古道を辿れば熊野の歴史がヨミガエル

JR紀勢本線で新宮駅へ。熊野川で三重と和歌山の県境を越える。
JR紀勢本線で新宮駅へ。熊野川で三重と和歌山の県境を越える。
吉野熊野国立公園観光の拠点となる新宮駅。駅前には新宮市観光案内所も。
吉野熊野国立公園観光の拠点となる新宮駅。駅前には新宮市観光案内所も。

吉野熊野国立公園内にあり、古くから多くの参拝者が訪れてきたのが熊野三山。三山の一つ、熊野速玉大社の権禰宜・西村圭一さんによると「熊=奥まった地」という意味があるそう。

「都から遠く山深い熊野は、人々にとって、黄泉(よみ)の国に行き、生まれ変わり現世へと戻るという『黄泉還り』のための聖地でした」

熊野三山の神々が最初に降り立ったのが、熊野速玉大社の南方、権現山の中腹にある神倉神社のゴトビキ岩。景行天皇58年(128)、いまの熊野速玉大社の地に新たな宮が造られ、神様が遷られたことから「新宮」の地名になったという。神倉神社までの石段は手を付いて上りたくなるほど急こう配だが、上った先には市街一望の絶景が!

熊野三山の参拝路である熊野古道の一つ、中辺路(なかへち)は、平安時代から鎌倉時代にかけて熊野御幸の公式参詣道として使われた。上皇・貴族たちが熊野本宮大社から熊野速玉大社へ向かう際に舟で下ったのが、「川の熊野古道」といわれる熊野川。その支流の北山川には、国特別名勝の瀞峡(どろきょう)があり、大峡谷が美しい。

「瀞峡めぐりに参加すれば、和舟に乗って渓谷美を楽しめます。亀岩や水落岩、狛犬岩に松茸岩とさまざまな奇岩が間近に! 初夏から夏は、川面を滑る風がひんやりして気持ちいいですよ」と熊野川 川舟センターの北原千奈さん。

熊野川が「川の熊野古道」なら、高野坂・王子ヶ浜は「海の熊野古道」。波で削られた丸石を踏みながら王子ヶ浜を歩き、JR紀勢本線の高架下を潜ると、高野坂の入口となる広角口(ひろつのぐち)へ。高低差の少ない約1.5kmの中に熊野灘の眺望ポイントや石畳があり、熊野古道の中でも歩きやすい区間だ。

高野坂からさらに南へ行くと、海に浮かぶ孔島(くしま)・鈴島が見えてくる。南紀熊野ジオパークを構成するジオサイトにも認定されており、奇岩怪石が目を引く。絶滅危惧種の鳥・ウチヤマセンニュウは、夏、外敵の少ない孔島に繁殖のために渡ってくるそう。

鈴島近くの海岸で拝む朝日。遮るものは何もない。
鈴島近くの海岸で拝む朝日。遮るものは何もない。

新宮駅方面に踵を返したら、訪ねたいのが浮島の森。昭和2年(1927)に国の天然記念物に指定されており、その植物調査を行ったのが朝の連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデルとなった牧野富太郎だ。積もった植物が十分に分解されずに作られた軽量な泥炭で地面が形成されており、沼に浮いていることから浮島の名に。地元の高齢者いわく「今は動かなくなったけど、むかしは強風の時、島が動いているのが見て取れた」そう。

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「熊野速玉大社」全国数千社の熊野神社の総本宮

拝殿奥の第一殿に熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)、第二殿に熊野速玉大神という夫婦神を祀る。
拝殿奥の第一殿に熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)、第二殿に熊野速玉大神という夫婦神を祀る。
「神宝館には平安時代作の神像のレプリカも展示されています」と権禰宜の西村圭一さん。
「神宝館には平安時代作の神像のレプリカも展示されています」と権禰宜の西村圭一さん。
特別御朱印帳2000円、錦交通安全御守800円、なぎまもり600円(初穂料)。
特別御朱印帳2000円、錦交通安全御守800円、なぎまもり600円(初穂料)。

