吉祥寺駅北口から徒歩3分ほど、混み合う中道通りから細い路地に入った場所にある老舗喫茶店こそ『茶房武蔵野文庫』だ。かつて早稲田大学近くにあり昭和59年に閉店した人気喫茶店『茶房早稲田文庫』の雰囲気や味わい、看板を継承し、吉祥寺の地で創業したとのこと。挽きたてのコーヒーだけでなく、早稲田文庫時代から受け継ぐ秘伝のカレーライスや自家製レモンケーキを求めて来訪する客も多いという。

落ち着いたレトロな空間で味わうミルクセーキ

ダークトーンの木製家具で統一された店内に入ると、カウンター席に案内された。間接照明とランプの光がそっと照らしている。メニューをめくると飛び込んでくる「ミルクセーキ」の文字。老舗喫茶店のミルクセーキとはどんな味だろう、想像するだけで胸が躍る。
店内は心地よいボリュームでクラシックが流れ、平日の昼下がりだからかカウンター席は私だけ。1人でゆっくり過ごすにはこれ以上ない環境だ。

「お待たせいたしました、ミルクセーキです。」

木彫りのコースターに置かれた大きめのグラス。乳白色のミルクセーキの上には、たっぷり空気を含んだきめ細かな泡が立っている。グラスに鼻を近付けると、ふわりとバニラの香りが立ちのぼる。甘さは控えめで、少しドロッとした舌触りや卵と牛乳のコクに懐かしさを覚えた。プロの作るミルクセーキとはこんなにも繊細なのかと感動しつつ、いつの間にか母と一緒に作った幼き日の記憶をたどっていた。

背中越しに他のお客さんのオーダーが耳に入る。やはりコーヒーとカレーライスが人気のようだ。それでもきっと私は、またミルクセーキを頼んでしまうだろう。