“時のまち”で一瞬のセリにかける男たち

雑木林の坂を抜けると、月照寺へと続く石畳の道が現れた。見上げれば、季節はずれの赤トンボ。東経135度の日本標準時子午線の標示柱である、トンボの標識だ。

「子午線が通る明石と、世界の標準時の基準、グリニッジのあるロンドンに思いを馳せ、東経135度兵庫ドライジンをつくりました」とは、『明石酒類醸造&海峡蒸溜所』の米澤仁雄(きみお)さん。

ロンドンジンに必須のコリアンダーなどをベースに、ユズや山椒、シソといった兵庫県産のボタニカルも加え、香りのグラデーションを堪能できる。

日本標準時子午線上にある月照寺の梵鐘。その下の子午線LEDラインは15分ごとに点滅する。
日本標準時子午線上にある月照寺の梵鐘。その下の子午線LEDラインは15分ごとに点滅する。
塔時計が立つ明石市立天文科学館(臨時休業中。2026年夏に再開予定)や月照寺を結ぶ回遊路・時の道。
塔時計が立つ明石市立天文科学館(臨時休業中。2026年夏に再開予定)や月照寺を結ぶ回遊路・時の道。
道沿いには子午線の標示柱となるトンボの標識や、干支(えと)の標柱がある。
道沿いには子午線の標示柱となるトンボの標識や、干支(えと)の標柱がある。

「富士せんべい」の愛称で親しまれる『富士の山菓舗』のせんべいにも“しごせんのまち”の文字が。

7代目の原田岳秋さんいわく「明石市のマンホールの絵柄を、煎餅に焼きつけました」。新商品の明石まんほぉる煎餅のほか、明石海峡大橋や明石城をあしらったせんべいもあり、お土産にもってこい。

世界で2番目に長い吊り橋が架かる明石海峡には、明石の海が豊穣である秘密が隠されている。

『富士の山菓舗』の初代が富士詣の帰路、大阪でつくってもらった煎餅の型。
『富士の山菓舗』の初代が富士詣の帰路、大阪でつくってもらった煎餅の型。

「播磨灘と大阪湾を結ぶ幅約4㎞の海峡は、潮の流れが速く激しい。潮流に鍛えられた明石のタイやタコは、身が締まり旨味も強くなります」と明石浦漁協の土井祐介さん。播磨灘には、鹿ノ瀬(しかのせ)という砂場のような浅瀬があり、プランクトンや小魚が憩う。それを餌として求めて多くの魚がやってくるため、好漁場となるのだ。

「明石港では揚がった魚介を海水かけ流しの水槽で生かしておきます。漁でストレスのかかった魚をいったん落ち着かせたあと、昼網と呼ばれる昼の市で生きたままセリにかけるんです」

明石浦漁協の漁師さん。背後には巨大な水槽。
明石浦漁協の漁師さん。背後には巨大な水槽。
3月までの大漁旗や夏の七夕など季節の飾りつけで盛り上がる魚の棚商店街。
3月までの大漁旗や夏の七夕など季節の飾りつけで盛り上がる魚の棚商店街。

『魚利商店』の大東利通さんは締め方にも明石のこだわりがあるという。

「競り落とした魚をさらに自分たちの水槽で活け越しし、死後硬直を遅らせる神経抜きで締めるんです、ほら」と持ち上げた店頭の明石鯛は、弾力があってクネッと体が曲がる。新鮮な証しだ。

元明石浦漁協の職員・山嵜清張さんは「地元で明石の魚が味わえる店を」と『嵜(さき)』を開業。「明石は魚自体がおいしいから、理は切る・焼く・煮るとシンプル、味つけも薄化粧でいいんです」

明石鯛の刺身を塩で試したく、訪ねると「ご用意ありますよ」。口に運べば、ほのかな甘みと深~い旨味にエビス顔!

例年3月下旬~4月上旬、約1400本の桜が咲く明石公園(写真=明石観光協会)。
例年3月下旬~4月上旬、約1400本の桜が咲く明石公園(写真=明石観光協会)。
『あかし多幸(たこう)』の明石焼15個900円。北海道産昆布とカツオの出汁に浸して味わう。
『あかし多幸(たこう)』の明石焼15個900円。北海道産昆布とカツオの出汁に浸して味わう。
『あかし多幸』代表 安原宏樹さん。「明石には個人商店健在の商店街がいっぱいあるのでぜひ散策を!」。
『あかし多幸』代表 安原宏樹さん。「明石には個人商店健在の商店街がいっぱいあるのでぜひ散策を!」。
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『明石酒類醸造&海峡蒸溜所ビジターセンター』明石や兵庫ならではのフレーバーも

ツアーではウイスキーを蒸溜する2基のポットスチルを見学可能。
ツアーではウイスキーを蒸溜する2基のポットスチルを見学可能。
ウイスキーのもろみをチェックする代表の米澤仁雄さん。
ウイスキーのもろみをチェックする代表の米澤仁雄さん。
兵庫県産山田錦で醸す「明石鯛特別純米」720ml2090円や、「東経135度兵庫ドライジン」700㎖2530円など。
兵庫県産山田錦で醸す「明石鯛特別純米」720ml2090円や、「東経135度兵庫ドライジン」700㎖2530円など。

梅酒樽で半年間熟成させたウイスキー、波門崎(はとざき)梅酒カスクフィニッシュ9680円や、明石産の海苔を使ったスピリッツ・海苔スピ1100円など、各お酒に個性あり。ビジターセンターでは各種有料試飲や、どぶろくなど限定品の販売も。

☎078-919-1087
10:00~17:30
火休(見学ツアーは土・日・祝を中心に開催、要予約。ウイスキーのテイスティング付きで3000円)
兵庫県明石市大蔵八幡町1-3
山陽電鉄本線大蔵谷駅から徒歩8分

