湖面をすべる風がちょっとずつ暖かく

『源氏物語』ゆかりの寺である石山寺は、花の寺として名高い。

「作中に梅、桜、藤など多くの花が登場します。境内でも早春の梅をはじめ、四季折々の花を楽しめますよ」と参事の田中眞一さん。

石山寺から10㎞ほど南にある『寿長生(すない)の郷』もまた、梅の名所。大津の和菓子店『叶 匠壽庵(かのう しょうじゅあん)』が、菓子に使われるユズや約700本の梅を育てている里山だ。城州白という品種が植わる梅林では、白い花が可憐に揺れる。この時期限定の梅大福をはじめ、和菓子とともに観梅すれば風情もひとしお。

石山寺の源氏の間には、紫式部像。ここに参籠し琵琶湖に映る満月を見て、『源氏物語』を起筆したという。
石山寺の源氏の間には、紫式部像。ここに参籠し琵琶湖に映る満月を見て、『源氏物語』を起筆したという。
例年3月上~中旬に梅の花が見頃を迎える寿長生の郷(写真=寿長生の郷)。
例年3月上~中旬に梅の花が見頃を迎える寿長生の郷(写真=寿長生の郷)。
琵琶湖第1疏水は春、桜の名所に。
琵琶湖第1疏水は春、桜の名所に。

琵琶湖方面へと踵を返し、昨春開業の『LAGO 大津』へ。こちらも和菓子舗の『たねや』が営んでおり、テラスや店内から望む湖畔の風景が美しい。

広報の猪田祐梨奈さんによると「近江の里山を再現した琵琶湖の森は“みんなでつくり 未来へつなぐ”という思いで近隣の方々にも植樹に参加いただきました。もうすぐ1年がたち、木もだいぶ大きく育ってきました」。

『LAGO 大津』の敷地面積は店舗の約15倍もの広さ。大半は「琵琶湖の森」という里山環境エリアに。
『LAGO 大津』の敷地面積は店舗の約15倍もの広さ。大半は「琵琶湖の森」という里山環境エリアに。
大津宿の旧東海道筋には古い建物が点在。
大津宿の旧東海道筋には古い建物が点在。

日本一の湖が大津にもたらす恩恵は計りしれない。池蝶貝で養殖するびわ湖真珠もその一つ。『神保(じんぼ)真珠商店』の杉山知子さんいわく「最盛期の昭和40~50年代には90軒近い養殖業者がいた」そう。

「ただ、私が商売を継承した10年ほど前は、琵琶湖の汚染などの影響で養殖業者が数軒に減っていました。もともと海外で人気が高かった“びわ湖真珠”の魅力を国内でも広めたくて、2014年にびわ湖真珠のアクセサリーを販売する実店舗をオープンしたんです」

自身も湖魚を食べて育ったからこそ、その食文化を伝えたいと語るのが『至誠庵』の井上貫太さんだ。

「母は子どもでもふなずしが食べられるよう、ふなずしを使ったクッキーなどを考えました。自分も新たなレシピやお酒のペアリングで湖魚の可能性を広めたい。ふなずしの飯(いい)※米の部分をポテサラに混ぜるといいアテになります!」

『近江もーれつや ほたるの里』安田 功さん。「梅の花の時期は、石山寺門前の各店で時期限定の料理や甘味を提供します」。
『近江もーれつや ほたるの里』安田 功さん。「梅の花の時期は、石山寺門前の各店で時期限定の料理や甘味を提供します」。
2~4月限定、『近江もーれつや ほたるの里』の揚げみたらし梅の香1本170円。外カリ中モチのだんごに梅だれがかかる。
2~4月限定、『近江もーれつや ほたるの里』の揚げみたらし梅の香1本170円。外カリ中モチのだんごに梅だれがかかる。

湖魚を肴に一杯なら、地元漁師4人から仕入れる『からっ風』がいい。品書きに躍る“琵琶湖八珍”や“滋賀県産”の文字に地元愛がにじむ。

「いまのホンモロコは、卵を抱く前の寒モロコといって脂がのってうまいですよ」と店主の田中大士さん。ワタカにハスなど「?」の魚種を、店主家族や常連さんに教えてもらうのが楽しく、酔いも加速。いつの間にか夜がふけていった。

