鶴田真由
つるた まゆ/神奈川県鎌倉市出身。1988年の俳優デビュー以降、ドラマ、映画、舞台など幅広く活動。旅番組やドキュメンタリー番組への出演も多く、2008年には第4回アフリカ開発会議の親善大使に。現在、さまざまなアーティストとジャンルを超えた活動を精力的に行い、写真や詩、映像などクリエイションの場を広げる。著書に『ニッポン西遊記古事記編』(幻冬舎)ほか。
Instagram:@mayutsuruta
——2025年10月に京都の光明院で行われた写真の展覧会「水織」を動画で拝見し、とても惹かれました。
鶴田 光明院での展覧会が決まってから、ここで展示をさせていただけるならどんな展示がふさわしいだろう、と重森三玲の「波心庭(はしんてい)」を眺めながら考えました。光明院は禅寺なので「波心庭」は心の様子を波に見立てたのではないかと思い、波の写真にしようと決めました。
今回選んだ撮影場所の淡路島と琵琶湖は相似形になっていて、陰と陽をなしているといわれています。ちょうどその真ん中に京都がある。ならば、2つの水面を撮って陰陽統合のようにしたらおもしろいのではないかと思ったんです。
調香師の沙里さんと3日間ほど旅をして撮影しました。淡路島では、沼島(ぬしま)という『古事記』の国生みの地といわれる島に行ってきました。
その場に佇み、人の思いや物語を想像する創造旅
——写真と香りを組み合わせる展示でしたね。
鶴田 沼島に石英という火打石にもなる石があるのですが、沙里さんはその場で香りを聞いて「ここから香りが取れる」と。それで香りは石英から抽出することにしました。いまは一緒に旅をしながら創作することを楽しんでいます。
——山口県のアート・プロジェクト(山口ゆめ回廊博覧会主催。映像作品『いつか二人で来た道』ほか)でも旅をされていましたね。
鶴田 音楽家のharuka nakamuraさんと、山口県内で土地が記憶を宿し、物語が生まれそうな場所を事前に調べ、めぐりました。
戦中にレールがはずされ緑に覆われた鉄道トンネルや、鍾乳洞のある場所、隠れキリシタンが山口まで逃れてきて亡くなった場所……。
目には見えない人の思いや物語を想像しながら、その場のインスピレーションで浮かんだことをスマホのボイスレコーダーに吹き込み、詩を作りました。harukaさんは即興を大事にする方なので、その“場”と共振し音楽を生み出すんです。その場からいただいたもので創作するということを、harukaさんから教わりました。
——俳優としても、作り手としても人生を振り返って、忘れられない旅はありますか。
鶴田 20代後半に初めてのひとり旅で行った屋久島かな。宿の家族に溶け込んで、一緒に配膳を手伝うなどしていたんです。お父さんがとても素敵な人で、砂浜に夕日を眺められるお風呂を作ったり、宿のそこかしこにお父さんの哲学が詰まっていました。
お客さんもおもしろい人が集まっていましたね。ちょうど屋久島が世界遺産になった頃で、横に座っていると私もお父さんから「あなたはどう思いますか?」と意見を聞かれたりして。
——人や大自然とふれあう旅はもちろん、全国の祭事にも行かれていますが、印象に残っている行事などはありますか?
鶴田 伊勢神宮の前回の式年遷宮(2013年)のときに取材をさせていただいたのですが、やはり祭祀中はただならぬご神気に包まれ、とても静謐(せいひつ)で美しかったです。
伊勢神宮の祭祀は、すべて衣食住に関わることなんですね。建物を建てること、食べ物を食べること、布を織ること。それもすべて、むかしながらの技術を引き継いで行われています。
20年ごとに行われるのは、次の担い手を育てるためでもあるんです。伊勢神宮にはいまでも生きた叡智が残っている。それって素晴らしいことですよね。
ニッポンをもっと知りたい! 結成された仲間“西遊記”
——『古事記』をめぐる著書でも伊勢神宮へ行かれていました。神話に惹かれたきっかけは?
