そうそうそう、こんな店構えだったなぁ……食堂『千里』である。記憶とは不思議なもので、あやふやだった記憶も、実際にそれを見てみれば、この前見たばかりのように溢れてくるのだ。
店に入るとすぐにテーブル席がいくつもあって、奥にはお座敷もあった。こんなに広いところだったとは……当時はもっと〝こぢんまり〟としたイメージだった。私が小さくなったのか……いや、当時の体重から1.5倍に増えている。
あった、『肉野菜炒め定食』だ! なんと、今は令和だというのに税別たったの500円だって? これも650円くらいだったと思っていたが、もっと安かったとは……もちろん、思い出の肉野菜炒め定食をお願いした。
「お待たせしました、肉野菜です」
「……えっ?」
しばらくして、定食が届けられたのだが、目の前が一瞬、大きな影で暗くなったように見えた。
なんて量だ!! 確かに、ライスも野菜炒めも物凄い量だったのは記憶している。記憶しているが、こればかりは完全なる記憶違いとしか言いようがない。だがひと口食べてみると、これだ……この味に間違いない。家庭の台所では出せない高火力で、一気に炒めた野菜たち。熱々シャキシャキのもやし、キャベツ、豚肉、それとキクラゲの歯触りがいいアクセントだ。漫画盛りのライスと共に掻っ込む気持ちよさよ。
付け添えの小鉢の冷奴、もやし被りのおひたし。ワカメの味噌汁の旨味が、ジュワッと込み上げてくる。それと一緒に懐かしさも込み上げてきて、涙が出そうになった。
「サービスのコーヒーです」と、やはり腹がパンパンになった頃に、女将さんがホットコーヒーを持ってきてくれた。もしかすると、食後のコーヒーのおいしさを覚えたのは、この店だったのかもしれない……そんなことが頭に過りつつ、お腹いっぱい、思い出いっぱいの時間を楽しんだのであった。
取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)