スイスにワインのイメージは?
スイスでは、1年に1億100万ℓ(2023年)のワインが生産され、そのほとんどは国内で消費される。 高品質を保つため、ブドウの生産量が制限されているので、輸出量はわずか1%ほど。なので、なかなか国外で味わうチャンスはない。それならば現地へ行って、たっぷり堪能してしまおう。
スイスの人たちはワインが大好き。国外産のワインも含めた、国民一人あたりのワインの年間消費量のランキング(2024年)で、ルクセンブルク、ポルトガル、フランス、イタリアに次いで第5位に入っている。そんなワイン好きたちが飲んでいる地元のワイン、気になりますよね?
ワインは全26州で造られているが、主な産地は6カ所。最大のワインの里は南部のヴァレー州で、全体の3分の1を占めている。2番目は西部のレマン湖沿い。ここのブドウ畑の一部「ラヴォー地区」は、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。
●スイスワインの世界:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/summer-autumn/wine-tourism/swiss-wine/
ローヌ川はワインの川
ローヌ谷にはロイク、ファーレン、サルゲッシュ、シエールとワインの産地が連なる。
スイスで栽培されている約250種類のブドウのうち、100種類以上がヴァレー州産なのだそう。ローヌ谷を走る鉄道に乗っていると、ロイク~シエール間は車窓に次から次へとブドウ畑が現れる。
このブドウ畑、夏に行った時は緑だったのであまり気に留めなかったけど、紅葉している! 日当たりによって黄色いところ、オレンジのところ、まだ緑のところなど、グラデーションになって、美しいパッチワークの景観を生み出している。
ローヌ川は、源流に近いスイスの上流からフランスへ入ってからの下流まで、ワインの名産地が続くワインの川なのだ。
ヴァレー州のカーヴを訪ねる
シエールにある『シャトー・ド・ヴィラ』へ。貴族の館を利用した建物は、レストランとワインセンター、ワイン博物館になっている。
ワインセンター「エノテーク」は、110軒以上の地元ワイナリーや醸造所から厳選した約650銘柄をそろえており、ここを訪れたら、一気にヴァレーのワインツウに。なかなか手に入らないレアな地ワインをお手頃価格で買えるのもうれしい。
さらに隣のレストランでは、日替わりでセレクトされたおすすめのグラスワインが飲める。
ここで絶対に味わいたいのが、ラクレット。ヴァレー州の名産・ラクレットチーズを溶かし、トロトロになったものを皿にのせ、ゆでたジャガイモに絡めて食べる。でも、各地で食べられるラクレットをなぜここで必ず?
それは、5カ所の異なる産地のチーズを食べ比べできるから。さらにお代わり自由。そんなお店、ここしかない。チーズの味ってそんなに変わるの? と少し訝(いぶか)しげだったけれど、実際に食べてみると……。
「ひと皿目はここのチーズだよ」と、ラクレット担当のおじさんがマップを指さしながら教えてくれる。うん、塩けが効いていて私好み。続いて2皿目は、なんてクリーミー。3皿目も比較的マイルドな味わい。4皿目はバランスがいい。そして最後は、むかしから知っているような、しっくりくるかんじ。
5種5様、まったく味が違うことに驚く。同じような条件の土地で飼育されていても、ミルクの味が変わるのだ。土壌の塩味が出るという。
「さ、お代わりはどうする?」と聞かれ、迷ったあげく、ひと皿目のチーズを。自分好みのチーズを探す楽しみもある。
さて、シエールから少し東へ行ったファーレンに移動。ブドウ畑に囲まれた小さな村には10軒ほどワイナリーがある。そのうちの1軒『シュヴァリエ・バイアール』へ。
金・土曜にオープンするお店では、ワインテイスティングができるので、それを目あてにお客さんがやってくる。
現在ワイナリーを経営する、ジョエルさんの叔父であるアーノルドさんがブドウ畑を案内してくれた。
丘をうねるように並び、ファーレンらしい景観を生み出しているブドウ畑も、アーノルドさんが子どもの頃は草原で牛や羊を飼っていたそうだ。そこを一家が少しずつ開墾してブドウを植えていき、現在のような規模に。
ヴァレーといえば、のブドウの品種はだいたいあるが、珍しいのは、ヴァレー州で作られている独特のブドウ品種の一つ「Gwäss(グヴェス)」。今日、ヨーロッパで栽培されている多くのブドウ品種の祖先と考えられている古い品種で、中世にはフランスで広く栽培されていたが、いまはほとんど見られない。
どんなブドウなのか興味津々な私に、アーノルドさんが畑からおもむろに取ってきてくれた。口の中に酸味がしっかり広がり、おいしい。
お店に戻ってテイスティング。ヴァレープレート(ドライビーフとチーズの盛り合わせ)やコレラの注文もでき、それらをつまみながらワインを味わえる。
『シャトー・ド・ヴィラ』
●シエール駅から徒歩16分
