地球環境を守るためには何かを強いられたり、ガマンをしたり、そんなイメージがありませんか? でも「サステナブル」って意外とシンプル。地産地消だって、公共交通機関を使うことだって、環境意識の高い宿に泊まることだってサステナブル。そんなサステナブルなスイスの旅、秋編を5回にわけて案内します。今回の旅の舞台はスイス南西部に位置し、“アルプスの心臓部”ともいわれるヴァレー州。マッターホルンをはじめとした4000m級の名峰群、山間に延びる谷や氷河、山の斜面に続くブドウ畑など、幅広い景観が売りのエリアです。
秋は新酒の季節。毎年「ボジョレー・ヌーボー」の解禁が話題になりますが、スイスの秋もワインで盛り上がります。そんなスイスワインの生産量トップを誇るのが、ヴァレー州。晴天率が高く、乾燥した気候と土壌がワイン造りに適した地域で、ローヌ川が流れるローヌ谷の両側に広がる山の急斜面や麓の丘を利用して、ブドウが作られています。スイスワインの魅力にふれながら、自然に囲まれた贅沢で親密な滞在を楽しめる宿泊体験「グレープ・エスケープ」をしてきました。

ベットマーアルプって?

標高1948m、アルプス初の世界遺産・アレッチ氷河観光の拠点として知られる山村。ローヌ谷を挟んだ正面には、マッターホルンやドーム、ヴァイスホルンなどヴァレーアルプスの名峰群が連なる。

アクセスは、谷底のベッテン駅からロープウェイで7分ほど。ベッテン駅は人気の観光鉄道「グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)」のルート上にあるので、さまざまな観光地との組み合わせもできる。

村は環境保全のため、ガソリン車乗り入れ禁止のカーフリーリゾートだが、周辺のホテルは徒歩圏内なので心配はいらないし、電気バス「アレッチ・エクスプレス」も走っている。

谷底からロープウェイで上っていく。
谷底からロープウェイで上っていく。
ベットマーアルプ駅。背後にヴァレーアルプスが迫る。
ベットマーアルプ駅。背後にヴァレーアルプスが迫る。
ベットマーアルプ~リーダーアルプ間を走る電気バス。
ベットマーアルプ~リーダーアルプ間を走る電気バス。
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世界遺産の氷河と森を歩く

何はともあれ、アルプス最大・最長のアレッチ氷河を見に行かなくちゃ。

電気バスでリーダーアルプへ行き、ゴンドラでモースフルー展望台に上る。夏に来たときと比べると周りの木々の様子が違う。足元もアルペンローゼがあちこちに咲いていたけれど、いまはベリー系の実がなっている。

足元に目をやるとベリーの実が。
足元に目をやるとベリーの実が。

アレッチの森へと歩を進める。

夏に歩いた道とはルートを変え、もっと氷河に近い道をセレクト。スイスのハイキングコースはとにかく豊富で、体力や時間など、自分の都合でセレクトできるのがうれしい。

世界遺産・アレッチの森の秋の楽しみは、なんといってもレルヒ(西洋カラマツ)の紅葉。緑からオレンジのグラデーションがとにかく美しく、モールのように細かい針葉はフワフワしており隙間があるので、そこに日が当たるとキラキラ光る。

その光景にしばし足を止めていたら、駆けていく動物が。あ、シャモアだ! 何頭もいる。

それにしても、氷河の後退具合が激しい。氷舌がかなり短くなっている。氷河がなくなったところに小さな赤ちゃんレルヒが生えていて、そこもいずれは森になっていくんだろうな。

森はずっとこんな紅葉のグラデーション。
森はずっとこんな紅葉のグラデーション。
シャモアが斜面を猛スピードで駆け抜けていった。
シャモアが斜面を猛スピードで駆け抜けていった。
気持ちよく歩ける道が続く。
気持ちよく歩ける道が続く。
『ヴィラ・カッセル』はすぐそこ。
『ヴィラ・カッセル』はすぐそこ。

今日のハイキングの目的地は『ヴィラ・カッセル』。英国の銀行家、アーネスト・カッセル卿の夏の別荘だった建物で、ティータイムを楽しむ予定だ。

モースフルー展望台から2時間ほど、大きなアップダウンはないので楽に歩ける。

瀟洒(しょうしゃ)な建物が急に現れる。現在は「アレッチ自然保護センター」になっており、動植物や氷河について学べる施設に。宿泊もできる。
瀟洒(しょうしゃ)な建物が急に現れる。現在は「アレッチ自然保護センター」になっており、動植物や氷河について学べる施設に。宿泊もできる。
カッセル卿の別荘時代の雰囲気のなかで優雅なティータイムを。
カッセル卿の別荘時代の雰囲気のなかで優雅なティータイムを。

