主な登山口へのアクセス
【鳩待峠へは】
上越新幹線上毛高原駅からバス1時間40分の尾瀬戸倉で乗り換えバス35分の鳩待峠下車
【大清水へは】
上毛高原駅からバス2時間10分の大清水下車(~10月20日は新宿から大清水まで高速バスが運行〈約4時間40分、要予約〉)
【沼山峠へは】
会津鉄道会津線会津高原尾瀬口駅からバス2時間の尾瀬沼山峠下車
ゆったり2泊3日で湿原を縦断! 泊まってわかる、尾瀬のよさ
登山、ましてや宿泊を伴う山行だなんてハードルが高いと思う人も多いのではないだろうか。そんな人にこそ尾瀬をすすめたい。
1400m以上の高所にありながら、基本的にはずっと平坦な木道歩き。しっかり装備を整えて準備さえすれば、体力に自信がない人でも安心して山歩きが楽しめる。
山小屋も基本的に2名以上で予約すれば個室に案内してくれるし、小屋内にはWi-Fiもとおっている。湧き水が豊富なことから飲み水も汲み放題で、トイレもウォシュレット。お風呂にも入れてしまう。
そして、ぜひ山小屋に泊まって体感したいのが朝夕の風景。太陽が山の向こうにゆっくりと沈み、橙から群青へと少しずつ変わりゆく空の色。朝、湿原を覆った濃いもやが、日の出とともに晴れていくさま。
思わず息を呑んでしまうような風景は、尾瀬に泊まった人にしか見ることができない特権だ。
今回は数ある尾瀬の山小屋の中でも、尾瀬沼の『長蔵小屋』と尾瀬ヶ原の『尾瀬小屋』に泊まって、2泊3日の充実の山旅へと出かけてみた。
[1日目]尾瀬沼のほとりにある『長蔵小屋』を目指し、沼山峠を出発
都内から特急とバスを乗り継ぎ沼山峠に到着すると、すでに時刻はお昼過ぎ。早出早着が基本の登山においては遅いスタートだが、今回は山小屋に泊まって2泊3日のゆるゆる山歩きなので心配ご無用。登山口に入るとすぐ木道が始まる。
ゆるやかな上りを40分ほど行くと、そこはもう別世界。雄大な尾瀬の湿原の風景が目の前に広がっていた。
ちょうどミズバショウが見頃を迎えていて、リュウキンカやショウジョウバカマなどの高山植物も枯草の下からかわいらしい花をのぞかせている。
平坦な道をさらに20分ほど歩くと、あっという間に本日の宿・『長蔵小屋』に到着した。初代小屋主の平野長蔵氏は尾瀬を開拓した人物で、その後親子3代にわたり自然保護運動を進めてきた。この歴史ある山小屋を、現在は4代目の平野太郎さんが引き継いでいる。
築90年の建物は古きよき趣があり、使いこまれた木の美しさに見とれてしまう。
スタッフの説明を受けてさっそく部屋へ入ると、シラビソに囲まれた絶景の尾瀬沼ビューが眼前に! 日の光に照らされて、まるで北欧の森の中にいるようだ。
「一日として同じ景色がないのが尾瀬沼の魅力。小屋に勤めて長いですが、決して飽きることはありませんね」と、スタッフの小林直樹さん。
夕食後、夕日を眺めていたらすっかり冷えきってしまった体を温めに談話室へ向かうと、そこでは韓国からの団体客がストーブを囲んで談笑中。
「『火曜の旅』、という登山サークルなんです。今回は番外編で日本へ来ました。明日は立山に行きます」と、一人が流ちょうな日本語で教えてくれた。さすが、山の人間は万国共通でパワフルだ!
翌朝は予報とは打って変わって、あいにくの雨模様。しかし雨に濡れた湿原もまた美しい。スタッフの方々に温かく見送られ、第2目的地の尾瀬ヶ原へと向かった。
[2日目]木道歩きを楽しみつつ、本格グルメが味わえる『尾瀬小屋』へ
2日目は尾瀬沼から尾瀬ヶ原まで山歩き。尾瀬沼は針葉樹林が主だったが、白砂峠を越えると次第に広葉樹林へと移り変わっていく。気づけば雨もあがり、3時間弱で6軒の個性豊かな山小屋が並ぶ、尾瀬ヶ原の見晴地区に到着した。
「昭和30年代後半にかけて、尾瀬ブームのピーク時は小屋の定員100人のところ、300人くらい入れていたかな」と教えてくれたのは、『桧枝岐小屋』のご主人ひげくまさん”こと萩原英雄さん。小屋にはシカの生息地調査にやってきた調査員の姿も。尾瀬では近年、温暖化で生息地が拡大したシカによる花の食害が問題になっているという。
『桧枝岐小屋』の向かいに立つのが、今日お世話になる『尾瀬小屋』。2020年に若きオーナーが引き継いだ、新進気鋭の山小屋だ。
「幼いころから山が好きで、恩返しがしたいと思っていて。経営状況も知らないままに事業を継いで、初めは苦労しました」とオーナーの工藤友弘さん。
そんな彼が力を入れているのが山小屋グルメ。この日の夕飯のメインディッシュは豚の赤ワイン煮込み。まるでフレンチのディナーコースだ。「山のご飯だからって妥協したくはない」と工藤さん。
夕食時、同じテーブルには前日に『長蔵小屋』のお風呂で仲よくなった方の姿も。
「今日は三条ノ滝まで行ってきたんです。いままで見たなかで一番素晴らしい滝でしたよ!」
彼女も2泊3日で、まったく同じコースを通って尾瀬を訪れていたのだ。山ではこんな偶然の出会いもあるから楽しい。
翌朝は一路、鳩待峠へ。今回一番の難所、山ノ鼻から鳩待峠まで200mほどの標高差を登り、心地よい疲れとともにゴール!
次は燧ヶ岳と至仏山に登りたいな、どこの山小屋に泊まろうか……尾瀬の魅力に取りつかれた、充実の山行だった。
取材・文=本誌編集部 撮影=白石ちえこ
『旅の手帖』2024年8月号より