今回のゴー!ゴー!

『キクコーストア 明神前店』(岩手県遠野市)

前身は昭和26年(1951)創業の「菊幸(きくこう)魚店」という、岩手県のご当地スーパー『キクコーストア』。

花巻と釜石の沿岸地方に店を広げる人気店ですが、実は内陸の遠野が発祥の地。

遠野といえば『遠野物語』。“民話の里”として知られており、最近もまだ河童(かっぱ)の目撃例があるというカッパ淵も地元の人々により守られていて、人智を超えた存在を感じるような人里です。

今回紹介する店は加茂神社の斜め前に位置するため、店舗名は「明神前」と、これまた物語が始まりそう。

それはズバリ、地域に伝わる羊の歴史。そこでまず向かうべきは、精肉コーナー。遠野の名物といえばジンギスカンのため、生の羊肉が並んでいるのです。

精肉コーナーには「ジンギスカン500g以上お買い上げのお客様にジンギスカン鍋無料貸出します」の文字が!
精肉コーナーには「ジンギスカン500g以上お買い上げのお客様にジンギスカン鍋無料貸出します」の文字が!
「遠野の焼肉はジンギスカン。肉500g以下のお買い物でも、無料貸し出しの相談をどうぞ」と阿部昭男店長。
「遠野の焼肉はジンギスカン。肉500g以下のお買い物でも、無料貸し出しの相談をどうぞ」と阿部昭男店長。

ジンギスカンは北海道だけではなく、戦中に必要だった緬羊(めんよう)を戦後に食用にした遠野にも、その文化が残ります。

独特なのが「バケツコンロ」、通称「ジンギスカンバケツ」を使うこと。昭和30年代、のちにジンギスカンの名店となる店が羊肉と一緒に貸すため考案したもので、いまも肉の小売店では道具の貸し出しが当たり前。

もちろんこの店でも、ジンギスカンバケツと南部鉄器製ジンギスカン鍋の無料貸し出しをしています。空きがあればですが、ジンギスカン用の肉を500g以上(あるいは少量の肉でもタレや野菜を織り交ぜ)購入すればOK。

肉は厚切りでやわらかく、同社オリジナルの「ジンギスカンのタレ」甘口・辛口がよく合います。鍋は洗わずそのまま返せるので、火を使える場所さえあれば、旅の途中でも気軽に楽しめるというわけです。

無料貸し出しには含まれない固形燃料とタレを購入しよう(バケツコンロや鍋も購入可)。
無料貸し出しには含まれない固形燃料とタレを購入しよう(バケツコンロや鍋も購入可)。
袋入り野菜、ジンギスカンのタレ、羊肉、固形燃料を買って、気軽にジンギスカン!
袋入り野菜、ジンギスカンのタレ、羊肉、固形燃料を買って、気軽にジンギスカン!

魅力はそれだけでなく、想像どおりの遠野らしい地元食もそろっています。

特に必食の味は、地元製菓店の郷土菓子。「そば焼餅」や「みそぱん」などむかしながらの雰囲気の味から、味の想像もつかない「きりせんしょ」「かねなり」など、民話の中から飛び出してきたような伝統菓子の世界にも浸れます。

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地元で愛される遠野グルメ

「むかしむかし、道に迷った旅人が辿り着いた山奥の家で……」の場面で出てくるのは、こんな地元食かも。山の暮らしの滋味深き味わいが伝わる、遠野名物たち。スーパーなら地元価格でそろいます。

地元製菓店の郷土菓子が素晴らしい。みたらし団子に似た餅の中にクルミが入った「きりせんしょ」などはお手頃。
地元製菓店の郷土菓子が素晴らしい。みたらし団子に似た餅の中にクルミが入った「きりせんしょ」などはお手頃。
地元定番のおにぎりの中身はご飯の進む「甘辛みそ大根」。みそ漬け大根は複数社で製造。遠野名物「民話漬だいこん」。
地元定番のおにぎりの中身はご飯の進む「甘辛みそ大根」。みそ漬け大根は複数社で製造。遠野名物「民話漬だいこん」。
地元商品を集めたコーナー。
地元商品を集めたコーナー。
ホップ栽培を半世紀以上続けてきた遠野市では、地元ホップで造るクラフトビール「遠野麦酒ZUMONA(ズモナ)」を楽しめる。ゴールデンピルスナーなど(現在は缶商品のみ)。一方で軟水の湧く米どころでもあるため、「國華(こっか)の薫(かおり)」や「どぶろく 河童の舞」といった日本酒も美味。
ホップ栽培を半世紀以上続けてきた遠野市では、地元ホップで造るクラフトビール「遠野麦酒ZUMONA(ズモナ)」を楽しめる。ゴールデンピルスナーなど(現在は缶商品のみ)。一方で軟水の湧く米どころでもあるため、「國華(こっか)の薫(かおり)」や「どぶろく 河童の舞」といった日本酒も美味。

魅了される味。岩手のご当地食

面積は北海道に次いで2番目に大きな岩手県。山は深く海はリアス海岸、はっきりとした四季により磨かれた食の宝庫です。あの岩手出身者も魅了されている、宝のような地元食とは?

仕込み水は早池峰(はやちね)山麓の雪解け水。香り高い醬油と丁寧にとった出汁をブレンドした人気のだしつゆは、佐々長醸造の「老舗の味 つゆ」。
仕込み水は早池峰(はやちね)山麓の雪解け水。香り高い醬油と丁寧にとった出汁をブレンドした人気のだしつゆは、佐々長醸造の「老舗の味 つゆ」。
麺どころ岩手。大谷翔平選手の出身地・奥州(おうしゅう)市の小山製麺の麺は、県内で食べずに育つ人はいないといわれるシェアを誇る。きっと大谷選手も食べたであろう「ぺろっこうどん」など。
麺どころ岩手。大谷翔平選手の出身地・奥州(おうしゅう)市の小山製麺の麺は、県内で食べずに育つ人はいないといわれるシェアを誇る。きっと大谷選手も食べたであろう「ぺろっこうどん」など。
こちらは確実に大谷選手が「世界一おいしい」とインタビューに答えたことで有名になった、地元定番の「岩泉ヨーグルト」(プレーン・加糖)。
こちらは確実に大谷選手が「世界一おいしい」とインタビューに答えたことで有名になった、地元定番の「岩泉ヨーグルト」(プレーン・加糖)。
三陸の昆布は出汁用というより「食べる昆布」。昆布各種が並ぶ。
三陸の昆布は出汁用というより「食べる昆布」。昆布各種が並ぶ。

漬物材料のコーナーに注目!

保存食として漬物を家で作る人も多く、漬物材料が豊富です。陸前高田市出身の佐々木朗希選手が、かつて「恋しい味」として紹介し話題となった4倍希釈の酢「酢の素」(水野醤油店)も、定番調味料。

取材・文・撮影=菅原佳己
『旅の手帖』2025年5月号より