山﨑友也
やまさきゆうや/1970年、広島生まれ。鉄道写真の専門家集団「レイルマンフォトオフィス」代表。
トロッコ列車「ゆうすげ号」のルートはこちら!
地震からの復活。力強いその走りを体感
2016年4月16日、熊本地方で発生した2度目の地震により、トンネルや橋梁が変形するなど甚大な被害を受けた南阿蘇鉄道。しかし同年7月には、一部区間で早くも運転を開始し、復興の象徴として人々を勇気づけた。
そして2023年7月15日、7年3カ月ぶりに全線で運転を再開し、「ゆうすげ号」の車内にも以前の活気が戻ってきた。
そもそも「ゆうすげ号」とは、貨車を改造した観光用のトロッコ列車のこと。窓がない車内を風が吹き抜け、自然を存分に体感できると人気が高い。
ちなみにゆうすげとはユリ科の高山植物で、夏には沿線で黄色い花を咲かせている。
鉄道の達人・山﨑おすすめPOINT
阿蘇の大自然を満喫するならこの列車!
そんな「ゆうすげ号」に乗ろうと始発駅の立野に行くと、列車をいまかいまかと待ちわびているチビッコや鉄道ファンのほか、外国人観光客の姿も。
間もなく列車が到着すると、乗客は思い思いに写真を撮り始め、旅への期待を募らせている。ホームで車掌さんのマイクパフォーマンスが終わると、いよいよ列車の出発だ。
鉄道の達人・山﨑おすすめPOINT
普段の列車との乗り心地の違いに注目。
豊かな自然、個性豊かな駅……見どころつきない旅路
立野橋梁を渡り阿蘇立野ダムを過ぎると、旅のハイライトともいえる第一白川橋梁を渡っていく。この橋は水面からの高さが約60mもあり、見下ろすと足がすくむほど。サービスのため列車が一時停止すると、車内のあちこちから歓声があがった。
最初の停車駅・長陽(ちょうよう)を過ぎると、進行方向左には阿蘇五岳(ごがく)が、反対には緑豊かな田んぼの奥に外輪山(がいりんざん)が広がっていく。特に阿蘇五岳は列車が進むにつれ山容も刻一刻と変化し、乗客を飽きさせない。車内には心地よい風が常に吹き抜け、気分も爽快。
個性いろいろ。‟南鉄”の駅たち
長陽駅
南阿蘇水の生まれる里白水高原駅
阿蘇下田城駅
ガッタンゴットンな乗り心地も魅力の一つ
ただ一点気になるのは、お世辞にも乗り心地がいいとは言えないこと。これはトロッコ車両がもともと貨車であったためである。
しかし強調したいのは、貨車に乗れるほうが貴重だということだ。通常の電車や客車とは異なり車軸が2本しかないため、レールの継ぎ目で起こるガッタン、ゴットンというゆっくりとした独特の揺れや、線路や路盤のわずかなデコボコも振動として伝わってくる。この乗り心地こそ、ゆうすげ号に乗らないと体験できない魅力の一つ。
ほどなく列車は終点の高森に到着した。思えば車掌さんは乗客に楽しんでもらえるよう、常にマイクで案内し続けていた。
また各駅では、駅舎内で飲食店などを営む方たちが出迎えてくれ、沿線の畑で作業をしている人も手を振ってくれた。
地元の人の温かさも感じられる「ゆうすげ号」に、乗ってみてはいかが?
トロッコ列車「ゆうすげ号」列車information
● 運転日/12月1日までの土・日・祝
● 運転区間/南阿蘇鉄道 立野~高森間 全車指定席
● ねだん/1500円
● 発売箇所/ホームページ(https://www.mt-torokko.com/trolley-train/)、当日券(立野駅・高森駅、先着順)
● 問い合わせ/南阿蘇鉄道☎0967-62-0058
取材・文・撮影=山﨑友也
『旅の手帖』2024年10月号より