「かんぱち・いちろく」のルートはこちら!

緑豊かなゆふ高原線を、ゆったり5時間かけて走り抜ける

JR九州が2024年4月26日、新しいD&S列車「かんぱち・いちろく」の運行を始めた。

「福岡・大分デスティネーションキャンペーン」の開催に合わせて企画されたこの列車のコンセプトは、「ゆふ高原線の風土をあじわう列車」。

久留米から大分に至るゆふ高原線(JR久大本線)沿線の気候や地勢、食や風習、風景、つまり「風土」を、五感を通じて体感できる列車なのだ。

列車の名称は、九州横断鉄道の敷設運動に取り組み、久大本線全通に尽力した麻生観八(あそうかんぱち)氏と、由布院盆地を迂回して現在の由布院駅を通るルートを実現した衞藤一六(えとういちろく)氏の名前に由来。いまでもそのカーブは「一六曲がり」と呼ばれている。
列車の名称は、九州横断鉄道の敷設運動に取り組み、久大本線全通に尽力した麻生観八(あそうかんぱち)氏と、由布院盆地を迂回して現在の由布院駅を通るルートを実現した衞藤一六(えとういちろく)氏の名前に由来。いまでもそのカーブは「一六曲がり」と呼ばれている。

別府から「いちろく」号に乗り込む。

しばらくすると行程唯一の海沿いを走り、鮮やかな絶景が旅の始まりのワクワク感を高めてくれる。

大分からも数名の乗車があり、メインとなるゆふ高原線の旅が始まった。

時刻は11時22分、客室乗務員さんのOKサインが出発の印。大分駅からはゆふ高原線に入り、車内サービスも本格的に始まる。
時刻は11時22分、客室乗務員さんのOKサインが出発の印。大分駅からはゆふ高原線に入り、車内サービスも本格的に始まる。

ほどなく食事の提供を知らせるアナウンスが。

自席で待つように促され、車内散策はひとまずおあずけ。席に戻ると、テーブルには記念乗車証やシール、ランチョンマットがセッティングされていた。

客室乗務員さんがお待ちかねのお弁当を届けてくれ、丁寧に料理の説明をしてくれる。

「かんぱち・いちろく」で提供される食事は曜日ごとに異なり、福岡と大分の名店が味を競いつつ沿線の豊かさを表現する。

この日は、大分市内のフランス料理店『Tomo Clover(トモクローバー)』が手がけた料理。おおいた冠地(かんむりじ)どりや豊後牛(ぶんごぎゅう)、玖珠米(くすまい)など、沿線の食材をフレンチで仕上げた豪華弁当だ。

ラウンジでお酒を購入して味わうと、いっそういい気分になる。

時期に応じて旬の食材を使用。この日のメニューは、久大線沿線の夏野菜と国東(くにさき)地タコのバジルマリネ(地中海風)、九重町「とんとこ豚」肩ロースグリルとキャベツ切干大根のシュークルート(アルザス風)など。
時期に応じて旬の食材を使用。この日のメニューは、久大線沿線の夏野菜と国東(くにさき)地タコのバジルマリネ(地中海風)、九重町「とんとこ豚」肩ロースグリルとキャベツ切干大根のシュークルート(アルザス風)など。
由布院・日田エリアの風土がモチーフの2号車「ラウンジ杉」では、沿線の工芸品など「五感」で楽しめる商品が展示されている。車内販売グッズが充実していて、軽食 やドリンクも種類豊富。長さ約8m、樹齢250年の杉の一枚板カウンターで立ち飲みするのも◎。
由布院・日田エリアの風土がモチーフの2号車「ラウンジ杉」では、沿線の工芸品など「五感」で楽しめる商品が展示されている。車内販売グッズが充実していて、軽食 やドリンクも種類豊富。長さ約8m、樹齢250年の杉の一枚板カウンターで立ち飲みするのも◎。

車窓に由布岳が見え隠れしてくると、列車の名称にもある「一六曲がり」に差しかかった証。

地図で見ると、ひらがなの「つ」の字のように線形が曲がっているのは、由布院の中心地を鉄道が経由するよう衛藤一六氏が誘致した功績だ。

由布院駅では「ゆふいんの森」3号と列車交換、車窓越しに手を振り合う。

南由布~由布院間では「一六曲がり」を象徴するように、由布岳が右から左から見え、線形を感じることができる。
南由布~由布院間では「一六曲がり」を象徴するように、由布岳が右から左から見え、線形を感じることができる。
ゆふ高原線は全線単線。「ゆふいんの森」3号と列車交換のため、由布院駅に6分停車。乗客と窓越しの出会いが。
ゆふ高原線は全線単線。「ゆふいんの森」3号と列車交換のため、由布院駅に6分停車。乗客と窓越しの出会いが。

