今回のゴー!ゴー!

『八百津松茸市場「後藤食品」』(岐阜県八百津市)

地元商品を扱い、野菜も大量販売で格安と、近隣の住民にとって、毎日の生活になくてはならない店。一方で遠方からも、観光客が名物を目指してやってくる個性派スーパー、それが岐阜県八百津町にある『八百津松茸市場「後藤食品」』です。

店の前の国道418号を進んだ先は、いわゆる“酷道”として有名で、名古屋方面から来て恵那方面に抜ける道は、車のナビで表示されなくなります。つまり、どこかに行く途中で偶然見つけるのではなく、わざわざこの店を目指してやってこないと辿り着けない、辺境の店。

手前の市場エリアには、旬の野菜から謎の生活用品まで大量陳列。奥がスーパーエリア。
手前の市場エリアには、旬の野菜から謎の生活用品まで大量陳列。奥がスーパーエリア。

入るとまず、半露天な市場のエリアが広がります。ほぼ無人で自由な箱陳列のため、どこに何があるのか把握するのに、しばらく探検の時間が必要です。

季節の野菜が箱ごとや山盛りで置かれているだけでなく、昭和なユーズド食器などの雑貨も無造作に置かれている、魔境感あるエリア。ハマると夢中になるけど、ハマらない人には一個もハマらない、ディープな魔力を秘めたお店です。

スーパーエリアに入ると、例年10〜11月頃は松茸のいい香りが店内に充満する、至福の時。
スーパーエリアに入ると、例年10〜11月頃は松茸のいい香りが店内に充満する、至福の時。

続く建物の入口を開けると、シーズン中なら、松茸の香りのシャワーを浴びることになるでしょう。見たことのない量の松茸がびっしり。地元・八百津周辺のものが一番人気。近隣の産地や海外からも入荷しているので、予算や好みに合わせて選べます。

ただ、ここ数年は夏の酷暑のせいで不作が続いているため、今年の出来はまだわからないと、社長の後藤靖武さん(87歳)も心配中。

社長の後藤靖武さん。若い頃、一人で始めた引き売りの商売が現在の食料品店の原点。
社長の後藤靖武さん。若い頃、一人で始めた引き売りの商売が現在の食料品店の原点。

さて、本当の魅力はここからです。

山のごちそう素材のヘボ、鮎、松茸を惜しげもなく使った、自家製おかずがお宝級。さらに山の中とは思えない鮮魚にもびっくり。

現在、店を切り盛りするのは社長の息子夫婦・英昭さんとさちこさん。腕のいいベテランスタッフと一緒に作る名物は、秋においしいものばかり。ヘボめし、鮎の甘露煮、松茸ご飯!

地元で大事にされてきたご当地の味、わざわざ買いに行く価値ありなのです。

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知る人ぞ知る八百津の名物

八百津町は木曽川と飛騨川が流れ、面積の8割が森林という自然豊かで静かな町。農業のほか、川の流れを利用した酒、味噌、醤油、酢などの醸造業が発達。戦後は「八百津煎餅」で知られるようになりました。

八百津で100年以上の歴史ある味噌平醸造の「ヤマコノおかず味噌」。ナス、ニンジン、ゴボウ、ショウガの野菜も入り、いいおかずに。
八百津で100年以上の歴史ある味噌平醸造の「ヤマコノおかず味噌」。ナス、ニンジン、ゴボウ、ショウガの野菜も入り、いいおかずに。
岐阜県中濃地方は和栗の名産地。
岐阜県中濃地方は和栗の名産地。
おかず味噌と同じ老舗醸造所の看板商品。東海地方を中心に熱烈なファンが多い、だし入り醤油「ヤマコノ デラックス調味の素」。
おかず味噌と同じ老舗醸造所の看板商品。東海地方を中心に熱烈なファンが多い、だし入り醤油「ヤマコノ デラックス調味の素」。
卵と小麦粉の生地を鉄板で焼いた「八百津せんべい」は地元を代表する味。むかしは町じゅうに甘い香りが漂っていたそうで、いまも多くの商品がそろう。
卵と小麦粉の生地を鉄板で焼いた「八百津せんべい」は地元を代表する味。むかしは町じゅうに甘い香りが漂っていたそうで、いまも多くの商品がそろう。

山のごちそう! 自家製おかず

店がにぎわうのは、春と秋。特に実りの季節には、秋だけの自家製商品が並びます。その「山のごちそう」を目当てに、遠方からやってくるファンも多いのです。

こちらは初夏だけのごちそう。青々とした朴葉の季節、地元で作られるの郷土料理・朴葉寿司。地域によって具材は異なるが、後藤食品特製は伝統の「蜂の子朴葉寿司」。ヘボのプチプチ食感がポイント。
こちらは初夏だけのごちそう。青々とした朴葉の季節、地元で作られるの郷土料理・朴葉寿司。地域によって具材は異なるが、後藤食品特製は伝統の「蜂の子朴葉寿司」。ヘボのプチプチ食感がポイント。
秋限定の自家製「松茸御飯」。
秋限定の自家製「松茸御飯」。
玉子焼きがいつ見ても大きくておいしそう。「自家製だし巻き玉子」。
玉子焼きがいつ見ても大きくておいしそう。「自家製だし巻き玉子」。
郷土料理「鮎の甘露煮」。大鍋に“縛り煮ザル”で煮崩れないようこっくりと煮つけた鮎は店の名物の一つ。秋はお腹パンパンに卵が詰まった、子持ち鮎の季節。
郷土料理「鮎の甘露煮」。大鍋に“縛り煮ザル”で煮崩れないようこっくりと煮つけた鮎は店の名物の一つ。秋はお腹パンパンに卵が詰まった、子持ち鮎の季節。

市場エリアの「生ヘボ」に注目!

蜂の子「ヘボ」は秋の味覚。10~11月、ヘボ名人たちがクロスズメバチのヘボを巣ごと持ち込む「生ヘボ」と出会えたらラッキー。「生はちょっと……」という人には、店の看板商品・自家製「ヘボめし」がおすすめ!

住所:岐阜県八百津町野上1246-1/営業時間:10:00~18:00/定休日:水(12〜9月は火・水)/アクセス:JR高山本線中川辺駅から車12分

取材・文・撮影=菅原佳己
『旅の手帖』2024年11月号より