「オリジナルのスープは絶対に」と地元の人に言われたとおり、本日のスープをオーダー。カボチャとカスタニエン(栗)のスープだ。ふぅー、体に染みわたる。味にかなり主張のあるお互いが、絶妙なバランスで存在している。

そしてお待ちかねのホームメイドケーキを。プラムのケーキはシナモンが効いていて少し大人味。レモンケーキは酸味がちょうどいい。せっかくのティーサロンなので、紅茶をいただく。

ホームメードのケーキが5種ほど並ぶ。どれにしようか迷う~。
ホームメードのケーキが5種ほど並ぶ。どれにしようか迷う~。
レモンケーキは甘さ控えめ。紅茶とよく合う。
レモンケーキは甘さ控えめ。紅茶とよく合う。
小麦粉や卵、チーズなどの産地を教えてくれる地図が貼ってある。
小麦粉や卵、チーズなどの産地を教えてくれる地図が貼ってある。

『ヴィラ・カッセル』
●リーダーアルプ・ウエスト駅から徒歩30分
https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/villa-cassel/

小さな村は時間帯を変えて散策

ベットマーアルプのシンボルになっているのが、1697年に建てられた雪のマリア礼拝堂。小高い丘にポツンと立つその姿は、いかにもヨーロッパの小さな田舎町の雰囲気を醸し出す。

圧巻なのは、この教会の背後。ヴァレーアルプスの山々がずらっと並び、天気のいい日はマッターホルンも見える。朝、昼、夕方、いつ見ても絵になるので、ついつい立ち止まってシャッターを押してしまう。

マッターホルンが見えた夕景。
マッターホルンが見えた夕景。
内部や祭壇もこぢんまりとシンプルで落ち着く。
内部や祭壇もこぢんまりとシンプルで落ち着く。
2023年に屋根と銅板を葺き替えた。
2023年に屋根と銅板を葺き替えた。

朝焼けのヴァレーアルプスと教会をカメラに収めるため、日の出時間前に早起き。前日に下見しておいた場所に行くと、すでに先客が! 日々表情を変える朝焼けショーをともに楽しんだ。

こんな感動的な朝焼けは、ここに泊まらないと見られない。早起きをして、朝食前に散歩がてら教会に出かけよう。充実の一日が始まる。

朝焼けを狙って。白い壁が映える。
朝焼けを狙って。白い壁が映える。
別の日は、ちょっと怖いような朝焼けだった。
別の日は、ちょっと怖いような朝焼けだった。

伝統のチーズづくりを知る

電気バスでリーダーアルプ・ミッテ駅に移動し、歩いて『アルプミュージアム』へ。

ここでは姿を消しつつある、アルプスでの牧畜と暮らしを見ることができる。その土地の伝統の味を守り、伝えていくこともサステナブル。そんな食文化を知ることもサステナブルなのだ。

定期的に公開されている、チーズづくりを見学しよう。実演してくれるのは、ロベルタさん。台所で生乳の入った大きな銅鍋を薪火にかけ、撹拌していた。小屋じゅうに燻した匂いが立ち込める。

山小屋の住居部分や厩舎、展示などを見ながら待っていると、「さあ、みんな集まって」とロベルタさん。加熱して少しとろみを帯びた生乳を飲ませてくれた。まだチーズにはほど遠い。

ロベルタさんの旦那さんが作った、かわいいモチーフがあちこちに。
ロベルタさんの旦那さんが作った、かわいいモチーフがあちこちに。
薪をくべて大きな銅鍋で加熱する。
薪をくべて大きな銅鍋で加熱する。
加熱した生乳を味わう。生クリームよりあっさり。
加熱した生乳を味わう。生クリームよりあっさり。

この生乳に牛の胃袋から取った酵素を入れて乳酸発酵させる。「カード」と呼ばれるプリン状態のものができたら、熊手のようなチーズハープという道具で切り混ぜていく。

力のいる作業が多く、女性一人ではなかなか大変だ。途中でカードやカッテージチーズ状のものを食べさせてもらう。だんだんチーズっぽくなってきて……。

最後に型へ入れてプレスし、秘伝の塩水に漬ける。その後、隣の貯蔵庫へ。

貯蔵庫には完成したチーズが置いてあった。伝統製法でつくるロベルタさん印のチーズは販売もしているそうだが、数年先まで予約でいっぱいなのだとか。

●スイスチーズの世界:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/summer-autumn/summer/stories/about-swiss-cheese/

酵素入れる。何かの実験みたい!
酵素入れる。何かの実験みたい!
ロベルタさんのチーズの型は、アレッチ氷河とエーデルワイスが描かれている。
ロベルタさんのチーズの型は、アレッチ氷河とエーデルワイスが描かれている。
見晴らしのいい場所に立つ。
見晴らしのいい場所に立つ。