分水嶺である水分峠を越えると玖珠盆地、卓状台地である伐株山(きりかぶさん)が見えてくる。

すると車内放送からSLの汽笛の音が。豊後森(ぶんごもり)で美しく保存されている九州唯一の近代化産業遺産・扇形機関庫と、SL29612号機を紹介する放送だ。

「かんぱち・いちろく」では沿線の「音」に着目した演出があるのもおもしろい。

豊後森駅付近で見られる、不思議なシルエットの伐株山。
豊後森駅付近で見られる、不思議なシルエットの伐株山。
豊後森駅に隣接する豊後森機関庫とSL。
豊後森駅に隣接する豊後森機関庫とSL。

うきはと天ケ瀬のあたたかなおもてなしにほっこり

旅の中盤に差しかかる頃、最初のおもてなし駅である天ケ瀬(あまがせ)駅に到着。

たくさんの地元の方が笑顔で出迎えてくれた。令和2年7月豪雨で甚大な被害に遭った天ヶ瀬温泉だが、少しずつ復興が進み、お出迎えでも「天ヶ瀬温泉は元気だよ」というメッセージを伝えてくれているように思えた。

「このお出迎えで地域の結束がより強まりました」と、天ヶ瀬温泉旅館組合の神野さん。

水害で甚大な被害を受けた天ヶ瀬温泉。復興に向け結束力は強くなり、乗客へのおもてなしにも力が入る。駅舎には足湯や手湯もあるが、満喫しすぎて乗り遅れないように!
水害で甚大な被害を受けた天ヶ瀬温泉。復興に向け結束力は強くなり、乗客へのおもてなしにも力が入る。駅舎には足湯や手湯もあるが、満喫しすぎて乗り遅れないように!
「熱い思いと 温泉の天ヶ瀬に遊びに来てね〜」と神野さん。
「熱い思いと 温泉の天ヶ瀬に遊びに来てね〜」と神野さん。

のどかで美しい玖珠川を横目に日田(ひた)に到着。火曜日乗車だと「ななつ星in九州」との交換シーンが見られる。

車窓が開けてくると、そこは福岡県。進行方向左には東西に連なる耳納(みのう)連山がお目見え。果樹園や植木、田園風景に出迎えられ、本日2回目のおもてなし駅、うきはに到着する。

フルーツ王国として全国的に有名になりつつある、うきは市。ホームでもフルーツの即売があり、試食もさせてくれる。ほかにも地酒あり焼きありと、個性豊かで楽しい!

先日は年に一度の「フルーツ王国開国式」がこのお出迎えに合わせてホームで開催され、ぶどう狩りをホームで実施するなど話題を呼んだそうだ。

「フルーツ王国うきは」で有名なうきは市。停車中も新鮮なフルーツが提供される。観光列車との連携も盛んで、「ななつ星in九州」にも採れたて果実の提供を続けている。
「フルーツ王国うきは」で有名なうきは市。停車中も新鮮なフルーツが提供される。観光列車との連携も盛んで、「ななつ星in九州」にも採れたて果実の提供を続けている。
「うきはのフルーツは最高においしかよ!」と、うきは市うきはブランド推進課の麻生幸徳さん。
「うきはのフルーツは最高においしかよ!」と、うきは市うきはブランド推進課の麻生幸徳さん。

心もお腹もたくさん満たされ、列車は鹿児島本線に入る。

最後にこの旅を振り返る「五感イベント」が2号車「ラウンジ杉」で開催され、客室乗務員さんの語らいで締めくくられた。

あっという間の4時間47分の旅。もっと乗り続けたいなと感じさせる素敵な列車だった。

2号車「ラウンジ杉」でこの旅を振り返りつつ、列車のコンセプトなどを紹介する「五感イベント」。お土産にオリジナル金平糖が配られる。
2号車「ラウンジ杉」でこの旅を振り返りつつ、列車のコンセプトなどを紹介する「五感イベント」。お土産にオリジナル金平糖が配られる。
ゆふ高原線の終わり・久留米駅での駅職員によるお出迎えにほっこり。
ゆふ高原線の終わり・久留米駅での駅職員によるお出迎えにほっこり。

「かんぱち・いちろく」のココに注目!

