常盤貴子

ときわたかこ/1972年、神奈川県出身。1991年に俳優デビュー。数々の人気ドラマで主演を務めるほか、多くの映画作品にも出演。ほかにCMや舞台、ナレーションなど活動は多岐にわたる。最新作は映画『わたしのかあさん 天使の詩』。
Instagram:https://www.instagram.com/takakotokiwa_official/?hl=ja

 

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友だちに言われて、気がついた。大きな鉄が好きなんだ、私!

—— 生まれは横浜、関西でも暮らした時期があるそうですね。思い入れのある路線はありますか?

常盤 横浜では東急東横線、小学4年生から高校1年生まで暮らした兵庫県西宮では、阪神電鉄と阪急電鉄を利用していました。
奈良や三重に行くときは、近鉄線も。私を遠くに連れていってくれる近鉄線も、子どもの頃から大好きでした。

—— ちなみに、鉄道好きの前に、実は「鉄」自体がお好きとか?

常盤 あ……はい。お恥ずかしい。二十代の頃、友だちに「大きい鉄、好きだよね?」って言われて気づいたんです。
みんなで遊びに行くと「鉄橋があるよ!」と、真っ先に見つける。鉄橋が好き、列車が好き、飛行機が好き。「そうか、大きい鉄が好きなんだ、私!」って。工事現場のクレーン車や、SLの車輪が入り組んだ部分なんかも。鉄骨というものにワクワクします。

北は芦別、南は黒島まで。忘れられないロケ地

—— 「鉄」の愛好家として、鉄道博物館に展示されているなかで、一番好きな列車は?

常盤 やっぱりブルートレイン。銀河鉄道や宮沢賢治を彷彿とさせるし、むかしの映画に出てくる寝台特急にも憧れていて、東宝カレンダーのお仕事では、ブルートレインの前で撮影させてもらったこともあるんですよ。
「旅に出ます」っていうキャッチコピーを自分の中で決めて。清く正しく美しくな東宝シンデレラの中では、浮いてましたねえ。

—— ドラマや映画のロケで印象に残っている鉄道はありますか?

常盤 大林宣彦監督の『野のなななのか』は、北海道の芦別(あしべつ)市が舞台なんです。趣ある単線の鉄道が走り、札幌からは手前の滝川駅で乗り換え。その先の芦別駅までの列車は本数が少なくて。だからこそ、芦別駅での撮影は本当にワクワクした。線路脇のスタジオで撮っているときも、踏切の音が聞こえると、ダッシュで列車を見に行って喜んでいました。
それから『向日葵(ひまわり)の丘1983年・夏』という映画は、大井川鐵道の近くがロケ地。鉄道に乗る場面はないけど、なんて素敵な場所を選んでくれたんだと、撮影休みの日に一人で乗りに行きました。

—— 全国各地で心に残っている駅舎などはありますか?

常盤 それはもう網走市の北浜駅。ドラマの撮影で行ったのですが、滞在中は休みのたびに、駅舎の中にあるカフェに通っちゃいました。
窓から流氷が見えるんです。おいしいコーヒーと冬の海の景色が本当に感動的で、忘れられません。

JR釧網本線の北浜駅。木造駅舎内のカフェ『停車場』では、コーヒーやランチを味わいながら、冬はオホーツク海の流氷を見られる。
JR釧網本線の北浜駅。木造駅舎内のカフェ『停車場』では、コーヒーやランチを味わいながら、冬はオホーツク海の流氷を見られる。

—— ちなみにカフェといえば、喫茶店パトロールがご趣味とか?

常盤 そう! 散歩途中や、どこか地方に行くと「喫茶 老舗」で検索して出かけたり。俳優仲間にも感心されます(笑)。食事のあと「この近くに、いい喫茶店あるんで」ってご案内すると「なんでこんなところ知ってるの!」って。

—— ちなみに旅先では、常盤さんだと地元の方はお気づきに?

