横丁をセレクトしてくれたのは——倉嶋紀和子
くらしまきわこ/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。酒場を日々飲み歩き、テレビ出演など酒をテーマにしたさまざまな活動を展開。2022年度に「酒サムライ」の称号を叙任。
三角市場はここ!
福岡市地下鉄七隈(ななくま)線薬院駅から徒歩3分
ビジネス街に突如現れる昭和レトロな飲食街
博多っ子はあけっぴろげで面倒見がいい。見知らぬ人にもつい世話を焼いてしまう。ゆえに、新たな人のつながりがあちこちで生まれる。その最たる場所が酒場だ。
博多駅と繁華街・天神のほぼ中間に位置するビジネス街で異彩を放つここ、三角市場もその発生率が異常に高い。戦後の闇市が起源の三角市場は、昭和25年(1950)築の木造アーケードの飲食街である。
現在約20店が軒を連ねるが、その多くがカウンターだけの小バコ。この肩ふれあう密度と昭和風情が博多っ子の世話好きを誘発するようだ。
「うちの接客係はお客さん。お客さん同士がおすすめ料理を教え合ったり、話を盛り上げたりしています」と、『酒肆(しゅし)ちろり』の小吉唯幸さん。
そんな博多っ子気質に惹かれ、広島から移転してきた人もいる。鉄板焼きの店『童童(わらべ)』の遠藤祐司さんだ。
「福岡によく遊びに来ていましたが、とにかく人があったかい」と、20年来の店を引き払い、縁もゆかりもないこの地に店を構えた。
『博多酒場 ソルリバ』の塩川龍也さんは、「ここは酒をとおして人がつながる大人の社交場」と語る。
そう、三角市場は年齢、性別、肩書き問わず、呑んべえをやさしく包み込む人情酒場。さまざまなジャンルの店があるのでハシゴするのもいい。締めはもちろん、三角市場の歴史とともに歩んできた『JB’S BAR(ジェイビーズ バー)』。ほろ酔い気分で帰る頃には、移住するか? なんて考えも。
粋な料理に染みる酒、これぞ正統派『酒肆ちろり』
焼酎ブーム最中の開業時から日本酒一徹。酒蔵に足を運び、仕込みも手伝っていたこともある店主・小吉さんが選ぶ日本酒は常時20〜25種。素材を生かし、ひと手間が光る料理とともに左党の心をくすぐる品ぞろえ。
『酒肆ちろり』店舗詳細
居心地よい博多風情と、広島の味と『童童』
福岡好きが高じて広島から移転。お好み焼きやコウネ焼きなどメニューは広島名物の王道ながら、店主のこだわりが唯一無二の味わいを生む。なかでも「厚さ22㎜でないとこの食感は出ん!」と、特注した鉄板で作るやきそばは必食。
『童童』店舗詳細
品ぞろえ福岡一!? の日本酒酒場『博多酒場 ソルリバ』
ホテルシェフだった塩川さんが日本酒のおいしさに開眼。酒がつなぐ縁を大切にしたいと、三角市場内にわずか4坪の極小店で開業。出汁が染みたおでんをおともに、全国の蔵元をめぐって選んだ100種の日本酒が堪能できる。
『博多酒場 ソルリバ』店舗詳細
JBが見守る三角市場のランドマーク 『JB’S BAR』
前身の衣料品店から80年以上の老舗。ある人は「アメリカよりアメリカらしい」と語り、ある人は「日本一の音響」と称する。そんな空間でJBこと、ジェームス・ブラウンをはじめとするソウルミュージックが楽しめる。
『JB’S BAR』店舗詳細
取材・文=宮﨑由希子(aun) 撮影=草野清一郎
『旅の手帖』2024年12月号より