それは、帰途の特急あずさ車内で飲む、缶ビール。
この一杯には、すべての思い出が詰まっている。

帰りの便に乗るのはたいてい夜で
座席につくと、どこからともなく
「プシュッ」と
お酒の缶を開ける音が聞こえる。

それを合図に、楽しみに買っておいた
缶ビールを取り出し、
我も続けとプルタブに手をかける。

車窓は、もう暗い。
ただ一方で脳裏は明るく、
旅の中で見た街、人、食べものすべてが、
再生されてゆく。

ごく、ごく、と
ビールと一緒に思い出を飲み込む。
最高だ。
そして、少し、寂しい。

今や気軽な街散歩も遠くなってしまった。
けれどあの味は忘れていない。
しあわせの一杯と再会できる未来は
きっとすぐそこだ。