眞栄田郷敦
まえだ ごうどん/2000年、アメリカ・ロサンゼルス生まれ。2019年に映画『小さな恋のうた』で俳優デビューし、映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』(2021)と『東京リベンジャーズ』シリーズで第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞の石原裕次郎新人賞を受賞。ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』『どうする家康』『あんぱん』などの出演でも注目を集める。2025年も『ババンババンバンバンパイア』『カラダ探しTHE LAST NIGHT』が公開。
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今回、眞栄田さんが出演する映画は『港のひかり』。その舞台は、石川県輪島市にある漁港。
元ヤクザの男・三浦(舘ひろし)と、交通事故によって両親を亡くしたうえに目が見えなくなり、叔母に引き取られている少年・幸太の交流を描く。
三浦を舘ひろしさんが、成長した幸太を眞栄田さんが演じる。過去を捨てて静かに生きようとする三浦と、周囲に味方がいない幸太。孤独な二人が年の差を超えて心を通わせていく——。
脚本がおもしろくて映像化が待ち遠しかった
——映画のオファーがきたときの気持ちは?
眞栄田 藤井道人監督とずっとご一緒してみたかったので、うれしかったです。脚本を読んで純粋にストーリーがおもしろくて。
幸太の少年時代を演じる尾上眞秀(まほろ)くんから役を引き継がないといけないので、そこが難しいとは思いましたが、何より脚本が早く映像化されるのを楽しみにしていました。
——少年期から青年期へ、役を引き継ぐために工夫した点は?
眞栄田 眞秀くんのお芝居を見させていただきつつ、実際に彼に会ったときの雰囲気を感じながら役をイメージしていきました。
おじさん(三浦のことを幸太はそう呼ぶ)といることで幸太が救われていること、一方で叔母さんの家では暴力を振るわれたりしてつらいこと……。
そうした状況に置かれた幸太のベースを、眞秀くんがしっかりつくってくれていたので助けられました。
少年の頃にある出来事があって、12年後に僕が登場しますが、その間、幸太はどういう生活を送ってきたのか、どんな思いだったのかを、幸太が関わる人たちそれぞれとの場面で表現しないといけないなと思っていました。
職場での姿、おじさんのお世話をしていた荒川さん(笹野高史)との場面、そして少年時代に知り合った恋人のあや(黒島結菜)との空気感、叔母(MEGUMI)との関係。その4場面は、最初に登場するときがすごく難しかったですし、想像力を働かせました。
とにかく大切なのは、幸太がいろいろなことを抱えてはいるけれど、おじさんに救われたことで、大人になって幸せで充実した生活をしているということを表現できたら……という思いでした。
隙をつくってくれる舘さんのかっこよさ
——舘さんとの共演の感想は?
眞栄田 映画『ゴールデンカムイ』(2024年公開)でも共演させていただきましたが、本当にかっこいい。やっぱりね、ものすごくかっこいいんです!
大ベテランであり、大先輩ですけど、とても腰の低い方で、僕らの年代がしゃべりやすいようにすごく隙もつくってくださるんです。いろいろな話を聞かせていただきましたよ。役者としても男としても。
——どんな話か気になります。
眞栄田 秘密です(笑)。
——舘さんとはロケ地の石川や富山でお食事も?
眞栄田 ご一緒できる日数はそれほど長くなかったのですが、結構食事に連れて行っていただきました。イタリアンや洋食屋さんに行ったり、お寿司屋さんに行ったり。
舘さんは、輪島にお気に入りのパン屋さんがあって、そこのクロワッサンが大好きで毎日10個? いや3個かな? 焼きたての時間に買って、食べていらっしゃいましたよ。
——そんな舘さん演じる三浦と幸太の関係が「自己犠牲」というテーマで描かれます。自分を大切にという考えが重視される昨今、ともすれば古いとされることもあるこの言葉をどう捉えましたか?
眞栄田 僕は全然古いっていう印象はなくて、素敵なことだと思います。
何が素敵って、自分を犠牲にしてもいいと思える人と出会えること。みんながみんな、誰かのために生きられるわけではない。
心を動かされた人のために生きられるというのは、覚悟がいることだけどすごいこと。そういう人に出会えることは、素敵なことだと思います。
——幸太は三浦に影響を受けますが、眞栄田さんが影響を受けた方は?
眞栄田 役者でいうと、役との向き合い方に衝撃を受けて以来、リスペクトしている二階堂ふみさん。小さい頃は兄貴(新田真剣佑)でした。
中学高校の頃は先生に恵まれました。中学時代の恩師には礼儀や、生きていくうえで大切なことをたくさん教えていただきました。
高校の担任の先生にも、本当に気にかけてもらいました。二人とも大人になってから食事をしたりしていて、いまでも慕っています。
ラストシーンは舞台のような緊張感!
——印象に残ったシーンは?
眞栄田 舘さんとの終盤のシーンです。石川県輪島市の大沢漁港という港で、雪を降らせてフィルムカメラを5台くらい並べて一発撮り!という状況でした。
スタッフさんから「行ってらっしゃい!」と力強く声をかけてもらいました。まるで舞台のような緊張感で、ものすごく集中力が必要でした。
——今回は全編35㎜フィルムでの撮影。その緊張感はフィルムだから?
眞栄田 芝居をしている側としては、ほかの場面はフィルムであることをそれほど意識せず、普段の撮影と緊張感や集中力は変わらなかったのですが、最後のシーンは特別で。ものすごく緊張感がありました。
——大沢漁港は素敵な場所でしたね。
眞栄田 この港が作品のメインとなる風景で、とても情緒がありますよね。それはこの港の魅力に加えて、キャメラマンの木村大作さんの画の力も大きいと思います。
少年の幸太が暮らした場所であり、僕が演じる大人の幸太にとっては帰ってくる場所。おじさんと船に乗ったり、話をしたりしたいい思い出があるけれど、それだけじゃない、思い出したくないこともある。
港に帰ってくるシーンは、それらが交わってなんともいえない気持ちになりながら演じました。
——クランクアップが2023年12月で、2024年の元日に能登半島地震が発生。大沢漁港も被害を受けましたが、映画に美しい港の姿が残りました。
眞栄田 木村大作さんの画で、舘さんをはじめとする素晴らしい方々が関わった『港のひかり』という作品に港の姿が残るので、それが復興に取り組んでいるみなさんの力になる……かどうかわからないですが、何か少しでも、みなさんの励ましになるようなことがあれば……という思いがあります。
5分間ノーカットでカメラを回し続けたエンドロールにも注目していただければ。
——そんな『港のひかり』には、心に留めておきたい美しい景色や感動の場面がたくさん登場します。劇場のスクリーンで特別な時間を!
11月14日、全国ロードショー 『港のひかり』
地方の港町で漁師として細々と暮らす元ヤクザの三浦は、目が見えず、杖をついて歩く幸太に出会う。両親を交通事故で亡くし、引き取られた叔母やその交際相手から虐待を受ける孤独な幸太に自身を重ねた三浦は、交流を深めていく。目の手術を受けて光を取り戻した幸太はその日以来、行方がわからないおじさんを探すうち、ある秘密を知るのだった——。
出演/舘 ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀、黒島結菜、椎名桔平ほか
監督・脚本/藤井道人
配給/東映、スターサンズ
聞き手=岡崎彩子 撮影=千倉志野
ヘアメイク=MISU(SANJU)
スタイリスト=MASAYA(PLY)
『旅の手帖』2025年12月号より一部抜粋して再構成