ユネスコの世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に登録されている、熊野三山の一つ。熊野夫須美大神と熊野速玉大神という主祭神をはじめ、横並びの社殿に全18柱の神様を祀る。境内には樹齢1000年とされるナギの大樹も。

☎0735-22-2533
日の出~17:00(熊野神宝館9:00~16:00、500円)
無休
和歌山県新宮市新宮1
JR紀勢本線新宮駅から徒歩19分

「神倉神社」熊野の神々が最初に降り立った地

石段は胸突きの急こう配。心配な人は麓で無料の杖を借りて、挑もう。
石段は胸突きの急こう配。心配な人は麓で無料の杖を借りて、挑もう。
付近で経塚や銅鐸が発見されたゴトビキ岩。ゴトビキはこの地方の方言でヒキガエルの意味。
付近で経塚や銅鐸が発見されたゴトビキ岩。ゴトビキはこの地方の方言でヒキガエルの意味。

麓の鳥居からおよそ15分、天然石で造られた538段の石段を上りきると、社殿に覆いかぶさるような巨岩が! このゴトビキ岩に熊野の神々が降臨し、岩をご神体とした自然信仰が始まったとされる。

☎0735-22-2533(熊野速玉大社)
境内自由
和歌山県新宮市神倉
JR紀勢本線新宮駅から徒歩17分(ゴトビキ岩まではさらに15分)

「瀞峡めぐり」和舟で分け入る深い渓谷

木造の和舟でめぐるため、むかしながらの川下りの情緒を楽しめる。
木造の和舟でめぐるため、むかしながらの川下りの情緒を楽しめる。
獅子が吠えているような獅子岩は瀞峡めぐりのハイライトの一つ。
獅子が吠えているような獅子岩は瀞峡めぐりのハイライトの一つ。

昭和3年(1928)に国名勝・天然記念物に指定された瀞峡は、北山川に続く美しい渓谷。熊野川 川舟センターの瀞峡めぐりでは、舟に乗って玉置口から上流へ向かい、松茸岩を過ぎた辺りでUターン。片道約4kmの中に、亀岩や母子の滝などの景勝が続く。

☎0735-44-0987
出船9:00・10:00・11:00・13:00・14:00・15:00(所要約40分。前日15時までに要予約)
12~2月休
3000円
和歌山県新宮市熊野川町玉置口8-1(玉置口サテライト)
JR紀勢本線新宮駅から車40分

「熊野古道(高野坂・王子ヶ浜)」中辺路で唯一、海を展望!

トイレも備える広角口からスタート。場所がわかりにくいので事前に観光協会に問い合わせておこう。
トイレも備える広角口からスタート。場所がわかりにくいので事前に観光協会に問い合わせておこう。
広角口から10分ほど歩くと少し風景が開け、王子ヶ浜を一望!
広角口から10分ほど歩くと少し風景が開け、王子ヶ浜を一望!
ゴールの三輪崎口に近づくと苔むした石畳が現れる。
ゴールの三輪崎口に近づくと苔むした石畳が現れる。

熊野古道の中辺路の一部である高野坂。北側の広角口から南側の三輪崎口までの約1.5kmを、30分ほどで踏破できる。海沿いの崖にある森の中を歩けば、石仏や木々の間からの海の展望、古の石畳などが旅情を誘う。

☎0735-22-2840(新宮市観光協会)
散策自由
和歌山県新宮市新宮
JR紀勢本線新宮駅からバス12分の「広角(高野坂)」下車、徒歩10分

「孔島・鈴島」奇岩連なる二島を歩いて散策

港から望む孔島。両島は堤防で地続きになっており、歩いて渡れる。
港から望む孔島。両島は堤防で地続きになっており、歩いて渡れる。
連なる厳島神社の鳥居を潜ると、島内に社殿がある。
連なる厳島神社の鳥居を潜ると、島内に社殿がある。
両島とも、奇岩や雄々しい岩肌の海岸が見どころ(写真は鈴島)。
両島とも、奇岩や雄々しい岩肌の海岸が見どころ(写真は鈴島)。
鈴島から朝日が昇る。島の裏側にも奇岩があるので探してみて。
鈴島から朝日が昇る。島の裏側にも奇岩があるので探してみて。

