鉄道マニアが驚く「奇跡」が現役で残る、田んぼとリンゴ畑を疾走する津軽鉄道

芦野公園の桜の中を走る、津軽鉄道の走れメロス号(写真=レイルマンフォトオフィス)。
芦野公園の桜の中を走る、津軽鉄道の走れメロス号(写真=レイルマンフォトオフィス)。

日本海の絶景を望むJR五能線と、本州最北の私鉄・津軽鉄道。人気の2路線が唯一交わる場所こそがここ、五所川原だ。

津軽五所川原~津軽中里間の20.7kmをつなぐ津軽鉄道の駅や線路では、鉄道遺産と呼ばれるような古い設備や表示板が現役。単線での事故を防ぐため、タブレットやスタフといった通票を持った列車だけが線路を走れるようにするタブレット閉塞・スタフ閉塞の仕組みを採用している。

ノスタルジックな津軽五所川原駅の待合室。
ノスタルジックな津軽五所川原駅の待合室。
駅員が使う内線電話にはハンドル式の黒電話も使われている。
駅員が使う内線電話にはハンドル式の黒電話も使われている。
駅名標にも懐かしさが漂う。
駅名標にも懐かしさが漂う。

金木(かなぎ)駅のホームでは駅員と運転士がそれらを交換するところを実際に目にすることもできる。さらに、手動で操作する腕木式信号機を使用しているのは、いま全国で津軽鉄道だけ。2017年には人力転車台も復元した。

タブレットを持つ駅員さん。
タブレットを持つ駅員さん。
除雪用車両のラッセル車の姿も。
除雪用車両のラッセル車の姿も。
津軽中里駅の転車台は本州最北端!
津軽中里駅の転車台は本州最北端!

毎年12~3月に3往復運行するストーブ列車(現在運休中)は、開業した昭和5年(1930)の冬に始まった津軽鉄道の代名詞。現在は4代目の車両で、客車の2カ所に国産のダルマストーブが置かれ、石炭をくべて暖をとる。

以前は通学する学生たちがストーブの周りに集まるので、「車両の端はかえって寒かった」という笑い話も。大雪の中でも乗客を運び、極寒の日に少しでも温まってもらいたい。そんな温かい思いを燃料に、津軽鉄道は走っているのだ。

四季折々の風景を愉しむもよし、レアな設備に夢中になるもよし。地元民の日常であり、鉄道ファンにとっては非日常でもある津軽鉄道の魅力は、どこまでも深い。

ストーブ列車の車内ではスルメや日本酒を購入でき、スルメはストーブで炙ってもらえる。
ストーブ列車の車内ではスルメや日本酒を購入でき、スルメはストーブで炙ってもらえる。
懐かしい硬券きっぷも現役。
懐かしい硬券きっぷも現役。

たんげめぇ(とてもおいしい)! 津軽五所川原駅のまんま(ご飯)

『コミュニティカフェ でる・そーれ』オリジナルメニューに遊び心と工夫が光る

地鶏の青森シャモロックを使った人気の津鉄汁セット1200円、黒々とした色がリアルな石炭クッキー500円のほか、五所川原が原種の赤りんごを使った商品も購入できる。

☎0173-34-3971
10:00~15:00LO
水と第1・3日休
津軽鉄道津軽五所川原駅から徒歩1分

『美味そば亭』五所川原駅前バス待合所で出会える出汁の香り

バスや列車を待つ人に30年以上そばを作ってきた、店主の外崎永子さん。山菜、天ぷら、卵がのった心も温まるじょんがらそば700円は、遠方からわざわざ食べに来る人も!

7:30~13:30LO
日休
津軽鉄道津軽五所川原駅から徒歩1分

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ダザイスト(太宰治ファン)の聖地巡礼 太宰治が過ごした「思ひ出」の地

太宰治疎開の家で、太宰作品の朗読を聴く。
太宰治疎開の家で、太宰作品の朗読を聴く。

五所川原市北部、金木(かなぎ)の町で、津軽地方屈指の大地主・津島家に生まれたのが太宰治こと本名津島修治。彼が生まれる2年前に建てられたという生家『斜陽館』は、津島家の隆盛を物語る豪邸だ。

