雪深い季節にこそ享受したいこの湯力

江戸時代創業、『えびや旅館』の廊下を歩くと白黒写真が目に留まる。いまと変わらぬ木造3階建ての宿の下には、羽前南村山郡高湯の文字。

「明治から大正にかけての写真だと思います。いまも蔵王温泉のことを“高湯”と呼ぶお年寄りの方もいるの」と女将の岡崎里枝さん。

標高880m前後の高所で、大小の湯宿が肩を寄せ合う蔵王温泉。その独特の風情や地元民の温かさに惹かれ、2020年に『Zao Onsen 湯旅屋 高湯堂』を開いたのが竹直也さん・友美子さん夫妻だ。

「高齢化で閉業する高湯通りのお宿・お店が増えつつあるなか、蔵王を盛り上げたいと、温泉グッズを扱うこの店を始めたんです」と友美子さん。3年後には、同じく高湯通りに『TAKAYU温泉パーラー』を開業。強炭酸のカラフルなソーダが湯上がりの体に心地いい。

蔵王ロープウェイの山頂線は樹氷観賞の特等席(写真=蔵王ロープウェイ)。
蔵王ロープウェイの山頂線は樹氷観賞の特等席(写真=蔵王ロープウェイ)。
『上湯共同浴場』の脇から湯気が上がる。
『上湯共同浴場』の脇から湯気が上がる。

温泉街を盛り上げたいという思いは、『丸伝商店 高湯饅頭湯ノ香(ゆのか)』の店長・佐藤慎太郎さんも同じだ。

「“100年後の蔵王に明かりを灯す”を目的に掲げたYugeという会社に属し、活動しています。今後は高規格のスキー・スノーボード用品をそろえたレンタルステーションや、BAR&CAFEを備えた素泊まり宿も開業予定です!」

蔵王ロープウェイ蔵王山麓駅では東武鉄道の8000系車両の展示を開始。冬期は乗車待ちのお客を対象に、混雑時のみ開放予定。
蔵王ロープウェイ蔵王山麓駅では東武鉄道の8000系車両の展示を開始。冬期は乗車待ちのお客を対象に、混雑時のみ開放予定。
『TAKAYU温泉パーラー』の蔵王湯あがりソーダ550円とTAKAYUフルーツソーダ800円。1人30分500円で卓球も楽しめる。
『TAKAYU温泉パーラー』の蔵王湯あがりソーダ550円とTAKAYUフルーツソーダ800円。1人30分500円で卓球も楽しめる。

新風を吹き込む人たちが口をそろえていうのが、「やはり蔵王の温泉はすごい」。『源七露天の湯』の齋藤源一郎さんいわく「蔵王温泉の総湯量は、毎分約5700ℓ。日本で2番目に強いとされる強酸泉を、かけ流しで堪能できます」。

その湯の力を鮮烈に感じられるのが『すのこの湯 かわらや』。なんと源泉が浴場の真下にあるため、浴槽の底板であるすのこの間から“生まれたて新鮮ほやほや”の湯が湧いてくるのだ。

「湯花の量が多いのでよく掃除するんだけど、木材がすぐ削れちゃう。最近は硬い栗の木に替えました」と女将の斎藤さん。

冬期も営業する日帰り湯としては、蔵王一露天風呂が広い『源七露天の湯』。
冬期も営業する日帰り湯としては、蔵王一露天風呂が広い『源七露天の湯』。
『源七露天の湯』齋藤源一郎さん。「例年12月下旬から雪見風呂を楽しめます」。
『源七露天の湯』齋藤源一郎さん。「例年12月下旬から雪見風呂を楽しめます」。
蔵王の朱い大鳥居の奥に、月山や朝日連峰を望む。
蔵王の朱い大鳥居の奥に、月山や朝日連峰を望む。

最後は温泉街からバスで15分ほど下った『蔵王ブルワリー&クランクダイニング』へ。

「僕が小学生だった頃のにぎわいを取り戻したいと、2022年に醸造所を立ち上げました。クラフトビールで山形と蔵王の魅力を発信できれば」と地元出身の海谷康裕さん。YAMAGATAさくらんぼALEをゴクリとやれば、クリアな味わいのあとに県産サクランボの高貴な香りがふわり。あつあつの湯で発汗した体に、沁みわたる~。