新宮市街の南にある三輪崎漁港。その港を弓なりに囲む二島が、鈴島・孔島だ。厳島神社を祀る孔島には120種、蛭子(えびす)神社を祀る鈴島には60種ほどの植物が生息。5~6月にはハマヒルガオ、夏には新宮市の花であるハマユウの花が咲き誇る。

☎0735-23-3333(新宮市商工観光課)
見学自由
和歌山県新宮市三輪崎
JR紀勢本線三輪崎駅から徒歩12分(鈴島)、徒歩15分(孔島)

「浮島の森」住宅街にひょっこり不思議島

国の天然記念物に指定され、2027年は100年目!
国の天然記念物に指定され、2027年は100年目!
暖地植物のテツホシダを発見!
暖地植物のテツホシダを発見!
寒地植物は写真のオオミズゴケのほか、ヤマドリゼンマイも。
寒地植物は写真のオオミズゴケのほか、ヤマドリゼンマイも。

沼に浮かぶのは、泥炭でできた約5000㎡の島。島内には約130種の植物が自生し、暖地植物と寒地植物が混在するのが珍しい。島内には桟橋で渡れ、散策ルートが整備されているので、どんな植物がいるか探してみて。

☎0735-21-0474
9:00~17:00(12~2月は~16:00)
無休
110円
和歌山県新宮市浮島3-38
JR紀勢本線新宮駅から徒歩7分

『はやたま欧食堂ポルト』地元食材が彩る小さなイタリアン

とりもも肉とかぼちゃのクリームソースパスタ1280円、紀和牛のザブトンステーキ2600円、グリーンサラダ330円(ランチ料金)。
とりもも肉とかぼちゃのクリームソースパスタ1280円、紀和牛のザブトンステーキ2600円、グリーンサラダ330円(ランチ料金)。
コンポストで生ごみを肥料にし、野菜を自家栽培する二人。
コンポストで生ごみを肥料にし、野菜を自家栽培する二人。

新宮市出身の久堀薫さん・妻の優子さんが2016年にオープン。地元のオーガニック野菜に鮮魚から和牛まで「エネルギーを感じる食材を大切にしたい」と二人。那智勝浦町色川産の平飼い玉子を使ったティラミスなどのスイーツも!

☎0735-23-2333
11:30〜13:30LO・18:00~20:00LO
月・火休(水・日はディナー休)
和歌山県新宮市上本町2-1-2
JR紀勢本線新宮駅から徒歩17分

『松葉屋』参道のわき道に隠れた名店

先代が考案した天の川は箱入り6個750 円~。
先代が考案した天の川は箱入り6個750 円~。
3代目の中川敏宏さんが実家で営む。
3代目の中川敏宏さんが実家で営む。
目立つ看板はないが、格子窓の横の、引き戸から入店を。
目立つ看板はないが、格子窓の横の、引き戸から入店を。

名物は、大納言小豆を炊いて蜜に漬け、寒天で固めた天の川。シャリッとした口あたりとあっさりとした甘さが魅力だ。ほどよいやわらかさの大納言羹(だいなごんかん)900円もお土産に人気。看板がないのは、当初は店売りではなく卸し中心だったから。

☎0735-22-5435
8:30~18:00(日・祝は~15:00頃。なくなり次第終了)
不定休
新宮市船町2-6-2
新宮駅から徒歩17分

取材・文・撮影=鈴木健太 瀞峡めぐりの写真提供=熊野川 川舟センター 協力=新宮市