今回のゴー!ゴー!

『主婦の店 セントラルマーケット』(三重県尾鷲市)

伊勢神宮で知られる三重県には、まだまだ別の魅力がいっぱい。県南の東紀州地域は温暖で、山と海に囲まれた風光明媚な場所です。

なかでも、むかしから港町として栄えた尾鷲は、かつては陸路ではほかの地域から隔絶されていたため、独自の食文化が発展。ご当地スーパーにも珍しい食が並んでいます。

尾鷲産のウツボとマンボウ。マンボウは定置網に偶然かかったときにのみ販売する。
尾鷲産のウツボとマンボウ。マンボウは定置網に偶然かかったときにのみ販売する。

『主婦の店 セントラルマーケット』は、2006年に開業した東紀州エリアで一番の規模を誇る店舗。その名のとおり地域の中心的な存在となっています。運営する「主婦の店」は、尾鷲で初めてのスーパーを始めた会社で、東紀州に7店舗を展開。いまでは地域に根ざし愛されるスーパーですが、創業時は周りから歓迎されないスタートだったそう。

当時、アメリカから伝わってきた「スーパーマーケット」というものの存在を知った、尾鷲の商店街の商店主7人。そのなかに含まれていたのが、同社の北裏大(きたうらひろし)社長の父・北裏旭さんでした。セルフサービス式のレジで会計するスーパーマーケットは、日本ではまだその呼び名すらなく、「主婦の店」と呼ばれていた時代です。

旭さんの家は商店街の和菓子店。そのほか薬局、ブティック、紳士服など7店舗の若い店主らが、スーパー「主婦の店」開業を決意。ところが、地元の商店街では反対のデモもあったほど風当たりは強く、会議する場所にも困り、尾鷲神社の社務所の横で話したこともしばしば。

しかも7人には野菜、肉、魚の生鮮3品の知識がなく、当時、津市にあった主婦の店で修業が必要でした。苦労の末に昭和33年(1958)、ついに開業したのです。

北裏社長は現在、尾鷲の商工会議所の会頭を務めています。「創業当時、父たちに商工会議所から強い逆風もあったと聞きますが、その息子(私)が会頭なんて、不思議なものです」と社長。いまでは、地域になくてはならないスーパーになっています。

「毎朝、近くの尾鷲港から魚が届きます。本日も大漁!」。左から店長の濵戸宏哉さん、北裏大社長、水産バイヤーの福山晃司さん 。
「毎朝、近くの尾鷲港から魚が届きます。本日も大漁!」。左から店長の濵戸宏哉さん、北裏大社長、水産バイヤーの福山晃司さん 。
年1回の地域イベント「心躍る大漁旗展」で、本物の大漁旗で飾りつけされた鮮魚売り場。
年1回の地域イベント「心躍る大漁旗展」で、本物の大漁旗で飾りつけされた鮮魚売り場。

旅のお土産に。尾鷲の地元食

尾鷲市の気候風土は、ほぼ和歌山県と同じ。太平洋沖の黒潮の影響で、年間を通じて暖かい海には特有の生物が生息し、その海から流れ込む温暖多雨な気候で柑橘(かんきつ)類もよく育ちます。

お菓子も地域色豊か。廃校になった木造校舎で塩づくりを始めた『しお学舎』が作る芋けんぴは、蜜をかけない軽い食感の塩味。
お菓子も地域色豊か。廃校になった木造校舎で塩づくりを始めた『しお学舎』が作る芋けんぴは、蜜をかけない軽い食感の塩味。
『夢工房くまの』が作る「まるでみかんをそのまま食べているようなゼリーなるみ・なつみ」は熊野産みかんを使用。
『夢工房くまの』が作る「まるでみかんをそのまま食べているようなゼリーなるみ・なつみ」は熊野産みかんを使用。
『石原商店』の熊野灘名産の海藻。わかめより「ひろめ」が味噌汁の具の定番だ。わかめと昆布の中間のような食感。
『石原商店』の熊野灘名産の海藻。わかめより「ひろめ」が味噌汁の具の定番だ。わかめと昆布の中間のような食感。
「ひろめ」を水で戻すと、ビックリの全長30㎝超え!
「ひろめ」を水で戻すと、ビックリの全長30㎝超え!
冬の風物詩として登場する尾鷲名物「さんまの丸干し」。
冬の風物詩として登場する尾鷲名物「さんまの丸干し」。

オリジナル商品。主婦の店・尾鷲の味

海と山に囲まれた尾鷲らしいオリジナル商品が多い。ブリの養殖工場をもつグループ会社から届く、朝締めブリの刺し身「活かり身鰤」や尾鷲自慢のネタがそろう自社製造の寿司が人気。

プリプリ、コリコリ食感。尾鷲産、朝締めのブリの刺し身。
プリプリ、コリコリ食感。尾鷲産、朝締めのブリの刺し身。
地元の名店『御菓子司かし熊』の「おわせの雨玉」。尾鷲の雨は飴玉に例えられるほど、大粒で激しいことから4代目(社長)が考案。お土産の定番になっている。
地元の名店『御菓子司かし熊』の「おわせの雨玉」。尾鷲の雨は飴玉に例えられるほど、大粒で激しいことから4代目(社長)が考案。お土産の定番になっている。
「社長の私、実は『御菓子司かし熊』の4代目です」。
「社長の私、実は『御菓子司かし熊』の4代目です」。
尾鷲港で朝、水揚げされた魚は寿司に。この日はカマス、アオリイカ、アジ。
尾鷲港で朝、水揚げされた魚は寿司に。この日はカマス、アオリイカ、アジ。
地域の郷土料理の一つ、さんまの姿寿司。酢締めしたサンマを押し寿司にしたもので、地元ではワサビや生姜ではなく「ねり辛子」が定番薬味。同社製は食べやすく、頭を落とした「さんま寿司」。
地域の郷土料理の一つ、さんまの姿寿司。酢締めしたサンマを押し寿司にしたもので、地元ではワサビや生姜ではなく「ねり辛子」が定番薬味。同社製は食べやすく、頭を落とした「さんま寿司」。

東紀州名産「生節」の棚に注目!

黒潮の海といえばカツオ。東紀州名産の「生節」は、生のカツオを茹で上げ燻したもの。カットして醬油やマヨネーズをつけて食べますが、夏は地元の漬物「茎漬け」を刻んで一緒に楽しむのが大定番。常温保存可能なので、お土産にもおすすめ。

これが茎漬け。
これが茎漬け。

『主婦の店 セントラルマーケット』の詳細

住所:三重県尾鷲市古戸野町2-18/営業時間:9:00~21:00
/定休日:無/アクセス:JR紀勢本線尾鷲駅から徒歩12分

取材・文・撮影=菅原佳己
『旅の手帖』2024年4月号より