外観やインテリアでも感じる「風土」

車両のデザインは、リノベーション事業などを手がける鹿児島のデザイン会社・IFOO(イフー)が担当。

3両編成のうち、1号車は大分・別府の温泉や火山を想起させる赤をベースとしたインテリアで、3人がけソファ席を中心とした展開。

3号車は、福岡・久留米の雄大な平野や山々を想起させる緑を基調とした半個室型のBOX席。

車両には、ゆふ高原線の路線図がモチーフのゴールドラインが。
車両には、ゆふ高原線の路線図がモチーフのゴールドラインが。
車両ごとに雰囲気が異なるインテリア。木の温かみを感じるデザインだ。
車両ごとに雰囲気が異なるインテリア。木の温かみを感じるデザインだ。

随所にちりばめられたアートの数々

壁や窓枠などに設置された車内のアート作品は、福岡・大分で活躍するアーティストたちによるもの。車内散策すれば、美術館にいるかのよう。

食事が毎日変わる! 旅を彩る地産地消の食事

福岡と大分の食材にこだわり、腕自慢の6店が料理提供している。器は日田の杉を使った2段重の特注で、蓋には小石原(こいしわら)焼の陶板が配されている。

月曜日(かんぱち号)『中洲 松』/福岡

福岡から大分への旅路~地域の食材を中洲 松のフィルターを通して(和食)。
福岡から大分への旅路~地域の食材を中洲 松のフィルターを通して(和食)。

水曜日(かんぱち号)『味 竹林』/福岡

福岡・大分の旬を感じるコース仕立てのお弁当(和食)。
福岡・大分の旬を感じるコース仕立てのお弁当(和食)。

土曜日(かんぱち号)『FUCHIGAMI(フチガミ)』/福岡

~由布岳の季節の色合い×博多の恵み~かんぱち・いちろく特製お重(イタリアン)。
~由布岳の季節の色合い×博多の恵み~かんぱち・いちろく特製お重(イタリアン)。

火曜日(いちろく号)『Tomo Clover』/大分

BENTOBOX.FUKUOKA-FRANCE-OITA(フレンチ)。
BENTOBOX.FUKUOKA-FRANCE-OITA(フレンチ)。

金曜日(いちろく号)『裏舌鼓(りぜっこ)』/大分

裏舌鼓のオ.モ.テ.ナ.シ箱(和食)
裏舌鼓のオ.モ.テ.ナ.シ箱(和食)

日曜日(いちろく号)『うさぎと亀』/大分

列車と人と食材を結ぶ豊後結び箱(和食)。
列車と人と食材を結ぶ豊後結び箱(和食)。

特急「かんぱち」号だけのおもてなしも!

河童(かっぱ)の町で知られる福岡県久留米市田主丸(たぬしまる)町。同町に位置する、河童の駅舎が目を引く田主丸駅では、なんと河童がお出迎え!

大分県九重(ここのえ)町恵良(えら)駅では、麻生観八氏が再興した酒蔵である八鹿(やつしか)酒造のお酒の試飲もできる。

田主丸町には古来、河童の伝説が残っている。
田主丸町には古来、河童の伝説が残っている。
恵良駅でのおもてなしの様子。お酒や特産品がずらり。
恵良駅でのおもてなしの様子。お酒や特産品がずらり。

列車information

●運転日/[特急「かんぱち」号]月・水・土曜、[特急「いちろく」号]火・金・日曜
● 運転区間/[特急「かんぱち」号]鹿児島本線・久大本線・日豊本線 博多~由布院・大分・別府間、[特急「いちろく」号]日豊本線・久大本線・鹿児島本線 別府・大分・由布院~久留米・博多間
● ねだん/ソファ席・BOX 席1万8000円、畳個室2万3000円(各席に定員と使用可能人数あり。2名掛けのBOX席を1名で利用時は+1万3000円)※JR券(片道)+食事を含む。
● 発売箇所/かんぱち・いちろく専用ホームページ(乗車日の5日前までに要予約)、
主な旅行会社
●問い合わせ/かんぱち・いちろくお問合せ窓口☎️092-474-2217
●かんぱち・いちろく専用ホームページ/https://www.jrkyushu-kanpachiichiroku.jp/

取材・文・撮影=福島啓和
『旅の手帖』2024年10月号より

12年にわたって東北の半島を運行した「リゾートあすなろ」が、2023年にリニューアル。車窓いっぱいに東北の風土を映し出して、新たな道を走り始めている。
東京~伊豆下田間を走る「サフィール踊り子」は、数ある観光列車の中でもプレミアムな時間を提供してくれると人気。列車とは思えないクオリティの食事を、伊豆の海の大パノラマが盛り上げてくれる。
“天然の生け簀”と呼ばれる、魚介の宝庫富山湾。その海沿いを走る観光列車は、車内の食事もなにやらほかとはひと味違うらしい。ここでしか味わえない、特別な体験を。
雄大なカルデラの中を走り、阿蘇の魅力を五感で味わえる「トロッコ列車 ゆうすげ号」。震災から奇跡の復活を遂げ、国内外の観光客らで車内は連日にぎわいをみせる。
車内で食事を楽しめる、いわゆる“グルメ列車”の元祖といえる列車が岐阜の里山を走っている。その名もズバリ「食堂車」。季節に応じてさまざまな料理が味わえるとあって人気が高く、いまや明知鉄道の看板列車だ。