まない500円程度の焼肉定食で腹ごしらえをした後、お洒落カフェに臨んだ。
広島弁のネイティブスピーカーで、異性に映る自分の魅力がどこにあるかも、果たして魅力があるのかどうかさえわからないわたしは、途方もなく孤独な日々を送っていた。
そんな時、すでに札幌で社会経験を積んでいた彼は、わたしの悩みを見抜いており、「○○は、男を絶対疲れさせない、○○のいいところをわかってくれる男を探せよ」と励ましてくれたのだった。1989年のことだ。
わたしが、1989年以降、次にそのカフェに行ったのは2010年だった。偶然、高円寺に立ち寄り、目についた駅前のカフェで、タコライス、真っ青なクリームソーダなど食べて、散々お喋りした挙句、もしかして、ここ来たことあるかも? と気が付いた。
でも、清算時、
「1989年もここにありましたっけ?」
「ありましたよ!」
と、レジのステキな若い女の子に返されるまでは確信が持てなかった。
先日、再び訪れた時は、ハンバーガーを頼んだ。思えば、1989年は、500円の定食の後アルコール1杯で乾杯した。
2025年現在、十分過ぎるほど大人になり、口を開くたびに「出身どこ?」と聞かれることもなくなったわたしはハイボールを飲む。
びっくりするほどおいしいハイボールだ。お酒の味はよくわからないけれど、数センチ飲んだだけで顔が紅潮するほどの格別の味わいだった。
ふと、テーブルに目をやると角が削りとられている、このテーブルもYonchōme Cafeも、ワタシ同様に年月を重ね続けてる。一方的な連帯感を感じてしまったのだ。
*掲載許可を頂いています。
*喫茶店とカフェの違いについて。
かつて、カフェは飲食店営業、喫茶店は喫茶店営業としての許可申請に分けられていたが、2021年の法改正によって喫茶店の営業許可は廃止され、現在はカフェと喫茶店の法的な区別はない。
2021年法改正前の飲食店営業と喫茶店営業における主な違いは、飲食店営業は調理方法の制限が少なくてアルコール販売が可能、一方、喫茶店は、加熱調理のみ許可、アルコール販売不可という明確な違いがあった。
ただし、例外として2021年5月以前に喫茶店の営業許可を申請し交付された喫茶店は、その営業許可証の期限が切れるまでは改正前の喫茶店として営業することが可能。
参考サイト
KEYCOFFEE カフェ・喫茶店開業ナビ
さんたつ by 散歩の達人
「高円寺駅前『Yonchōme Cafe』は夢見る人たちを温かく迎えるアメリカンダイニング」
https://san-tatsu.jp/articles/148933/
Philip Bartlett Biography
https://www.imdb.com/name/nm0058877/bio/?ref_=nm_ov_bio_sm
★yonchome cafe
東京都杉並区高円寺南4丁目28-10-2F
http://www.yonchome.com