教えてくれたのは

防災・気象DX本部 気象DX事業部 クリエイティブサービス課所属 高森泰人さん

1995年に日本気象協会へ入社。観光を入口にして気象に興味を抱いた生粋の旅行好きで、全国約1300カ所にあるアメダスめぐりをするのが夢。野沢温泉がお気に入り。

例年の目安をチェック! 全国紅葉見頃マップ

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あんなに青々としていた木々が、まるで魔法をかけられたように秋色に染まってゆく……その美しさを堪能したいなら、自然現象としてのしくみを理解し、気温との相関関係や地形の影響をおさらいしておくべし! というわけで向かったのは、毎年9月末から「紅葉見頃予想」を発表する日本気象協会だ。

「樹木には、年間を通じて葉をつけている常緑樹と冬に葉を落とす落葉樹がありますが、紅葉は落葉樹の葉で起こるものです」と、いろはから説明してくれたのは気象予報士の高森泰人さん。

「秋になり気温が下がると、葉の中の葉緑体が分解されて減っていきます。緑色の色素が減り、隠れていた色素が見えるようになるのが紅葉です」

色が変わる魔法の正体は、冬に向けて樹木が省エネモードになるための準備というわけ。

紅葉の時期に影響するあらゆる要素をチェック

色鮮やかに紅葉する条件は大きく分けて3つ。一日の寒暖差(朝晩の冷え込み)、適度な日差し、そして十分な水分だ。

降水量が少なく水分が不足している状態だと、葉緑体が活性化できず糖を蓄えることができないため、紅葉するより先に葉が枯れ落ちてしまう。酷暑が続いても同じことで、木が疲れてしまい色づきに影響する可能性もあるという。

見頃の時期は基本的に気温の差と比例して、早かったり遅かったりすると考えていい。桜の開花前線は南から北へ、標高の低い場所から高い場所へとのぼっていくが、ちょうどそれとは逆向きだ。

那須高原の茶臼岳なら9月下旬~10月下旬、伊香保温泉は10月下旬~11月中旬、一碧湖(いっぺきこ)は11月中旬~12月中旬が例年の見頃の目安。

「例えば標高599mの高尾山頂上なら、気温は都心と比べて6~7度ほど低いことが多い。そうすると、紅葉のタイミングは都心よりも1~2週間早く、11月中旬からになると考えられますね」と高森さん。

より狭い範囲でも条件によって変わることがあり、放射冷却が起きやすい盆地や渓谷などの谷地形、川のそばで冷えた空気がたまりやすい場所では、日中の寒暖差が大きくなるため、時期が早まったり鮮やかに色づいたりするのだとか。

いつの間にか見頃の時期を逃してしまった!といううっかりさんでも、年内ならギリギリセーフ。「太平洋側の海沿い、特に都心部では12月下旬でも十分楽しめますよ。新宿御苑のメタセコイアや神宮外苑のイチョウ並木(*)は、年末まできれいに見られることが多いです」

(*)再開発の工事に伴い、しばらくは見学できない

旅先の標高差を利用して紅葉前線を追え!

一方で、実は紅葉の見頃予想は難しく、記録的な猛暑が続いている近年は特に困難なのだという。前もって旅行の日程を決めておきたいけれど、紅葉の見頃も逃したくないという場合は、同じエリア内で標高差がある場所を行き先に選ぶのがコツ。

例えば松本に宿泊して乗鞍岳へ向かえば、道中のどこかで見頃の場所に出合える確率が高い。また、日々変化する紅葉の最盛期をピンポイントで狙いたいなどストイックに楽しみたい人は、最新の気象情報をチェックしつつ、直前まで状況を見極めてから出発するというのも一つの手。

「いまだ!という日に向かうのが、なんだかんだで最も確実です。箱根や那須なら首都圏から日帰りでも行きやすいうえに、きれいな紅葉が見られます。気象情報を旅に生かしてみてください」と高森さん。

自然が相手で予定どおりにならないからこそ、美しい景色に出合えたときの感動は格別。予想や下調べも含めて、紅葉狩りを楽しもう。

「見頃の地域は北から南へ、高地から低地へと移っていきます」。
「見頃の地域は北から南へ、高地から低地へと移っていきます」。
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そもそも紅葉のメカニズムって?

葉の細胞の中では光合成が活発に行われ、クロロフィル(緑葉素)という色素が働いている。しかし気温が下がり、日照時間も減るにつれて植物は省エネモードに切り替わり、クロロフィルが生成されなくなる。緑色がなくなったことで、もともと含まれていた黄色の色素であるカロテノイドが見えるようになったり、赤色の色素アントシアニンが作られることで赤く見えたりする。いわば、色の主役の交代が起こっているのが紅葉なのだ。

見頃の予想はどうやっているの?

日本各地の紅葉日と気温のデータとの相関関係を調べ、今年の気温を鑑みて予想する。日本気象協会では、独自の予測式を用いて紅葉日を算出しており、そのアルゴリズムは非公開。しかし、桜の開花予想などと比べて紅葉の見頃を予想するのは難しいのだそう。過去のデータが豊富で定量的な予測がしやすく、平安時代の文献も資料として分析されている桜に対して、紅葉に関しては研究もそれほど進んでいないのだとか。

2025年の全国見頃の傾向は?

8月時点では、全国的に顕著に気温が高い状況が続いてるため、紅葉の見頃も例年に比べると遅くなることが予想される。また、東日本・西日本に比べて北日本は特に高温状態が続いていて、11月も平年より気温が高いことが予想されている。気温の変化や朝晩の寒暖差も大きくなるため、より鮮やかな紅葉が見られる可能性がある一方、場所によっては見頃が例年より遅れ、紅葉が急に進む形になりそうだ。

タイミングよく楽しむためには?

前もって旅行の日程を決める必要があるときは、盆地地形のそばに独立峰があるなど標高差が大きいエリアを狙うのがおすすめ。松本を起点に乗鞍岳へ向かったり、那須塩原から茶臼岳に登る旅程を組んだりすることで、山頂は雪、山間部は紅葉、麓は緑といったようにそれぞれの季節感を味わえる。標高によって紅葉の段階も異なるから、道中のどこかしらでバッチリ見頃の紅葉に出合えるかもしれないというわけだ。

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☆9月18日に第1回「紅葉見頃予想」発表!
全国各地の最新の見頃予想はここでチェックできる。
https://tenki.jp/kouyou/

取材・文・撮影=中村こより
『旅の手帖』2025年10月号より