漁師の向こうに日本三名橋の一つ、瀬田の唐橋。
漁師の向こうに日本三名橋の一つ、瀬田の唐橋。
国宝である三井寺の金堂(本堂)は桃山時代築。春は金堂から南に続く参道が桜で彩られる。
国宝である三井寺の金堂(本堂)は桃山時代築。春は金堂から南に続く参道が桜で彩られる。
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『石山寺』奈良時代創建、聖武天皇の勅願寺

国の天然記念物・硅灰石が大きく露出する。
国の天然記念物・硅灰石が大きく露出する。
「東大門は淀殿の寄進で改修されたと伝わっています」と参事の田中さん。両脇の仁王像は鎌倉時代の仏師、運慶・湛慶(たんけい)の作とも。
「東大門は淀殿の寄進で改修されたと伝わっています」と参事の田中さん。両脇の仁王像は鎌倉時代の仏師、運慶・湛慶(たんけい)の作とも。
第一梅園から月見亭を望む(写真=石山寺)。
第一梅園から月見亭を望む(写真=石山寺)。

寺号の由来となった巨大な硅灰石(けいかいせき)の上に、国宝の本堂や日本最古の多宝塔などが立つ。花の寺としても有名で、例年2月上旬~3月中旬は、三つの梅園で40種約400本の梅が咲き誇る。盆栽ならぬ盆梅も、硅灰石の前の広場で展示。

☎077-537-0013
8:00~16:00受付
無休
600円(本堂内陣は別途500円)
滋賀県大津市石山寺1-1-1
京阪石山坂本線石山寺駅から徒歩11分

『至誠庵(湖舟)』早春から春限定の艶やか釜めしも!

梅と桜の花の時期限定、梅干しと大葉が香る釜めしの春定食3500円程度。
梅と桜の花の時期限定、梅干しと大葉が香る釜めしの春定食3500円程度。
ふなずしの飯をのせたふなずしパイ756円。
ふなずしの飯をのせたふなずしパイ756円。
3代目の井上貫太さん。
3代目の井上貫太さん。

ニゴロブナやウロリ(ヨシノボリの稚魚)など琵琶湖の魚にこだわって加工・販売。魚が揚がった日にしっかり洗って計1年近く仕込むふなずしや、注文後にさばいて備長炭で焼くうな重などは、併設の湖舟で食事としても楽しめる。

☎077-534-9191
10:00~17:00(湖舟は11:00~14:30LO。夜は要予約)
不定休
滋賀県大津市石山寺3-2-37
京阪石山坂本線石山寺駅から徒歩11分

『粋世(いなせ)』ステイするだけで趣深い文化体験

大津町家の宿 『粋世』 を改修した世一康博さんとスタッフの髙木紗央里さん。
大津町家の宿 『粋世』 を改修した世一康博さんとスタッフの髙木紗央里さん。
中庭から談話室を望む。灯籠は当時からあったもの。
中庭から談話室を望む。灯籠は当時からあったもの。
母屋の客室・晴嵐。窓外には三井寺が。
母屋の客室・晴嵐。窓外には三井寺が。

京都だけでなく大津も回遊してほしいと、米穀商だった町家を、もとの状態を極力生かして宿に改装。細工を凝らした欄間や太い梁、中庭などが美しい。客室は洗面台・トイレを備える母屋の4室と、風呂まで付く離れの3室。

☎077-510-0005
素泊まり9500円~
7室
滋賀県大津市長等3-3-33
京阪石山坂本線三井寺駅から徒歩3分

入口から奥まで続く土間は、途中から高い吹き抜けに。土間を見た外国人客いわく「アメージング!」。
入口から奥まで続く土間は、途中から高い吹き抜けに。土間を見た外国人客いわく「アメージング!」。

