北越の小京都の記憶を辿る 加茂、手しごと旅

『大湊文吉(おおみなとぶんきち)商店』の組子細工。幾何学模様の組み合わせが美しい。
『大湊文吉(おおみなとぶんきち)商店』の組子細工。幾何学模様の組み合わせが美しい。

約1300年前、市内に鎮座する青海(あおみ) 神社の創建時に宮大工が集まったことに端を発する木工業のまち・加茂。桐簞笥、屏風、建具などの生産地として知られる。“北越の小京都”と呼ばれ、市の中心を流れる加茂川は、水運の要だった。

加茂駅の東口、全長1.3㎞におよぶアーケード商店街の先にあるのが『大湊文吉商店』。創業100年以上の木工工場で屏風や仏具を製造、伝統技術を生かして組子細工も手がける。

「組子は建具のなかでも大切な技」と社長の大湊陽輔さんが話すように、釘や接着剤を使わず組み上げる組子細工は、材料を必要な長さや角度に寸分の狂いなく鉋で削る。実際に自分で組んでみると、パーツがピタリとはまる瞬間が気持ちいい! 精緻な技を実感できる体験だ。

「和の文化は再生できるのが特徴」と大湊社長。
「和の文化は再生できるのが特徴」と大湊社長。

『大湊文吉商店』の屏風づくりは、加茂で和紙製造が盛んだったことにも起因する。加茂紙は江戸時代に年貢の代わりに農業の傍ら漉いて納めた御用紙が起源とされ、明治~大正時代には県内一の和紙生産量を誇った。

しかし、1990年代に生産が途絶え、それを復活させて継承すべく立ち上げられた施設が『加茂紙漉場』だ。技術を継承する鶴巻由加里さんの紙を漉く動作は職人そのもの。大きな判型の紙も一人で簀桁を操って漉くという。一度は消えかけた伝統工芸の灯火が、再び静かに明かりを宿し始めている。

木工と和紙を体験できる加茂の伝統工芸

『大湊文吉商店』組子コースターづくりで体感する繊細な技術

コースターづくり体験の様子。
コースターづくり体験の様子。
工場内には驚くほど大きな組子作品も。
工場内には驚くほど大きな組子作品も。

まずは木材加工の工場を見学し、自分の手で組子細工を組み上げるコースターづくりを体験。小さなパーツ同士が支え合って成り立つ模様に納得し、幅も角度もぴったり収まる0.1mm単位の精度に感激する。

☎0256-52-0040
JR信越本線加茂駅から徒歩25分

『加茂紙漉場』伝統技術にふれつつ和紙を漉く

できあがった和紙は持ち帰れる。
できあがった和紙は持ち帰れる。
仕上がりの肝となる原料の一つ・トロロアオイ。
仕上がりの肝となる原料の一つ・トロロアオイ。

技術継承のために2011年に開設された施設で、現在は鶴巻由加里さんが唯一の担い手として楮(こうぞ)を蒸すところから手がける。手順やコツを教わりながら自分の手で漉いた加茂紙は、ムラや凸凹も愛おしい。

☎0256-52-4184
JR信越本線加茂駅から徒歩10分

ココでも加茂を満喫!

製材会社の事務所だった築95年の建物で昨年オープンしたカフェ『KIDORI』は、コーヒーとよく合う焼き芋ブリュレが自慢の一品。

JR信越本線加茂駅から徒歩16分

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カトラリーの本場・燕の工場見学&体験旅

大きさや角度など細部まで考え抜かれた、『片力(かたりき)商事』のカトラリー。
大きさや角度など細部まで考え抜かれた、『片力(かたりき)商事』のカトラリー。

信濃川の両岸に広がる燕市と三条市は、いわずと知れた金属加工技術の集積地。「燕三条」とセットでその名が知られているが、歩んできた歴史、文化や人情、得意分野も異なり、個性が楽しい町だ。

燕には、『玉川堂(ぎょくせんどう)』などで知られる鎚起銅器の技法が江戸時代からの伝統として続いている。大正時代には第一次世界大戦の影響で海外からの注文を受けて洋食器の生産が始まった。販路はやがて国内にも広がり、現在、燕のカトラリーの国内生産シェアはなんと9割以上。

カトラリー工場を営む『片力商事』は、地域でなじみある呼び方でいえば「匙屋(しゃじや)」。大量の金型が整然と並ぶ工場では大きな機械がいくつも動いているが、これを使いこなすのは職人の技だ。また、地元の料理店・明治屋は「産業に興味をもって燕に来てくださる方の思い出のお手伝いをできれば」とカトラリーを使ったランチを開発中。

時代に合わせて臨機応変に対応しながら地場産業を成長させてきた燕は、これからもその魅力を磨き上げていくのだろう。

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品質を磨き上げる燕の技術を体験

『片力商事』カトラリー工場で匙ができあがるまでを見届ける

一つ一つプレス機にかけて丸みをつける。磨く場所や角度が異なる研磨機が並び、工程を経るほどに美しい光沢が現れる。
一つ一つプレス機にかけて丸みをつける。磨く場所や角度が異なる研磨機が並び、工程を経るほどに美しい光沢が現れる。

研磨工場としての創業に始まり、キッチンツールのほかアウトドア用品も製造する工場。1枚のステンレスの板から見慣れたスプーンの姿になるまで、型を抜いて延ばし、プレスして磨く、丹念な作業にほれぼれする。