作品『苦悩の年鑑』には「風情も何も無い、ただ大きい」と書くなど息苦しさも感じていたようで、家族との確執があった背景を知れば、複雑な胸中も垣間見える。

一方で「冗談好きなおもしろいおじさんだったという話も聞きます」と『太宰治疎開の家 旧津島家新座敷』のオーナー・白川公視(ひろし)さん。太宰の意外な一面がわかる逸話を語り聞かせてもらうひとときは、いまにも奥の部屋から太宰が現れそうな臨場感がたまらない。

『太宰治疎開の家 旧津島家新座敷』の書斎。
『太宰治疎開の家 旧津島家新座敷』の書斎。

太宰が幼少期から慕った叔母・キヱのひ孫にあたる津島克正さんは、太宰の故郷、五所川原の再興に取り組む一人。キヱが住んでいた蔵を、もとの部材をできる限り活用して「思ひ出」の蔵として蘇らせた。

「再建するまで、蔵の存在は親族以外には知られていませんでした。でも、太宰は疎開中によくここへ来ていて、友人や親族と一緒に呑んだという話も多い“思ひ出”の場所です」

太宰の息づかいをも感じられる、痕跡の数々。ダザイストなら夢中になれるのはもちろん、旅を機に太宰ファンになってしまいそうな、ここにしかない“思ひ出”の宝庫だ。

「太宰ファンから横顔が似ていると言われます!」と、津軽サイコウプロジェクト実⾏委員⻑の津島克正さん。
「太宰ファンから横顔が似ていると言われます!」と、津軽サイコウプロジェクト実⾏委員⻑の津島克正さん。
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五所川原で太宰治ゆかりの地をめぐる

『太宰治疎開の家 旧津島家新座敷』太宰が執筆したまさにその場所に座る

戦時中に疎開した太宰が約1年4カ月の間、身を寄せていた津島家の離れ。造りはほぼ当時のままで、私小説『故郷』で描かれた病床の母親を見舞う場面の舞台はまさにここ。23作品を執筆した書斎に座ることもできる。

☎0173-52-3063
10:00~16:30受付
第1・3・5水休(臨時休あり)
500円
津軽鉄道金木駅から徒歩3分
https://hsmoji.wixsite.com/dazai

『太宰治「思ひ出」の蔵』ゆかりの品々と晩年の思い出が宿る

太宰の叔母・キヱ一家の住まいだった五所川原市街にある蔵を2014年に再建した。太宰は疎開中によくここで酒を酌み交わしていて、彼が好んだ酒、津軽正宗の徳利や小説『思ひ出』にも登場するとされる蓄音機などを展示。

☎0173-33-6338
10:00~17:00
不定休
200円
津軽鉄道津軽五所川原駅から徒歩5分

『太宰治記念館「斜陽館」』大地主・津島家のパワーを実感する明治の大豪邸

太宰が中学生になるまで過ごした生家。津島家が手放したあとは旅館として営業していた期間もあるが、現在は太宰が暮らしていた頃の形に戻されている。入母屋造りの和風建築だが、贅を尽くした洋間やロココ調の階段も。

☎0173-53-2020
9:00~17:00
無休
600円
津軽鉄道金木駅から徒歩6分

がっぱど(いっぱい)飲みたい! 太宰が飲んだ幻のリンゴ酒が飲める⁉

太宰治の小説『津軽』にも登場し、1940年代に津軽地方で飲まれていたとされるリンゴ酒。トキあっぷる社が太宰のリンゴ酒再現プロジェクトとして製造する「太宰のリンゴ酒」は、金木観光物産館や公式HP(https://shop.toki-apple.com/)などで購入できる

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たんげめぇ! たんげおもしぇ! (とてもおいしい! とてもおもしろい!)地元オカチャのまんまと津軽弁

郷土料理を味わえる『私花語(しかご)』はママとのおしゃべりも楽しい。「津軽だっきゃ(には)春夏秋冬、海山里のめえまんま(おいしいごはん)いろいろあるよ~」。
郷土料理を味わえる『私花語(しかご)』はママとのおしゃべりも楽しい。「津軽だっきゃ(には)春夏秋冬、海山里のめえまんま(おいしいごはん)いろいろあるよ~」。

「けの汁はお正月に大きな鍋で煮込んで、数日かけて食べるの」と『私花語』のママ・柏崎てささん。根菜にフキ、こんにゃく、油揚げと具だくさんで、煮干しと昆布の出汁に野菜の旨味もしっかり出ていて、満足感たっぷり。