黄色い米粒で稲の花を表現し、豊作を願い作られた稲花餅(いがもち)の里。写真は『いがもちの里 さんべ』のもので、持ち帰りは5枚900円~。
黄色い米粒で稲の花を表現し、豊作を願い作られた稲花餅(いがもち)の里。写真は『いがもちの里 さんべ』のもので、持ち帰りは5枚900円~。
『いがもちの里 さんべ』の三部 葵さん。稲花餅は母娘で手作り。「その日のうちにおめしあがりください」。
『いがもちの里 さんべ』の三部 葵さん。稲花餅は母娘で手作り。「その日のうちにおめしあがりください」。
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『すのこの湯 かわらや』芯からポカポカになる足元湧出泉

お尻に湯が当たる感覚が不思議。奥には体を洗えるシャワー室がある。
お尻に湯が当たる感覚が不思議。奥には体を洗えるシャワー室がある。

斎藤さん母娘がやさしく迎えてくれる日帰り湯。すのこの真下から湧く源泉で湯船が満たされ、縁からあふれてかけ流される。そのため、湯が空気にふれず新鮮で肌あたりがやわらかい。2時間2500円で休憩できる個室も。

☎023-694-9007
9:30~18:30受付、木休
600円
泉質/酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物泉
山形県山形市蔵王温泉43
山形新幹線山形駅からバス37分の蔵王温泉バスターミナル下車、徒歩5分

『えびや旅館』女将手製の料理と自家源泉に温(ぬく)まる

この日の夕食は芋煮、アケビの肉詰め、“もって菊”のお浸し、天然のなめこおろしなど。ご飯は自家栽培米のはえぬきを炊いてくれる。
この日の夕食は芋煮、アケビの肉詰め、“もって菊”のお浸し、天然のなめこおろしなど。ご飯は自家栽培米のはえぬきを炊いてくれる。
自家源泉をかけ流し。男女ともに外湯(写真)と内湯がある。
自家源泉をかけ流し。男女ともに外湯(写真)と内湯がある。
全室和室。温泉街や朝日連峰を望む客室も。
全室和室。温泉街や朝日連峰を望む客室も。

温泉街の奥に立つ木造3階建ての宿を、19代目の岡崎さん夫妻が切り盛り。蔵王のいまの見どころを親切に案内してくれる女将・純子さんをはじめ、温かい接客に心なごむ。夕食は生ラムのジンギスカンなど手作りの郷土料理がずらり。

☎023-694-9011
1泊2食1万6650円~、不定休
泉質/酸性・含硫黄-硫酸塩・塩化物泉
山形県山形市蔵王温泉3
山形新幹線山形駅からバス37分の蔵王温泉バスターミナル下車、徒歩5分

女将の岡崎純子さん。
女将の岡崎純子さん。

『桃園(とうえん)』山形の味覚で一杯ならここで決まり

山形牛陶板焼き2200円、山形のそば屋さん発祥の和風ラーメン・とり中華990円、山形牛入りのいも煮770円。
山形牛陶板焼き2200円、山形のそば屋さん発祥の和風ラーメン・とり中華990円、山形牛入りのいも煮770円。
外国人客も多い。
外国人客も多い。

脂が甘くて肉質のやわらかい山形牛の料理やジンギスカンから、野菜を細かく刻んで味つけした“だし”、山形県内陸部の家庭料理・ひっぱりうどんまで、地元のハレの日グルメや庶民の味がずらり。地酒は10種ほど用意!

☎080-1654-2080
18:00~21:00頃
月休(12月24日~3月は~21:30LO、無休)
山形県山形市蔵王温泉33
山形新幹線山形駅からバス37分の蔵王温泉バスターミナル下車、徒歩4分

『Zao Onsen 湯旅屋 高湯堂』これで湯めぐりのわくわく倍増!

店長の竹友美子さん着用の温泉羽織8800円は、湯上がりに羽織ると気持ちいい木綿製。
店長の竹友美子さん着用の温泉羽織8800円は、湯上がりに羽織ると気持ちいい木綿製。
玉こん三姉妹3190円ほか、かわいいこけしグッズも販売。
玉こん三姉妹3190円ほか、かわいいこけしグッズも販売。
山形県河北町(かほくちょう)の湧水石鹸990円、オリジナル檜湯桶6600円など。
山形県河北町(かほくちょう)の湧水石鹸990円、オリジナル檜湯桶6600円など。

2020年に誕生した、日本初の温泉コーデショップ。提携15施設の入浴料が割引になる蔵王温泉湯巡りタオル2枚セット1126円や、山形県寒河江(さがえ)の職人が手編みする草履6600円のほか、自宅で温泉気分を味わえる蔵王温泉風の入浴剤も。

☎080-3190-0019
9:30~12:00・14:00~19:00(3月中旬~11月は9:30~12:00・13:00~17:30)
火・水休
山形県山形市蔵王温泉19
山形新幹線山形駅からバス37分の蔵王温泉バスターミナル下車、徒歩4分

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『蔵王ブルワリー&クラングダイニング』樹氷を彷彿とさせる白いビールも!