常盤 いや、まったく(笑)。いまも心に残っているのは、沖縄の黒島に行ったときのこと。若い子が、おばあたちに「この人は女優さんだよ」と紹介してくれたんですが、おばあたちは「ここじゃNHKしか映んないもの。NHKに出てないと、知らないよぉ」って。
その頃、連ドラを連投連投でやっていたんですけど、この言葉は私に、多くの気づきを与えてくれました。まだまだ自分の知らないことが世の中にはたくさんある、私のことも誰もが知ってるわけじゃないと勉強になりました。
でも、そのおかげで自由になれて、どこへでも行ける、どこへでも行こう! と思えたんですよね。

京都のおかあはんとは、30年来のお付き合い

——逆に、それが旅好きになるきっかけに。よく行く土地は?

常盤 一番は京都かな。むかしから、ドラマとドラマの間には役を抜くために旅に出ますが、海外に行けるときは海外へ。行けないときは、国内で海外にいるような気分になれる町へ。それが私にとっては、ずっと京都だったんです。

——何かご縁が?

常盤 二十代の頃に連れて行ってもらったお茶屋さんのおかあはんが、かわいがってくださって。置屋さんから料亭、お茶屋さんの内側まで、さまざまな京都を教えてくれたんです。芸舞妓も当時は世代も近いから、視点が近いと感じることも多かったです。芸という意味でも、似た部分の多い仕事だなぁと。表の顔があれば裏の顔もある、なんてことも、間近で勉強させてもらえましたし。
芸舞妓やおかあはんから習う、御作法や着物の着方、かつらのかぶり方。何げない会話のなかで、「あれは下品やなあ」っていうのを聞いて、なるほど、あれは下品なんだと学んでいく。私自身、二十歳(はたち)の頃から着付や日本舞踊を習ったり、歌舞伎を見たりして、本物の和の世界を吸収できることが、俳優としてうれしかった。いまでも、おかあはんにお世話になってます。

——Netflixのドラマ『舞妓さんちのまかないさん』は、お茶屋が舞台でしたね。

常盤 そう。だからしょっちゅう「おかあはん、こういうシーンあんねんけど、これっておかしない?」って、電話で相談してました。

常盤さんが愛する京都の老舗ジャズ喫茶『jazz spot YAMATOYA』。初めて訪れたのは20年以上前だとか。5000枚超のレコードがある。
常盤さんが愛する京都の老舗ジャズ喫茶『jazz spot YAMATOYA』。初めて訪れたのは20年以上前だとか。5000枚超のレコードがある。

一人で通う最果ての喫茶。珠洲と輪島への思い

——“おかあはん”の京都。そして、2015年の連続テレビ小説『まれ』の舞台・能登もまた、第2のふるさととか?

常盤 『まれ』の撮影で行くまでは能登のこと、何も知らなかったんです。土地の人を知って、文化を知って。またみんなに会いたい、土地のものを食べたい、自然や伝統に深くふれたいと、気がついたらこの10年間、何度も来ていて。

——特に好きな場所は?

常盤 『まれ』の撮影が始まる前に、美術スタッフが「珠洲(すず)に『二三味(にざみ)珈琲』というお店があって、常盤さん、絶対気に入るから行ってみて」と。
“最果てのカフェ”といわれていて、そこを訪れてから、すっかり珠洲にはまりました。顔見知りもでき、どんどん世界が広がって。そのうち、何もなくても一人でふらっと『二三味珈琲』へ行き、ランチを食べ、砂浜で本を読んで、夕日が落ちたら帰るという過ごし方をしていましたね。

——2023年の「奥能登国際芸術祭」で出演された朗読劇は、どんなお話ですか?

