上山の風土が伝わる一杯を醸したい

こんなところで育つブドウは幸せだな、と思う。『タケダワイナリー』のシャルドネの畑はなだらかな丘陵にあり、向こうには蔵王山が裾野を広げていた。

「もともとブドウ農家をしていた3代目が大正9年(1920)にワイン造りを始めました。上山は昼夜の寒暖差が大きいから、ブドウに酸や糖が蓄えられやすく、皮の色づきもいいんです」と代表の岸平典子さん。斜面が多く水はけのよい点、生育期の年間降水量が少ないため病気にかかりにくい点など、上山の風土すべてがブドウ栽培の味方となった。

「畑の広さは約15ha。有機的方法で土壌を改良しました」と岸平さん。
「畑の広さは約15ha。有機的方法で土壌を改良しました」と岸平さん。

9haという広大な畑でブドウ栽培を行うのが、『ウッディファーム&ワイナリー』。企画営業部長の木村花鈴さんいわく「父が『われわれの住んでいる場所の良さを最大限に表現できるのがワイン!』と考え、醸造を始めました」。ブドウの味を大切にとの思いから、単一ブドウで醸すワインが多く、非加熱・無添加で醸造。エチケット(ラベル)にブドウ畑の絵を採用したのも、畑を大切にしたいとの思いから!

栽培地として魅力を感じ、5年前に移住しブドウ畑を始めたのが『DROP』の出来(でき)正光さん。昨春には、かみのやま温泉街にワイナリー兼ワインスタンドも開業した。

「僕自身、旅先ではワインをとおしてその土地の魅力を知ってきた。ここに旅行へ来る方もワインきっかけで上山のことを知ってほしいし、この店で地元の人との交流が生まれたらうれしいですね」

駅前に『山形ワインカーヴ』ができたのも2023年の春。県内産を中心に90種近くのワインを販売するうえ、十数種のワインをグラス一杯から提供する。新幹線乗車前に一杯やって、土産のワインだって購入できるのだ。

『山形ワインカーヴ』には、ブドウは自分で栽培しつつ醸造は委託という若い作り手のワインも。
『山形ワインカーヴ』には、ブドウは自分で栽培しつつ醸造は委託という若い作り手のワインも。

新たな流れは、ワイン以外にも。2020年には土屋稚(わか)さんが『おかげさま文房具店』を開業。全国から文房具好きが集う店となった。

「マクロビオティックのお店や、カレーが絶品の店など30~40代の方の開業が増えています。いま、かみのやまが熱い!」

熱い話を聞いたあとは、共同浴場で熱い湯を。かみのやまの湯は総じて湯温が高く、芯からジンジン温まる。だからこそ、湯上がり後にしっかり冷やした微発泡の白ワインがおいしくなるというもの。これも一種のテロワール?

共同浴場の『澤のゆ』。一時休館するも、2022年に地元NPOが中心となり復活。
共同浴場の『澤のゆ』。一時休館するも、2022年に地元NPOが中心となり復活。
『澤のゆ』がある武家屋敷通りには、一般公開されている『三輪家』など、4軒の旧武家が並ぶ。
『澤のゆ』がある武家屋敷通りには、一般公開されている『三輪家』など、4軒の旧武家が並ぶ。
郷土資料館として蘇った『上山城天守閣』。
郷土資料館として蘇った『上山城天守閣』。
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『タケダワイナリー』蔵王連峰の麓、100年以上の歴史をもつ

右からドメイヌ・タケダ ベリーA古木4950円、無添加・無ろ過のサン・スフル白2640円、タケダワイナリー ルージュ 赤(辛口)1980円。
右からドメイヌ・タケダ ベリーA古木4950円、無添加・無ろ過のサン・スフル白2640円、タケダワイナリー ルージュ 赤(辛口)1980円。
年間15度前後に保たれる地下樽熟庫。
年間15度前後に保たれる地下樽熟庫。

「自然とケンカをしない自然農法を取り入れ、ブドウもワインも生育・加工状態を見て、必要な分だけ手助けしています」と5代目の岸平典子さん。ショップでは樽熟シリーズなど自社ワインを販売。見学は無料で要予約。

 

☎023-672-0040
10:00~12:00·13:00~17:00、4~11月の日と12~3月の土·日·祝休
山形県上山市四ツ谷2-6-1
山形新幹線かみのやま温泉駅から車8分

『DROP winery and winestand』目指すは水のようにスッと飲める食中酒

Grand ordinaire4400円(右端)など。『DROP』のグラスワインは700円~。簡単なつまみも提供。
Grand ordinaire4400円(右端)など。『DROP』のグラスワインは700円~。簡単なつまみも提供。
フランスやオーストラリアでワインを学んだ、代表の出来さん。
フランスやオーストラリアでワインを学んだ、代表の出来さん。

旅館泊の人にも浴衣でふらっと来てほしいとの思いから、温泉街の真ん中にオープン。この地でむかしから作られているデラウェア、マスカットベリーAなどを減農薬で栽培し、ほぼ無添加で醸造するワインを味わえる。

