古材や古道具をあちこちにあしらい、昔ながらの日本家屋のような鄙びた風情の店内。家具や茶道具、器なども渋好みなセンスでいちいち気になる。営業は夕方からで、お茶も飲めるが、メニューには、お茶にちなんだ変わったお酒がいくつかあった。月桃と黒文字と白樺樹液を使ったハイボールを頼んだ。素材の風味と香りを深く静かに引き出した、おいしいハイボールだった。その後に煎茶を出してもらうと、一煎目は海苔のように濃く、二煎目は優しい味わいに出してくれた。静岡の在来種で、畑から自家選抜し、一番小さな揉捻機で作られたものだという。

店主は20代前半の男性で、イマドキ風な、よくいる感じの若者なのだが、話をしてみると、妙に味わい深い語りで、お茶に関する造詣がすこぶる深かった。素直そうな人柄でありながら、まるで老齢のバーテンダーのように思慮深く肝の据わった振る舞いで、どこか只者じゃない空気が漂っていた。

それから半年以上経ち、ふと思い出してまたこの店を訪ねた。例の男性は最初の方だけいたが、すぐに出かけてしまい、年配の親しみやすい女性が店を切り盛りしていた。よくよく聞けば息子だという。ここは彼の店で、全て彼の趣味を表現しているが、今しばらく静岡の茶農家へ修行に出ているため、週末だけ店を開け、代わりに女性が店頭に立っているとのこと。メニューは以前と少し変わっていたが、お茶を選べるお茶割りがいくつかあった。和紅茶のお茶割りをいただくと、繊細で穏やかな香りに癒された。女性の作るおつまみもどれも丁寧で気が利いていて、絶対に外れのない、ホッと安堵する優しいおいしさだった。息子が帰ってきたら、きっとまた一層色濃い深みが出ていそうで、これからも静かに見守りたいと思う店だった。