常盤 朗読劇(大崎清夏(さやか)作『うつつ・ふる・すず』)は、珠洲が華やかだった時代の話なんです。私は珠洲に根を張る椿の木の役。地元珠洲の高校生3人がウミネコの役で、にぎやかだった頃の珠洲の様子を椿役の私に教えてくれるんです。そして最後にウミネコの一人が、「僕は臆病だけど、この町を出て行こうと思うんだ」と。
椿が「ウミネコは遠くに行かない鳥でしょう」と言うと、「だけど遠くに行っちゃいけないなんてことはないと思う。挑戦してみようと思う」と。
半島で育った珠洲の人たちは、金沢ですら出てゆくには勇気が必要なんだそう。それを未来ある高校生が「出て行ってみようと思う」と言うところで、地元の方々は胸に迫るものがあったそうです。
珠洲の華やかな時代から未来につながるこの物語は、みんなの記憶の中にずっと残る。朗読劇で古きよき珠洲はいつでも再現できるし、この劇があるから、珠洲は大丈夫だと思えるんです。私の勝手な思い込みかもしれないけれど……。

——2024年3月には、炊き出しのボランティアにも参加されましたね。

常盤 支援に行きたい、でもやり方がわからない……と思っていたとき、『釣りバカ日誌19』の撮影で大分県の佐伯(さいき)市で知り合った方が「能登の支援に一緒に行かない?」と誘ってくださり、「行きたい!」と。実は、佐伯市も輪島市も『釣りバカ日誌』の舞台なんです。
そろそろお魚を食べたいはずだからという、港町の人だからこそ通じる心があるのを知って、感動しました。自分が大好きな佐伯と輪島がつながったこともうれしかったし、『まれ』のチームと行くことができたことも。一人だったら、勇気が出なかっただろうから。
自分がいままで生きてきた点と点が、つながったと感じました。

2024年3月、珠洲市の直(ただ)小学校での炊き出しに参加した常盤さん(上)。連続テレビ小説『まれ』のロケ地、いろは橋そばのオブジェ「まれケーキ」もピカピカに。まれケーキは奇跡的に崩れなかった。
2024年3月、珠洲市の直(ただ)小学校での炊き出しに参加した常盤さん(上)。連続テレビ小説『まれ』のロケ地、いろは橋そばのオブジェ「まれケーキ」もピカピカに。まれケーキは奇跡的に崩れなかった。

——どんな土地にも自然となじんでしまうという不思議な力が?

常盤 私、ずうずうしいんでしょうね。人の厚意にのるのが好き。厚意は断らない。貴子は、みなさんのご厚意でできています(笑)。
全国各地に行かせてもらっているせいか、行政の「市の未来を考える議会」などにも呼ばれることがあるんですよ。なぜ私!? って思いながらも参加して、意見を言わせていただいたりしています。

—— 会議も断らない!?

常盤 はい(笑)。私は「根無し草」。でもそのよさがきっとあって、点と点をつないでいくことができると思うんです。

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今回のインタビュー場所

鉄道博物館

蒸気機関車をはじめ、車窓風景を映像で体感できる気動車など、36両が集まる車両ステーションがハイライト。さらに、最高時速320kmの運転を常盤さんも体験した「E5シミュレータ」(抽選で参加可能。600円)まで、大人も子どもも一日中楽しめる!

☎048-651-0088/10:00~16:30受付、火曜休/一般当日1600円/埼玉県さいたま市大宮区大成町3-47/ニューシャトル鉄道博物館駅から徒歩1分
https://www.railway-museum.jp/

聞き手=さくらいよしえ 撮影=千倉志野
『旅の手帖』2024年7月号より

ヘアメイク=重見幸江 スタイリング=吉村結子
衣装協力:ワンピース¥61,600(l’heritage martinique / martinique LUMINE YOKOHAMA☎045-440-5758)、ヴィンテージイヤリング¥8,900、ヴィンテージネックレス¥24,800(ともにshushujojo☎ 03-3464-4314)、ヴィンテージハット¥14,300(VINIVINI LUXE☎ 03-6416-3822)、バッグ¥13,200(アフリカンスクエアー〈ハウス オブ ロータス 二子玉川店〉☎03-6431-0917)、ヴィンテージシューズ¥16,390(ZOOL Frescade ☎03-5305-1296)