 

16:00~22:00、月~木休
山形県上山市沢丁2-17
かみのやま温泉駅から徒歩8分

『ウッディファーム&ワイナリー』果樹園が醸す、ブドウが伝わる一杯

アルバリーニョ遅摘み2022(中央)4730円など。ショップでは1杯440円~の有料試飲もできる。
アルバリーニョ遅摘み2022(中央)4730円など。ショップでは1杯440円~の有料試飲もできる。
「自家栽培の洋梨で造るワイン、ぽわぽわポワレブランシェも人気です」と醸造責任者の金原勇人さん。
「自家栽培の洋梨で造るワイン、ぽわぽわポワレブランシェも人気です」と醸造責任者の金原勇人さん。
ブドウ畑の作業体験もできるコテージを昨年開業。
ブドウ畑の作業体験もできるコテージを昨年開業。

50年前に先代がワイン用ブドウの栽培を始め、11年前に現代表がワイン造りを開始。果樹園が母体だからこそ、一杯でブドウのよさが伝わるワイン造りにこだわる。ホームページから見学も受付(要予約。試飲2種付き1200円)。

 

☎023-674-2343
10:00~12:00・13:00~16:00、不定休
山形県上山市原口829
かみのやま温泉駅から車10分

『レストラン ル シエル ブルー』上山の旬が彩る“田舎フレンチ”

夜のコース4180円~の肉料理一例。山形県金山町産米の娘ぶたのグリエ、山形牛スネ肉と金谷ごぼうの赤ワイン煮込み(奥)など。ワインはグラス750円~。
夜のコース4180円~の肉料理一例。山形県金山町産米の娘ぶたのグリエ、山形牛スネ肉と金谷ごぼうの赤ワイン煮込み(奥)など。ワインはグラス750円~。
店内は全10席。快晴時は、店舗奥に蔵王山が見える。
店内は全10席。快晴時は、店舗奥に蔵王山が見える。

山形市出身の赤松克重シェフが地元へ帰郷し、2016年に開店。「ここで開業し、上山の食材の素晴らしさを知りました」。蔵王かぼちゃやマッシュルームなど旬の食材を用い、ブイヨン・水を使わず作るスープは、素材の風味が豊かに広がる。

 

☎023-674-8753
10:00~13:30LO・18:00~20:00LO(夜は完全予約制)、水と第2火休
山形県上山市朝日台1-1-22
かみのやま温泉駅から車8分

 

『はたごの心 橋本屋』温泉のあとは地元食材とワインのペアリング

県産ヒレステーキ朴葉みそ焼きや庄内豚のしゃぶしゃぶ、山形の旬の前菜盛りなどが彩る夕食一例。上山産ブドウのワインは約10種。
県産ヒレステーキ朴葉みそ焼きや庄内豚のしゃぶしゃぶ、山形の旬の前菜盛りなどが彩る夕食一例。上山産ブドウのワインは約10種。
男女ともに露天あり。源泉かけ流し風呂付きの客室。
男女ともに露天あり。源泉かけ流し風呂付きの客室。

スタッフの細かい気配りと和モダンの客室、蔵王石をくりぬいた露天風呂で人気の宿。一日2組限定(要予約、5500円)の貸切展望露天風呂からは蔵王山を一望! 夕食は山形の幸と一緒に上山のワインを。

 

☎023-672-0295
1泊2食1万6650円~、16室
泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉
山形県上山市葉山4-15
かみのやま温泉駅から車7分

『本とカレー喫茶 ペネタ』温泉街散策で読点を打つならここ

香り豊かな無農薬栽培のほうれん草のカレーとサグチキンカレーの2種盛り1300円。4月からは自家焙煎したコーヒーを提供。店主の佐藤さん。
香り豊かな無農薬栽培のほうれん草のカレーとサグチキンカレーの2種盛り1300円。4月からは自家焙煎したコーヒーを提供。店主の佐藤さん。

「人が集まってホッとできる場を」と佐藤友衣子さんが2023年に開業。花や本に囲まれた店内は心なごみ、長居したくなる。カレーは地元農家の野菜が生きるようさっぱりした米油を使い、スパイスを調合。客層が幅広いのも納得だ。

 

11:00~15:00LO、木・日休
山形県上山市十日町3-12
かみのやま温泉駅から徒歩10分

『おかげさま文房具店』思い出を呼び覚ます小さな宝箱

店主の土屋さん。
店主の土屋さん。
『タケダワイナリー』とコラボしたインク各2420円、山形弁定規770円など。
『タケダワイナリー』とコラボしたインク各2420円、山形弁定規770円など。

上山生まれの土屋稚さんは小学生時代からの文房具好き。その思いがあふれ、実家の物置を改装しお店を開始! 5坪の店内にはオリジナルキャラ・ジェントルパンダを配した文具や、昭和に製造されたレトロ文具がところ狭しと並ぶ。

 

☎090-9421-0199
10:00~18:00、火休(不定休あり)
山形県上山市鶴脛町1-11-4
かみのやま温泉駅から徒歩18分

取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2024年5月号より