けの汁と同様に、家や店によって違いがあるのがカヤギ(貝焼き)味噌で、基本の具材は味噌、卵、煮干し。そこにホタテの貝柱やサバの切り身を入れることもあるとか。

津軽のお正月の定番料理・けの汁。細かくさいの目に刻んだ野菜や乾燥豆腐を、煮干しと昆布の出汁で煮込む。『私花語』のママいわく「ゴボウ、大根、ニンジンを生から煮るのがコツ!」。
津軽のお正月の定番料理・けの汁。細かくさいの目に刻んだ野菜や乾燥豆腐を、煮干しと昆布の出汁で煮込む。『私花語』のママいわく「ゴボウ、大根、ニンジンを生から煮るのがコツ!」。
ホタテの貝殻を鍋代わりにしたカヤギ味噌は、卵などの具材を味噌で煮込んだ一品。お酒もご飯も進む。太宰の小説『津軽』にも登場。居酒屋の『磯㐂(いそき)』ではフライパンで作れる貝焼き味噌の素も販売する。
ホタテの貝殻を鍋代わりにしたカヤギ味噌は、卵などの具材を味噌で煮込んだ一品。お酒もご飯も進む。太宰の小説『津軽』にも登場。居酒屋の『磯㐂(いそき)』ではフライパンで作れる貝焼き味噌の素も販売する。

ほかにも、甘い赤飯や紅生姜でピンク色に染まったいなりずし、イカゲソをミンチにして揚げたイガメンチに、保存食の干し餅。生姜味噌のおでんや若生(わかおい)おにぎりも。

日本海や津軽海峡、陸奥湾の海の幸から、雪国ならではの体が温まる鍋料理まで、津軽の味は滋味深くてほっとする。もてなしの味でありお母さんの味である、人情たっぷりのまんま(ご飯)を食いに行ぐべ!

津軽のおでんは、すりおろした生姜の入った味噌ダレをかけて食べる。味噌の種類や砂糖の有無は家庭によっていろいろ。具材を竹串に刺して煮込むのも特徴だ。
津軽のおでんは、すりおろした生姜の入った味噌ダレをかけて食べる。味噌の種類や砂糖の有無は家庭によっていろいろ。具材を竹串に刺して煮込むのも特徴だ。
やわらかくて薄い若生昆布で包んだおにぎりは、昆布の歯ごたえと磯の香りがたまらない! 太宰の好物だったことでも知られる。
やわらかくて薄い若生昆布で包んだおにぎりは、昆布の歯ごたえと磯の香りがたまらない! 太宰の好物だったことでも知られる。

津軽の味はこの店で、け!

磯㐂
☎0173-35-3063
17:00~23:30
日休
津軽鉄道津軽五所川原駅から徒歩11分

私花語
0173-34-9413
17:00~23:30
日休
津軽鉄道津軽五所川原駅から徒歩9分

暮らすように旅するスポット 市場&ゲストハウス

『Cafe&Stay RE:(リ)』リンゴカレーなど津軽の食材を使ったランチも

町のハンコ屋さんだった建物をリノベーションして民泊とカフェに生まれ変わった。「まんだこいへ(また来てねー)」と、空き家を利用したゲストハウスを運営する白戸建設社長の白戸かおるさん。

☎090-3226-4610
11:00~17:00
日・月休
津軽鉄道津軽五所川原駅から徒歩7分
https://re-cafe-stay.com/

『マルコーセンター』新鮮な魚介類が並ぶまちの生鮮市場

自分好みの海鮮丼を味わえる「のへ丼」が名物。どんぶりのご飯200円(お吸い物付き)を購入、鮮魚店で好きな具材を買ってのっければ完成!

☎0173-34-2264
8:00~18:00
日休
津軽鉄道津軽五所川原駅から徒歩7分

五所川原を再発見する「ツガルサイコウプロジェクト」って?

津軽地域についてもう⼀度考え(再考)、新たな可能性を掘り起こし(採鉱)、⾃信と誇りを取り戻す(最⾼)ことを目的に、地元住民と鉄道ファン、太宰ファンなど、津軽に憧れや愛着をもつ人たちと一緒に行う民間有志のまちづくり活動。

津軽サイコウプロジェクト実⾏委員会 https://maniacgoshogawara.com

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取材・文=中村こより 撮影=逢坂 聡 協力=津軽サイコウプロジェクト実行委員会
『旅の手帖』2026年4月号より