『魚利(うおり)商店』料理人からの信頼も厚い一流の目利き

「4月からは袋状の網でタイを取り囲む五智網(ごちあみ)漁が解禁されます」と3代目の大東利通さん。
「4月からは袋状の網でタイを取り囲む五智網(ごちあみ)漁が解禁されます」と3代目の大東利通さん。
タイ・タコ・アナゴなど明石の目の前の浜でとれた“まえもん”がそろう。
タイ・タコ・アナゴなど明石の目の前の浜でとれた“まえもん”がそろう。

昭和26年(1951)創業の鮮魚店。3代目自らが明石浦漁港の昼網のセリや、神戸の中央市場から仕入れる鮮魚が美しく並ぶ。白あら味噌につけるサワラや明石鯛の味噌漬け各500円も絶品。「早い潮流の中で筋肉質に育った明石ダコもぜひ」。

☎078-911-2946
9:00~16:00
月・火休
兵庫県明石市本町1-1-10
JR山陽本線明石駅・山陽電鉄本線山陽明石駅から徒歩5分

『手焼せんべい 富士の山菓舗』江戸時代末期から変わらぬ手焼きの味

生姜砂糖を塗り炭火で乾かす看板商品の富士せんべい1袋350円や、明石まんほぉる煎餅1箱500円など。
生姜砂糖を塗り炭火で乾かす看板商品の富士せんべい1袋350円や、明石まんほぉる煎餅1箱500円など。
気温や湿度により焼く時間を調整。
気温や湿度により焼く時間を調整。

きめ細やかな小麦粉を用いて手焼きするせんべいは、カリッとしつつ口どけよし。6代目・原田貞(ただし)さん考案、明石の味つけ海苔を付けた海峡ちどりや、7代目が考えた卵不使用・ノンたまごおせんちゃん350円などアイデア商品も!

☎078-911-2479
9:00~19:00
火休
兵庫県明石市本町1-13-20
JR山陽本線明石駅・山陽電鉄本線山陽明石駅から徒歩8分

『龍(たつ)の湯』水平線上の大橋を眺めて外気浴

男女とも露天の展望風呂のみが温泉(写真は男湯)。
男女とも露天の展望風呂のみが温泉(写真は男湯)。
「2階には巣籠もりスペースや自由に読めるマンガも用意しています」と支配人の山岡洋介さん。
「2階には巣籠もりスペースや自由に読めるマンガも用意しています」と支配人の山岡洋介さん。

広い露天風呂には4種の浴槽があり、一段高い展望風呂や外気浴のイスからは明石海峡大橋を一望。内風呂には5段のタワーサウナがあり、一日3回ロウリュウも。入浴後は、マッサージチェアやカフェエリアがある2階の休憩処でリラックス。

☎078-912-1268
9:00〜翌2:00(土・日・祝は7:00~)
奇数月の第3火休
平日800円~
含鉄(Ⅱ)-ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-塩化物温泉
兵庫県明石市大蔵海岸通1-2-2
JR山陽本線朝霧駅から徒歩9分

『明石の魚 嵜(さき) ~SAKI~』仕入れの九割九分が明石の魚!

明石鯛をはじめ、おまかせ三種盛1320円、たこのやわらか煮1078円(奥)など。来楽特別純米一合1353円など地酒も充実。
明石鯛をはじめ、おまかせ三種盛1320円、たこのやわらか煮1078円(奥)など。来楽特別純米一合1353円など地酒も充実。
山嵜さんの実家は代々の漁師。
山嵜さんの実家は代々の漁師。

山嵜清張さんは水産庁から“お魚かたりべ”に任命され、学校教育などで魚食文化の普及に貢献。「明石の魚のうまさを伝えるため、極力シンプルな味つけで提供しています」。透明な出汁のオニオコゼの煮付け1650円でその味を実感。

☎078-945-6994
17:00~20:30LO(日はコース料理のみの予約営業)
月休
兵庫県明石市本町1-9-7
JR山陽本線明石駅・山陽電鉄本線山陽明石駅から徒歩7分

昼市のセリのスピード感に圧倒!明石浦漁業協同組合セリ市

全国的に珍しい昼市を、仲買人たちの側で見学できる。基本は生きている魚をセリにかけるので、漁協の水槽から箱ごとローラーに載せられ、セリ台へ。一瞬で競り値が決まり、仲買人の水槽へ素早く運ばれる。セリ人の「アリマルゥ!」などの威勢のいい符牒(ふちょう)も楽しい。

☎ 078-918-5080(明石観光協会)
10:40に明石浦漁協集合、所要約1時間(1週間前までに要予約、申込可能人数2〜10名)
水・日休
1500円
兵庫県明石市岬町33-1
JR山陽本線明石駅・山陽電鉄本線山陽明石駅から徒歩22分

明石浦漁業協同組合の土井祐介さん。春はアブラメやオコゼ、クロメバルなどが旬を迎えますよ。
明石浦漁業協同組合の土井祐介さん。春はアブラメやオコゼ、クロメバルなどが旬を迎えますよ。
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取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2026年3月号より

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東海道五十三次の42番目の宿場として栄え、いまもおおよそ1㎞四方のめぐりやすい範囲に史跡が点在する桑名。ハマグリをはじめ、名産品も多い美(うま)し国・三重の玄関口で“新旧のいいもん”を訪ねた。
修験道の開祖とされる役行者(えんのぎょうじゃ)が開山した、大峯山(おおみねさん)。洞川(どろがわ)地区は、標高1719mの霊峰へ向かう修験者をもてなす行者宿として栄えてきた。近年は温泉街・避暑地としても人気を博す山岳信仰の里を歩いた。