『三鷹』という町は、どこか気になる町だ。隣の『吉祥寺』にあるようなフレッシュで派手さはないものの、どこかどっしりと構えていて独自の文化を漂わせている。そんな町の酒場はもちろん個性豊かな店があり、定期的に飲みへ伺っている。その中にとても感銘を受けた店があるのだが、そこがまた変な……いや、個性的な酒場なのだ。

ほらね? この外観、物凄く個性的ではないだろうか。ワザとなのか、それともたまたなのか店の屋根にはもっさりと緑が茂り、その奥にはおそらく看板と思しきものがある。暖簾と提灯が無ければここが酒場だと気づくのは難しいが、ある意味全体のバランスはよく考えられている気がする。例えるなら〝生け花〟のような、美的センスを感じないでもない。
その名も『こマねちZ』。これはもしかすると、個性的という名の〝アート〟なのではないだろうか。それは中へ入ってみると、さらに確信へとなるのだ。

おおっ、凄い!! 店に入るや否や、あちらこちらからとんでもない個性が飛んでくる。薄暗い店内に様々な提灯、古びたポスター、むき出しの配線、古本、そして大量に扇風機が所狭しと敷き詰められている。本当にここは酒場なのか、ただの雑貨屋なんじゃないかと本気で疑ってきたが、その中に埋もれたメニュー表を発見すると、やはりここは酒場で間違いなかった。

酒場なのでさっそく『ホッピー』を頼んでみるが、ただカウンターに置いただけで叙情的な雰囲気を醸し出している。独特な淡い光が上手く溶け込んで、印象派の画家が描いた絵を切り取ったように美しい。
つまみに頼んだ『鳥刺し盛合わせ』など、赤、白、ピンクの下地(鳥刺し)に、不規則なネギとゴマがモザイクのように散らばり、あたかも難解な抽象絵画を眺めているようだ。これがまた新鮮でおいしいとくるから、ピカソもびっくりの一品である。

「この店、三鷹イチ入りづらいんですよ」

カウンターの中にいる名画家……いや、マスターが冗談めかして言った。うーむ、確かに入りづらい……しかし、入ってしまえば何だか小さな画廊にでもいるかのようなマッタリとした気分で、すっかり居座ってしまうという不思議──こんな酒飲みでも、個性的な外観と店内に魅了されてしまったようだ。そう、やはりここは〝アート〟なのだろう。
さぁ、あなたも頭の中まで〝アート〟になるほど、ここで酔っぱらってみてはいかがだろうか。


取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)