https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/chateau-de-villa/
『シュヴァリエ・バイアール』
●ロイク駅からバス8分のファーレン下車、徒歩3分
ブドウ畑の中で目覚める
ローヌ谷のあちこちでブドウ畑を見てきたが、そんな畑の中に泊まってこそ「グレープ・エスケープ」。スイス政府観光局が案内している宿の中から、気になるB&B2カ所へ。
B&Bとは、Bed & Breakfast(ベッド アンド ブレックファスト)の略で、宿泊と朝食のみをセットにした宿泊施設のこと。個人や家族経営の施設が多いため、アットホームな雰囲気で、オーナーや家族と直接コミュニケーションがとれるのがいいところ。また、地域の生活を間近に感じられるのも魅力。値段もお手頃なので、宿の選択肢の一つに入れてみたい。
1カ所目はシエールにある『カステル・ド・ダヴァル』。ブドウ畑の中をずんずん進んでいくと、丘の上にかわいらしいお城のような建物が見えた。本当にブドウ畑の真ん中、というロケーションに胸が高鳴る。
案内された部屋は、給水塔を利用した3階建て。1階にこの部屋専用の玄関があり、扉を開けたらそこはブドウ畑! 2階は水回り。奥に小さなテラスがあり、ここは隣の部屋と共用。3階がベッドルームだ。正面と横にアーチ窓があり、そこから見えるのはもちろんブドウ畑。
「夕方からワインテイスティングがあるよ」と宿主のブルーノさん。その前に畑とカーヴを案内してもらう。
畑にはあえて雑草を生やし、そこに水を撒くことで雑草からの水をブドウが吸い上げるという、サステナブルなシステムで栽培していた。ブドウだけではなく、桃や洋ナシ、アプリコットなどのフルーツも幅広く作っている。
テイスティングは丘を下ったところにあるお店『コリーヌ・ド・ダヴァル』で。
ブルーノさんのお父さん、お母さんそれぞれの畑のブドウで造った白、ロゼやシードルなど、いろいろ試飲させてもらった。リンゴや洋ナシなどのジュースも味が濃く、フルーツをそのまま食べているみたいだ。
そして目覚めた朝。カーテンを開けるとブドウ畑がばーんと広がり、なんてすがすがしい。朝食に出た、ここで採れたフルーツのジャムが最高。
2カ所目はファーレンにある『B&B ツム・シュライフ』。ブドウ畑の中ではないが、畑もワイナリーも歩いてすぐという好立地。『シュヴァリエ・バイアール』も歩いて2分だ。
築200年ほどの建物をリノベーションしており、内装は客室ごとに異なる。シンプルモダンなデザインとアンティーク家具が調和し、ずっとここにいたくなるような心地よさ。
驚いたのが、地下にあるワインセラー。お店かと思うほどの広さがあり、宿泊者専用だ。ファーレンのワイナリーのものをそろえており、宿でもワインをじっくり堪能できる。さらに部屋の名前も、ファーレンの各ワイナリーというこだわりよう。
一部の部屋にはバルコニーが付いているので、夕日や朝日のブドウ畑を眺める楽しみも。夜は風がひんやりしていたが、星がきれいだった。
ブドウを育て、ワインを造っているその場だったり、すぐそばに滞在して、ブドウやワインに囲まれた一日を送る。これこそローヌ谷伝統の暮らし。少しだけその生活にふれることができた。
『カステル・ド・ダヴァル』
●シエール駅からバス8分のSierre, Ecoparc de Dava下車、徒歩8分
https://www.myswitzerland.com/ja/accommodations/castel-de-daval/
ワイン試飲ツアー:https://www.myswitzerland.com/ja/planning/offers/colline-daval-tasting/
『B&B ツム・シュライフ』
●ロイク駅からバス8分のファーレン下車、徒歩5分
https://www.myswitzerland.com/ja/accommodations/zum-schleif/
【Information】日本からスイスへは
成田~チューリヒ間を約14時間で結ぶ、スイス インターナショナル エアラインズの直行便が週5便運航している
[気候]春・秋は8~15度、夏は18~28度、冬は-2~7度。山岳地帯と麓の村では温度差があり、日中と朝晩の気温差も激しいので、レイヤード(重ね着)が基本。着脱しやすい服装を準備したい
[時差]日本の-8時間(夏は-7時間)
[言語]ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4言語(地域により異なる)。ホテルやお店では英語が通じる
[スイスの情報]https://www.myswitzerland.com/ja/
取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部 協力=スイス政府観光局、スイス インターナショナル エアラインズ、スイストラベルシステム