東京・亀戸にある酒場『松ちゃん』を、はじめて目にした時のこと。高層マンションの隙間に、忽然と現れた錆びた屋根。珍しい褐色の暖簾に、揺れる赤ちょうちん……これは〝デキる酒場〟と察知した私は、すぐに暖簾を割ったのだ。
「んっ!?」
と驚いたのが、店の中に〝屋根〟があったのだ。しかしこれは、元力士の店や元寿司屋だった酒場によくある造り。壁に番付表も張ってあるので、相撲に関連があるのかもしれない。
さて、ひと口目は何にしようか……壁に貼られた安定の居酒屋メニュー札から、グレープフルーツハイを選んだ。
「んっ!?」
なんだ……何か〝デカいもの〟が浮いているぞ。なんと、大きく切ったグレープフルーツが、大胆にジョッキに浮かべられていたのだ。グレープフルーツの半分を別で絞るのはよくあるが、こんな豪快なグレープフルーツサワーは見たことがない。果実感満載で、ゴクゴクと飲みやすい。さて、料理はどうだろうか。
「んっ!?」
これは一体……? ぱっと見だと普通の〝つくね〟の様に見えるが、箸で持とうとするとトロリと崩れた。なんと〝半生〟状態の『生つくね』だったのだ。これがまた絶品で、舌にとろける挽肉と、タケノコのシャキシャキとした食感が絶妙だった。
「おおっ!!」
と、これは素直に驚いた。なんて綺麗な『イカ刺し』なのだろう。〝刺し〟とはいえ、わずかに湯通しされていて身がキュッとしまっている。珍しくゲソまで付いていて、あともうひとつは……
「んんんんっ!?」
これは……なんと、イカの『肝(きも)』が丸ごとあるじゃないか! 今までイカ刺しは何百回も頼んできたが、丸ごと肝を添えてあるなんて初めてだ。このまま食べていいものなのか、そもそも調理中に肝を置き忘れただけなんじゃ……恐る恐る食べてみると、
「これは、んまいぞ!!」
野趣あふれるコク深いあじわい……身もネットリとおいしいが、もはやこのイカ刺しの主役は肝にあるといってもいい。貪るようにしてその〝発見〟と〝驚き〟を食べつくした。
この後にも何度も「んっ!?」が出てしまう料理があったが、それは是非とも読者の方々自身で体験しに行ってほしい。思わず「んっ!?」と大きな声が出てしまうこと間違いない。
酒場は「んっ!?」の数だけ、その魅力となるのである。
取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)