マネージャーの海谷友香さん(右)と料理長の高橋香さん。
マネージャーの海谷友香さん(右)と料理長の高橋香さん。
「苦みと柑橘の香りが効いたZAO CLASSIC IPAもぜひ」と醸造長・坂本陽介さん。
「苦みと柑橘の香りが効いたZAO CLASSIC IPAもぜひ」と醸造長・坂本陽介さん。
地元野菜が山盛りの蔵王Crang pizza1680円はナッツクリーム付き。4種飲み比べは1200円。瓶での販売もある。
地元野菜が山盛りの蔵王Crang pizza1680円はナッツクリーム付き。4種飲み比べは1200円。瓶での販売もある。

地元蔵王の軟水で仕込むクラフトビールを味わえる。樹氷をイメージし、白くてさわやかな甘みに仕上げたSNOW MONSTERや、山形県産サクランボ果汁を使ったYAMAGATAさくらんぼALEなど、山形らしいテイストが魅力。

☎ 023-666-8151
10:30~16:00LO(土・日・祝は~16:30LO)
水休
山形県山形市蔵王上野南坂1096-18
山形新幹線山形駅からバス22分の蔵王二小前下車、徒歩5分

『丸伝商店 高湯饅頭湯ノ香(ゆのか)』蔵王になかった意外なアレでほっかほか

抹茶とバニラを選べる饅頭アイス500円。お土産用の温泉饅頭は6個1200円。玉こんにゃく200円。
抹茶とバニラを選べる饅頭アイス500円。お土産用の温泉饅頭は6個1200円。玉こんにゃく200円。
店長の佐藤慎太郎さん。
店長の佐藤慎太郎さん。

蔵王に新たなお土産をと、2024年から温泉饅頭を提供。店内でふかしたての饅頭をいただけば、黒糖を使ったふかふかの生地とこしあんで体の内から温まる。アイスの上に温泉饅頭をのせた温・冷コンビも断然アリ!

☎023-665-5900
10:00~16:00、不定休
山形県山形市蔵王温泉973-3
山形新幹線山形駅からバス37分の蔵王温泉バスターミナル下車、徒歩1分

冬のイベント「蔵王樹氷まつり」を開催!

松明(たいまつ)滑走に合わせ、2月7日は冬のHANABIも(写真=山形市観光協会)。
松明(たいまつ)滑走に合わせ、2月7日は冬のHANABIも(写真=山形市観光協会)。

会場は蔵王温泉スキー場。2月7日には松明に見立てたLEDライトを手にゲレンデを滑走する「松明滑走」、1月25日・2月23日にはスキー場ならではの車両を展示する「冬の働く車大集合!」などが開催される。

☎023-647-2266(山形市観光案内センター)
開催期間/12月27日~2月23日(時間はイベントにより異なる)

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取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2026年1月号より

東海道五十三次の42番目の宿場として栄え、いまもおおよそ1㎞四方のめぐりやすい範囲に史跡が点在する桑名。ハマグリをはじめ、名産品も多い美(うま)し国・三重の玄関口で“新旧のいいもん”を訪ねた。
修験道の開祖とされる役行者(えんのぎょうじゃ)が開山した、大峯山(おおみねさん)。洞川(どろがわ)地区は、標高1719mの霊峰へ向かう修験者をもてなす行者宿として栄えてきた。近年は温泉街・避暑地としても人気を博す山岳信仰の里を歩いた。
秋が来る。東は魚沼丘陵、西は東頸城(ひがしくびき)丘陵に囲まれた雪国に、短い秋がやってくる。「大地の芸術祭」の舞台でもあり、米どころでもあり、山々の紅葉が美しい盆地の山里で、実りのフルコースを満喫!
川沿いにワイナリーやヴィンヤード(ワイン用のブドウ畑)が点在し、近年話題の“千曲川(ちくまがわ)ワインバレー”。その主要地の一つ、計十数軒が集まる小諸(こもろ)で里山のテロワールを感じる旅へ。里山だけでなく町なかにも楽しい変化が!
2014年から“ワインの郷”を全面的に打ち出し、新たなワイナリーやワイン店も増えている山形県上山市。盆地で育まれたブドウで醸すフレッシュなワインをレトロな温泉街で楽しむと、おいしさもひとしお!