『からっ風』家族との会話と湖国の食材で温まる

代々青果店だった店を田中詔二さんが食事処に改装。
代々青果店だった店を田中詔二さんが食事処に改装。
長男の大士さんも加わり、居酒屋営業を開始。
長男の大士さんも加わり、居酒屋営業を開始。
ホンモロコ焼1000円、琵琶マスが主役の刺し盛り2人前2400円ほか。浅茅生(あさぢお)純米730円など地酒は約10種。
ホンモロコ焼1000円、琵琶マスが主役の刺し盛り2人前2400円ほか。浅茅生(あさぢお)純米730円など地酒は約10種。

田中詔二 さん・美津江さん夫妻と、長男夫妻で切り盛り。手長エビやホンモロコといった琵琶湖八珍をはじめ、伝統野菜から栃餅まで、地元の食材・料理にこだわる。あつあつのワカサギ天880円にかぶりつき、滋賀の地酒をキューッとやる幸せときたら!

☎077-522-4068
17:30~22:00(土曜は~21:30)
日曜・祝日休(土曜は不定休)
滋賀県大津市打出浜6-5
京阪石山坂本線石場駅から徒歩2分

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『LAGO 大津』甘味と湖畔の絶景でほっこり時間

湖の奥に比叡山を望む店内。
湖の奥に比叡山を望む店内。
併設の工房で作る焼きたてたねやカステラ。
併設の工房で作る焼きたてたねやカステラ。
3月下旬まではショコラ935円を提供。
3月下旬まではショコラ935円を提供。

滋賀県の和菓⼦舗たねやが、水をテーマに開業。敷地内には小川が流れ、生きものたちが憩えるような水辺も整備。四季折々の和菓子に加え、CHAYAでは生地をしっかり泡立ててふっくら食感に仕上げた、焼きたてたねやカステラを提供!

9:00~18:00(CHAYAは~17:00LO)
無休
滋賀県大津市由美浜4
京阪石山坂本線錦駅から徒歩17分

おこわ近江牛1430円と赤こんポタージュ715円(各価格はイートイン時)。
おこわ近江牛1430円と赤こんポタージュ715円(各価格はイートイン時)。

『神保真珠商店』自然な色みと曲線に魅せられて

ネックレス7万1500円などきれいなびわ湖真珠が際立つよう、装飾は最小限に。
ネックレス7万1500円などきれいなびわ湖真珠が際立つよう、装飾は最小限に。
『神保真珠商店』杉山知子さん。「各養殖業者さんで得意な形状が違うのも“びわ湖真珠”のおもしろさです」。
『神保真珠商店』杉山知子さん。「各養殖業者さんで得意な形状が違うのも“びわ湖真珠”のおもしろさです」。
3代目の杉山さん自ら真珠の穴開け加工も行う。
3代目の杉山さん自ら真珠の穴開け加工も行う。

びわ湖真珠は池蝶貝に核を入れない無核真珠、または正円だけでなくさまざまな形の核を入れてそのまわりに真珠層を巻かせて作る有核真珠が特徴。有機的な形や淡い色みなど多様な真珠を生かしたアクセサリーが美しい。

☎ 077-523-1254
10:00~18:00
火曜と第2・4水曜・祝日休(不定休あり)
滋賀県大津市中央3-4-28
JR東海道線大津駅から徒歩10分

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取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2026年2月号より

雪深い冬、多くの人々がウィンタースポーツ目当てに訪れる蔵王。ただ、温泉街には多くの新店が開業しており“すべる人”だけのものにしておくのはもったいない! 路地の雪を踏み踏み散策すれば、新たな息吹がそこかしこに。
東海道五十三次の42番目の宿場として栄え、いまもおおよそ1㎞四方のめぐりやすい範囲に史跡が点在する桑名。ハマグリをはじめ、名産品も多い美(うま)し国・三重の玄関口で“新旧のいいもん”を訪ねた。
修験道の開祖とされる役行者(えんのぎょうじゃ)が開山した、大峯山(おおみねさん)。洞川(どろがわ)地区は、標高1719mの霊峰へ向かう修験者をもてなす行者宿として栄えてきた。近年は温泉街・避暑地としても人気を博す山岳信仰の里を歩いた。
2014年から“ワインの郷”を全面的に打ち出し、新たなワイナリーやワイン店も増えている山形県上山市。盆地で育まれたブドウで醸すフレッシュなワインをレトロな温泉街で楽しむと、おいしさもひとしお!