世界遺産登録から20年。山上の聖地で宿坊を初体験!
誘われて、今年世界遺産登録20周年となる高野山へ1泊2日で行ってきた。初の高野山、初の宿坊……。スピリチュアルなイメージにワクワクする一方、同僚からは「すごくいいところだけど、タバコ、酒には不自由するから、あなたには不向き!」と断言され、一抹の不安も抱えながらの旅立ちだった。
当日はあいにくの雨。南海電鉄橋本駅から車に乗せられ、まず降り立ったのは高野山の入口にあたる大門。雨霧に霞む姿はなんとも神秘的であり、まさに天国の入口の様相だった。高野山では、雨は不浄を洗い流す力があるといわれており、肉食文化を持つ異国の人間が訪れると、お大師様がお山を清めるために雨を降らす、とのこと。俗にまみれた私の訪問時には、必然の雨なのだろう。
大門を後にして、塔や堂が立ち並び曼荼羅世界を3D化した壇上伽藍や、高野山真言宗3600ヶ寺の総本山かつ高野山内117ヶ寺の本坊である金剛峯寺をめぐる。どの建造物も圧倒的に壮麗なものばかりだが、意外なことに高野山内で国宝に指定されているものは、現在では二つのみ。山岳都市であるがため、落雷による焼失が繰り返されてきたのだそうだ。
昼食前、今夜の宿である清浄心院にて護摩行体験に参加。春先になるとプロスポーツ選手が額に汗をにじませながら真剣な表情で護摩行をする姿をTVで観てきたが、私自身は初体験だ。護摩木に娘の受験成功祈願を書き入れ、護摩堂内に並べられた椅子に座って護摩行の開始を待つ。体験者の半数以上がインバウンド客。
僧侶が入場し、不動明王が睨みをきかせる前でお経を唱えながら火を大きくしていく。これを眺めながら待つこと約30分。
案内の方の合図で登壇し、自分のお護摩木を火に投げ入れた。願い事は燃えることによってこの世を離れ、仏様に届くそう。神様仏様、よろしくお願いします! 燃え盛る火を見ているのは飽きないもので、あっという間の体験時間だった。
聖と俗が共存する夜の道で考える
清浄心院から徒歩5分ほどの『天風てらす』で遅めの昼ご飯。ここは2023年4月にオープン。高野山の名産品を集めたセレクトショップとカフェからなる複合施設で、開放的な大きな窓が特徴の建物だ。
いただいたのは、天風ブッタボウルと米粉パンのセット。高野山麓の採れたて野菜などからなる特製菜食プレートだ。全体的にエスニックな味付けで、もちもち食感の米粉パンとの相性抜群。動物性たんぱくは未使用だが、十分な満腹感を得ることができた。
ちなみに、牛肉使用のバーガーセットも置いてあり、お山の上は肉食禁止なのでは?とのイメージを覆させられた。また、お大師様などの絵が施されたラテアートもある。お大師様を飲んでしまっていいんだ?
昼食後、奥の院でお大師様にご挨拶をした後、清浄心院宿坊へチェックイン。案内された部屋は、ふすまではなく壁区切りで洗面台・TVあり、一人には少々広いくらいの個室だ。風呂・トイレは共用だが清潔感あり。
荷を下ろしてすぐに山の日は暮れ、17時30分には精進料理の夕食。麦般若(ビール)を頼もうかどうか、悩んでいるうちに超ヘルシーな料理を食べ終わってしまった。昼食が遅かったので腹具合は丁度いいのだが。時は18時過ぎ……。これからの長い夜をどうしたらいい?
そうだ、コンビニへ麦般若を買いに行こう! チェックイン前に見つけた、宿から徒歩2分の喫煙所で一服の後、コンビニを目指して歩き出した。遠い……。暗い道を2kmは歩いた。
すれ違うのはインバウンド客のみ。麦般若とビーフジャーキーを買い込んだ宿坊への帰り道、裏通りを行くと、一杯飲めそうな町中華やバー、スナックまである! さすがに今回立ち寄ることはなかったが、しっかり共存している俗の世界を見て、なぜか安心した。
翌朝は5時起き。6時半からの朝勤行の前に、改めて奥の院参道へ。雨上がりのマイナスイオン。徐々に白んでいく参道。何らかのパワーを感じる! 気がする。これぞ旅前のイメージどおり。日本人、もっと来ていいんじゃないか、高野山へ。インバウンド客ばかりにこのスピリチュアルなパワーを持っていかれたら、さらに没落するんじゃないか、日本は?と一人憂慮しながら歩いた。
高野山は、桜より紅葉がキレイだそうだ。私のような喫煙者・酒飲みでも意外とストレスなく過ごせることもわかった。次は紅葉の季節に来てみよう。そして裏通りも極めてみよう、と心に誓いつつ、山を下るケーブルカーで帰路へとついた。
清浄心院の詳細
取材・文・撮影=前川ツルコフ