『アルプミュージアム』
●リーダーアルプ・ミッテ駅から徒歩10分
https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/alpmuseum/

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泊まったのは『ホテル・アルプフリーデン』

ベットマーホルンへ上るゴンドラ駅がすぐ後ろにあり、ハイキングや散策の拠点にぴったり。バルコニーやレストランからは、ローヌ谷を隔てた向こうにマッターホルンやヴァイスホルンの壮大な景色が見渡せる。おいしいと評判のレストランでは、郷土料理を厳選されたワインとともに。

小さな村の奥のほうに立つ。
小さな村の奥のほうに立つ。
木のぬくもりにあふれた客室。
木のぬくもりにあふれた客室。
朝食はビュッフェ。ヴァレーのチーズやフルーツのジャムが充実。
朝食はビュッフェ。ヴァレーのチーズやフルーツのジャムが充実。
談話ルーム。読書に耽っている人もいた。
談話ルーム。読書に耽っている人もいた。
レストランの壁にも礼拝堂!
レストランの壁にも礼拝堂!
山のホテルは夕食付き。
山のホテルは夕食付き。
ワインはヴァレー州のワイナリー「ロイカーゾンネ 」の赤、メルローとガマレのアッサンブラージュ(ブレンド)「POSITIVO」をセレクト。
ワインはヴァレー州のワイナリー「ロイカーゾンネ 」の赤、メルローとガマレのアッサンブラージュ(ブレンド)「POSITIVO」をセレクト。

『ホテル・アルプフリーデン』
●ベットマーアルプ駅から徒歩13分
https://www.myswitzerland.com/ja/accommodations/hotel-alpfrieden/

スイスワインの世界:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/summer-autumn/wine-tourism/swiss-wine/

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荷物託送サービスでフットワークの軽い旅

サステナブルな旅に欠かせないのが、鉄道などの公共交通機関。交通網の発達しているスイスは、自由に移動して周遊の旅もへっちゃらだけど、乗り継ぎや途中下車をする際に大きなスーツケースはジャマになる。

そんなときに利用したいのが、荷物託送サービス。スイス国内の駅から駅へ、ホテルなどの滞在地から次の滞在先へと荷物を直送できる。

さらに、今回利用して便利だったのが「AirPortr」というサービス。

成田空港で荷物を預けたら、チューリヒ空港でピックアップすることなく、2日目の滞在ホテルに届けてくれた。WEBから申し込みができ、荷物がどこにあるのかを随時知らせてくれる。帰りも出国の2日前に滞在ホテルから出せば、チューリヒ空港で確認する必要はなく、成田空港のターンテーブルへ。

快適なサービスを活用して、軽やかにスイスを旅したい。

【Information】日本からスイスへは

成田~チューリヒ間を約14時間で結ぶ、スイス インターナショナル エアラインズの直行便が週5便運航している。
[気候]春・秋は8~15度、夏は18~28度、冬は-2~7度。山岳地帯と麓の村では温度差があり、日中と朝晩の気温差も激しいので、レイヤード(重ね着)が基本。着脱しやすい服装を準備したい
[時差]日本の-8時間(夏は-7時間)
[言語]ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4言語(地域により異なる)。ホテルやお店では英語が通じる
[スイスの情報]https://www.myswitzerland.com/ja/

取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部 協力=スイス政府観光局、スイス インターナショナル エアラインズ、スイストラベルシステム

旅のテーマは「サステナブル」。地球環境を守るためには何かを強いられたり、ガマンをしたり、そんなイメージがありませんか? でもサステナブルって、そんなに構えることじゃないんです。地産地消だって、公共交通機関を使うことだって、環境意識の高い宿に泊まることだってサステナブル。そんなサステナブルなスイス2週間の旅を4回にわけて案内します。
サステナブルなスイス2週間の旅の2回目。アルプスの氷河をあらゆる場所から楽しみ、旅人憧れのマッターホルンを擁する村・ツェルマットまで。絶景の連続にため息がこぼれます。眼福の旅の後半へ出発!
人気の絶景路線「グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)」に乗ると20分ほどで行けるのだが、約2時間かけてもわざわざ乗りたい列車がある。それは、6月下旬~10月初旬に特別運転される「フルカ山岳蒸気鉄道」。子どもよりも大人のほうが楽しんでいる? サステナブルなスイス2週間の旅、はみだしの3回目に出発~!
スイスに行ったなら、とにかく大自然にふれたい。それには歩くのが一番! さすがの観光大国、総延長5万㎞以上ものハイキングコースが整備されている。かなりの高所でも、鉄道やロープウェイがあるので、体力や時間に合わせて自分のペースで楽しめるのがうれしい。この旅では、比較的楽に歩けるコースを10カ所ほど回ったが、厳選の4コース+おまけをプレイバック! サステナブルなスイス2週間の旅、最終回です。