一見、誰が見ても〝とんかつ屋〟でしかない『とんかつ丸福』である。ずっと見てると目がチカチカしてきそうな黄色の看板、実はこの店〝飲めるとんかつ屋〟なのだ。

〝飲めるとんかつ屋〟とは、とんかつ以外にも刺身、煮物、焼き物なんかが充実しており、それをアテに気兼ねなく酒を飲むことが出来るとんかつ屋のことだ。ここのカウンターに座ってみれば分かるように、目の前の黒板には、旬の刺身にポテトサラダ、里芋の煮っころがし、なんとウナギもある、これぞ正しく〝飲めるとんかつ屋〟なのだ。では、まずはそれに従おう。

「シュポン!」と心地好い栓を抜く音を鳴らし、瓶ビールが差し出される。揚げ物の良い香りが漂う中では、昔から瓶ビールと決まっている。トトトトッとグラスに注ぎ、一気に飲み干して準備完了。おまけのカマボコが可愛らしい。

なんとまぁ、美しい『しめ鯖』でしょう! 額縁に入れて飾っておきたいほどの色白美人だが、これがとんかつ屋で頂けるから驚きだ。あっさりと酢に漬かった鯖は、しっとりとした食感と淡白な旨味が凝縮している。これを目当てに訪れてもいいくらいだ。

もちろん、店の看板『とんかつ』を忘れてはいけない。目の前に差し出されると、揚げ物のいい香りが食欲をそそる。ソースをダラリと回して、いざ一切れ──「ザクッ」という衣の音が、恥ずかしいくらい店内に響くと……旨いっ! 染み出す肉汁が衣と混然一体、図らずも目を瞑って味わったのだ。


さぁ、温まってきたぞ。ブリの刺身にあん肝か……おっ、カキフライもいいなぁ。メニューを見て、次は何を頼もうかという楽しみ……とんかつ屋でこんなにしっかり飲めるなんて、駅に同じくとんかつ屋の中でもマイナーである。新宿や上野のようなメジャー駅は、もちろんいい。ただ、マイナーな駅だからこそ、こんな〝メジャー級〟の名店に出会うこともあるのだ。

よし、決めた。とんかつ屋なのに、次は『白子ポンズ』を頼んじゃおう。


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)