☎0120-200-845
JR弥彦線燕駅から車10分

『ミノル製作所』へら絞り加工の職人技に瞠目する

小ロット製造と一貫生産ラインを武器にするミノル製作所で、社員のアイデアで始まったというオープンファクトリー。金属の状態を感じ取りながら全身を使って形づくるへら絞りは、素材と対話しているかのよう。

☎0256-47-1364
JR弥彦線燕駅から車5分

『燕市産業史料館』錫のぐい呑みをつくる

力加減が難しいが、うまく叩けるといい音がする。
力加減が難しいが、うまく叩けるといい音がする。
世界に一つのマイぐい呑みが完成!
世界に一つのマイぐい呑みが完成!
館内のコレクション。
館内のコレクション。

段階に応じた大きさの木枠に沿って木槌で錫を叩いて形づくるぐい呑み製作体験は、金属の特性を自分の手で実感。産業史料館では燕市の歴史や技術を学び、ずらりと並ぶ実物の製品や貴重なコレクションも必見。

☎0256-63-7666
JR弥彦線燕駅から車7分

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刃物づくりのまち・三条で味わう切れ味と粋の旅

石川製作所で鍛造する『かじ兵衛(へえ)』のマキリ包丁や三徳包丁
石川製作所で鍛造する『かじ兵衛(へえ)』のマキリ包丁や三徳包丁

三条は刃物の製造が盛んな鍛冶の町。地域に鍛冶屋が増えた江戸時代、金物専門の商人「三条商人」が生まれ活躍したことで全国に販路が広がり、さらに発展した。老舗の金物専門店『刃物の中伊』の圧倒的な品ぞろえは、その歴史を物語る。

『刃物の中伊』には包丁や農具のほか、三条市の爪切りメーカーSUWADAの商品も。
『刃物の中伊』には包丁や農具のほか、三条市の爪切りメーカーSUWADAの商品も。

また、東三条駅から歩いて6分ほどの場所にある『石川製作所』は、扉の奥にむかしながらの“鍛冶屋”の工場が広がっている。

「鋼を熱して叩き、組織を細かくすることで強度を上げ、焼き入れと焼き戻しで硬さと粘りを調節する」と鍛造の工程を説明する石川貴大さんは、13年ほど前に家業を継ぐ決意をしたという4代目。切れ味や、研いで長く使える鋼の刃物の特徴は、伝統の技術をさらに深めながら熱しつづける三条の矜持ともいえる。

できあがった製品だけではわからない、工場を訪ねてつくり手と会い、技術を実際に現場で体験するからこそ感じる、ものづくりのまちの底力その感動は、自分でつくった作品を持ち帰り、使うときにまた蘇る。ものづくりのまちを訪ねる旅は、日常をも特別にしてくれる。

鍛冶文化を継承する三条の技を体感

『刃物の中伊』多種多様な金物の世界に酔いしれる

商品の説明をする店主の高橋啓子さん(奥)。
商品の説明をする店主の高橋啓子さん(奥)。

刃物がところ狭しと並ぶ店内はまるで博物館! 文久2年(1862)創業の刃物専門店は、刃物好きなら眺めているだけで半日は過ごせる。数年前までは鋸のこぎりの製造もしており、三条出身のジャイアント馬場が使った巨大な鋸も展示。

☎0256-32-1980
JR信越本線・弥彦線東三条駅から徒歩5分

『石川製作所』鍛冶屋で仕上げ研ぎを体験する

プロの研ぎを間近に見て、素人との違いを実感できる。
プロの研ぎを間近に見て、素人との違いを実感できる。
各工程の作業場が並ぶ工房に立つ、4代目の石川貴大さんと妻の優衣さん。
各工程の作業場が並ぶ工房に立つ、4代目の石川貴大さんと妻の優衣さん。

漁師が使うマキリ包丁のほか、菜切・鯵切など30種ほどの包丁を手がける工房。鍛造の現場を見学したら、最後の仕上げとして研ぐ工程を体験できる。角度や力加減を探りながら鋼と向き合う作業は夢中で無言になる。

☎0256-35-0035
JR信越本線・弥彦線東三条駅から徒歩6分

ここでも三条を満喫!

数々のフルーツが店頭に並ぶ『たからやフルーツ』に寄り道。丁寧に食べ頃をチェックしてもらい、地元産の包丁で切った果実を試食。

JR信越本線・弥彦線東三条駅から徒歩2分

JR在来線で行く 駅から工場見学&体験ツアー

ツアーは原則として月~金曜、7日前までにメールで要問い合わせ
[email protected](加茂いいかもプロジェクト実行委員会)

【加茂コース】
加茂駅前に9:40集合、16:30解散
1万8500円〜

【燕コース】
燕駅前に9:15集合、15:30解散
4万円〜

【三条コース】
三条駅前に9:15集合、15:30解散
2万9000円〜

※専属ガイドが案内。最少催行人員は3名。料金は集合場所までの交通費と訪問先での買い物代を除く

「加茂いいかもプロジェクト」って?

新潟県の県央(中央部)に位置する加茂市を拠点に、三条市や燕市など個性的なマチ、ヒト、モノ、コトをひとつひとつ丁寧に探し回りながら、もしかしたらコレって「いいかも?」という新たな発見や価値を創り出し地域住民とファンとが一緒になってまちを楽しみ、育て、繋がるための官民一体となったまちづくり活動。

加茂いいかもプロジェクト実行委員会
https://www.iikamo.info/

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取材・文=中村こより 撮影=オカダタカオ 協力=加茂いいかもプロジェクト実行委員会
『旅の手帖』2026年3月号より