鶴田 上皇の天皇陛下御即位20年の祝賀式典にお招きいただいたのがきっかけでした。天皇皇后両陛下が二重橋にお出ましになられたとき、皇居広場に提灯を持って集まった約3万人がいっせいに国旗を振ったんです。その様子に、この国の精神性は一体どこからきているのか、と疑問に思ったことが始まりでした。
そうしたら、その年の暮れに、ある忘年会で旅が好きなフォトグラファーと出会ったんです。彼はずっと海外の聖地を撮ってきたけれど、最近は日本に興味が湧いて、歴史や宗教に詳しい人に話を聞きながらめぐっていると。私もそんなナビゲーターがほしいと思って、どんな方か尋ねてみたら、なんと私の高校時代の友だちで(笑)。
それからすぐ、みんなで会おうとなって。そのとき集まったメンバーで盛り上がり、『古事記』を読み解きながら旅をしようと、雑誌社に企画を持ち込み、翌々月には連載が始まったんです。
男性3人と私の4人で「ニッポン西遊記」と名づけ、日本各地をめぐりました。それまで『古事記』の知識はほとんどなかったので、読み解き方を教わりながら旅をしました。『古事記』には、史実が隠喩となってたくさん詰まっているのですね。とてもおもしろかったです。
——西遊記メンバーで、不思議な出来事にも遭遇したとか?
鶴田 琵琶湖の北部に竹生島(ちくぶしま)という島があり、龍神が湖から上がってくるといわれる鳥居がほとりにあるんです。いまは水際まで下りることはできないのですが、当時は下りられたので、みんなで鳥居に向かって手を合わせていました。
すると、急に水面がぐるぐると渦を巻き、バシャバシャと跳ねだして、やがて龍が立ち上る気配とともに、何かが鳥居を駆け上がっていったんです。みんな息を呑んだまま、目が点になっていました。全部で数十秒ほどの出来事だったかと……。
その旅から帰ったあとに、琵琶湖を舞台にした映画(『MotherLake』2016年公開)のお話をいただきました。もしかすると、その龍神様がくださったお仕事だったのかもしれませんね。
——なんと尊い体験! これから行きたい場所はありますか?
鶴田 やはり目に見えるものも見えないものも含めて、重層的な物語が記憶されているところがいいですね。きちんと闇が存在し、自然が残っている場所には、目に見えないものたちも息づいている。虫の声や、動物が夜歩いている気配が感じられる場所に想像力をかき立てられます。
目に見えないものが息づく、闇がある地がいい
——幼少期に弟さんを亡くし、長く「闇」を見ないようにしていたと著書に書かれていました。
鶴田 死というものから受けた衝撃で、昼と夜なら夜を、現実と非現実なら非現実を封印したように思います。でも大人になり、ものづくりの世界に入ったとき、目に見えない世界や闇は決して恐ろしいものではなく、世界を構成する大切なものなのだ、と思うようになりました。
——生まれ育った鎌倉には、よき闇が感じられる自然がたくさんありそうですね。
鶴田 子どもの頃は、歩くのが好きな祖母と一緒に山へセリやワラビなどを採りに行きました。山に一歩入るとすぐハイキングコースに突き当たるので、こんなところに出た!と冒険がてら、よく友だちとも散歩をしていました。
——鎌倉を旅するなら何がおすすめですか?
鶴田 地元の市場に行ったり、目的のない散歩をしたり、半分そこで暮らしているかのように過ごすのがおすすめです。鎌倉はお寺が多いので、座禅会に参加するのもいいかもしれませんね。
以前、円覚寺の管長さんにお聞きしたのですが、禅寺も衣食住をとても大事にしているんですね。日々の生活の中に禅がある。そして、万物には仏様が宿っているというのが禅の教え。
食事を作るときは食物に心を合わせ、火を使うときは火に心を合わせる。決していまここにない、遠くの何かを見ているわけではなく、「いま」「ここ」に心を合わせるのです。
旅も、その「時」と「場所」に心を合わせると、もう一層深く感じられて、何のためにそこを訪れているのか、見えてくる気がします。それが私にとっての旅です。
思考の痕跡|その原質に触れるまで 鶴田真由 × EPSON CREATIVE SQUARE AKASAKA
俳優・鶴田真由の写真表現とエプソン技術が融合。紙だけでなく、布やPETフィルム、アクリルなど多様な素材にプリントし、空間全体で写真の本質に迫る創造的展示が繰り広げられる。
開催期間●~2026年2月27日の10:00~17:00、土・日・祝休
会場●エプソンクリエイティブスクエア赤坂
https://www.epson.jp/showroom/akasaka/
聞き手=くればやしよしえ 撮影=千倉志野
ヘアメイク=谷川彩霞 スタイリング=平井律子
衣装協力:ジャケット¥52,800、セーター¥30,800、ワンピース¥49,500/パドカレ(パドカレ六本木☎03-6455-5570)、ピアス¥407,000/アレッサンドラ・ドナ(ラ パール ドリエント☎078-291-5088)、リング¥79,200/キノシタパール(☎078-230-2870)
『旅の手帖』2026年1月号より







