ぬる湯だからこそ得られる悦楽

飛鳥(あすか)時代後半の開湯と伝わる田沢温泉。古くから湯治場として親しまれてきた。3月中旬まで、約70本の竹灯籠が敷地内を幻想的に照らす。
飛鳥(あすか)時代後半の開湯と伝わる田沢温泉。古くから湯治場として親しまれてきた。3月中旬まで、約70本の竹灯籠が敷地内を幻想的に照らす。

青木村の山間に佇む『田沢温泉 富士屋』は“ぬる湯の贅沢”を教えてくれる場所だ。

露天風呂の温度は38~39度、内湯は少し熱め——といっても40度前後。熱湯好きにはややもの足りない数字にも見えるけれど、長湯の叶うぬる湯だからこそ得られる悦楽がある。

「30分、40分と湯に浸かれば、玉のような汗が吹き出ますよ」館主の武井功さん。

湯に含まれる成分が“羽衣”と化して全身を包み込むため、低めの湯温も気にならない。むしろ、じっくり湯に浸かれることで深部体温が上がり、類まれなぽかぽか感を実感できる。

オーバーフローの極上ぬる湯! ㏗9.7の弱アルカリ性。
オーバーフローの極上ぬる湯! ㏗9.7の弱アルカリ性。
古い角質が取れ、保湿効果もあるので、つるつるの美肌に。
古い角質が取れ、保湿効果もあるので、つるつるの美肌に。
寝湯も備えた露天風呂。町明かりの届かない山間の立地のため、夜は星空が美しい。寝湯に浸かりながら満天の星を眺める気分は格別。
寝湯も備えた露天風呂。町明かりの届かない山間の立地のため、夜は星空が美しい。寝湯に浸かりながら満天の星を眺める気分は格別。

さらには、体温が徐々に上昇することで副交感神経が優位に働き、リラックス効果も期待できるとか。

「『血流がよくなり末端冷え性が回復しました』という声もよくいただきますね。深部体温が上がれば、免疫力も上がる。古くから子宝の湯、不老長寿の湯と呼ばれてきたのは、体の芯から温まれるお湯だからなのでしょう」

「芯まで温まるのでぐっすり眠れます!」と武井さん。
「芯まで温まるのでぐっすり眠れます!」と武井さん。
前菜からデザートまで手作りにとことんこだわった自慢の料理。
前菜からデザートまで手作りにとことんこだわった自慢の料理。

手間を惜しまず、ほぼすべてを手作りで仕上げる料理もまた、湯にも劣らぬ『富士屋』の誇り。

地元食材に寄り添い、その日のゲストのためだけに考え抜かれたひと皿は、温泉と同じく心身を癒やす力に満ちている。

専用の半露天風呂が付いた特別室。窓からは庭園を望む。
専用の半露天風呂が付いた特別室。窓からは庭園を望む。
住所:長野県青木村田沢2689/アクセス:北陸新幹線上田駅からバス35分の青木バスターミナル下車。バスターミナルから送迎あり(要予約)

取材・文=松井さおり 撮影=平松マキ
『旅の手帖』2026年2月号より